地獄兄弟は今日も平和

「仮面ライダーカブト」自己満足スピンオフ(笑)! 矢車・影山の地獄兄弟二次小説

19.地獄の兄弟

俺と一緒に地獄に堕ちるか

俺の、弟になれ



想が瞬を駆け抜けて
 19.地獄の兄弟


ワームを一掃した矢車は、自分について来い、と影山を誘った。
何かの魂胆があるのかもしれない。
少なくとも矢車は自分のことを恨んでいるはずだ。そう思い至り、影山は警戒した。

しかし、結果的に自分からZECTを裏切った影山にもう帰る場所はない。
差し伸べられる手があれば、それに無条件にすがるしか術がなかった。

今の状況は、影山にとってこれ以上ないほどの地獄だった。
だが、矢車と共に行く道は更なる地獄に続いているような気がする。
(もう地獄にだってなんだって堕ちてやるさ・・・)

覚悟を決めたかのように、矢車から投げて寄越されたゼクターを影山は手に取った。
「このゼクターは・・・?」
「俺と対になるライダーだ。ZECTのトップから押し付けられた」
淡々とした矢車の言葉に影山は目をむいた。
「バカな! だって三島さんだって知らないのに・・・」
「ホッパーゼクターの存在を知っているのは、ZECT上層部でも限られている。知らなくて当たり前だ」

影山は驚きを隠せなかった。
"ZECTのトップ"とは、加賀美新の父親・加賀美陸のことだろう。
ZECTを放逐された矢車が、依然ZECTとつながりを持っていたとは。

「・・・ホッパーの存在意義と目的は?」
努めて感情を押し殺しながら影山は尋ねる。
矢車にどんな態度を取ればいいか、分からない。
いろいろなわだかまりが、まだ胸の奥でくすぶり続けている。

そんな影山の様子に、どこか満足げに矢車は答えを返す。
「ネイティヴを含めた全ワームの殲滅。そして、カブトとガタックのサポートもしくは安全装置」
「・・・・・・?」

ネイティヴとZECTの癒着を知らない影山には、矢車の言っている意味が理解できない。
そのことに気付き、矢車はやれやれというようにため息をついた。
「説明は後でしてやる。来るか来ないかだけ、今決めろ」
強引な物言いに、影山は戸惑った。
以前の矢車とは違いすぎる。

「ひとつだけ確認したい」
「なんだ?」
面倒そうに、矢車は目線だけを影山に向ける。
「・・・ホッパーは、人間を守るためのライダーなんだな?」
初めてまっすぐに自分を見つめてくる影山に、矢車の表情が少しだけ変わる。
「そうだ。   安心しろ」

そう答えた矢車の目は、わずかに穏やかな色を見せている。
なんとなく、影山は心の中が晴れるのを感じた。

『安心しろ』

そのひと言を、信じてみようと思った。
たとえ、ZECTを敵に回しても   

矢車に肩を貸してもらい、影山は歩き出す。
「矢車・・・さん。俺、あんたのこと、なんて呼んだらいい?」
「好きに呼べ」
シャドウにいた頃とは何もかも変わってしまった二人だった。
上司と部下で、裏切り裏切られ。
新たな関係を築いていくのに、以前と同じ呼び方はふさわしくない気がした。
気持ちの上で、全てを清算するには時間が必要だろうけれど。

ふと、弟になれ、と言った矢車の言葉が甦った。
(弟・・・か)
もともと影山にとって矢車は兄のような存在でもあった。
「じゃあ、兄貴って呼ぶよ」
まだ少しぎこちない笑顔を影山は浮かべる。

矢車は何も言わなかった。
それは了承の合図なのだろう。

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18.終わりと始まり

陸から渡された、もうひとつのホッパーゼクター

その資格者になるべき人物は既に決まっていた



想が瞬を駆け抜けて
 18.終わりと始まり


影山は焦れていた。
ザビーゼクターを天道から取り返すことは叶いそうにない。
ザビーを失った今、自分はどうしたらいいのか。このままZECTを追放されたらどこへ行けばいいのか。

不安と焦りがじりじりと心に重くのしかかってくる。
普段なら耳を貸さない間宮麗奈の甘言につられたのも、そんな不安で目が眩んでいたからだろう。

『立川というワームを殺すこと』    
それがZECTを裏切る行為であることに、影山は立川自身に指摘されるまで気付けなかった。
麗奈は自分を捨て駒にしたに過ぎなかったのだ。

だがすべてが、もう遅かった。

今まで共に戦ってきたシャドウから砲弾を浴びせられ、麗奈率いるワームになぶり者にされる。
影山は絶望の思いで目を閉じた。
(なんで、こんなことになったのかな・・・)

目を閉じて思い浮かぶのは、昔の記憶だった。

早くに両親を亡くした影山は、あまり恵まれたとは言えない人生を送ってきた。
ZECTという組織の存在を知ったのはほんの偶然から。
まだ学生だった頃、ワームに襲われた影山を救ったのが、その時ZECTで実力を発揮しつつあった矢車だった。
おそらく矢車は、そのことを覚えていないだろうが。

学校を終え自分の進む道を考えた時、影山がZECTに入る決断をしたのには、少なからず矢車の影響があった。
自分もあんな風になりたい、と強く憧れた。

シャドウに入隊し、憧憬と尊敬の対象であった矢車と親しく言葉を交わすようになった頃。
シャドウになかなか溶け込めなかった自分を、矢車は何くれとなく気にかけてくれた。
その当時のことがまるで映画のコマのように、影山の脳裏で何度も何度も再生される。

あの頃が一番幸せだったのかもしれないな、と影山は思った。

「影山・・・、待っていたぞ」

ふいに聞こえたその声に影山は目を見開く。
「・・・矢車・・・」
聞き違いでは、ない。
闇に落ちそうな意識の隅で、影山は矢車の姿をとらえた。

(待っていた・・・?)

矢車は影山を助けようと走りこんでくる。
起き上がりたかったが、傷を負った体は影山の意思通りに動いてくれない。
「つ・・・!」
少し体を動かすだけで激痛が走った。
諦めて視線だけを矢車に向けると、矢車は精鋭部隊と言われるシャドウを次々と蹴り倒していく。

なぜ矢車が自分を助けてくれるのか、影山には分からなかった。
「影山、笑え」
倒れたままの影山に矢車が近づいてくる。
「笑えよ」

矢車の意図を測りかね、影山は問い返すこともできずただ矢車の顔を見つめた。
どこか怯えた表情を滲ませる影山に、矢車は面白くない、とでも言いたげに目線をそらす。

ワームを苦もなく蹴散らす矢車を目の端に映しながら、影山はなんとか体を壁際にもたれさせ座ることに成功した。

助かった、という気持ちは湧いてこない。
むしろ、得体の知れない恐怖が心の中を占めていた。

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17.真実

想が瞬を駆け抜けて
 17.真実


半年ほど前   
ZECTを去った矢車が陸によって初めてここに連れて来られた時、陸は同じように矢車にゼクターを差し出した。
そして、ZECTの真実をすべて矢車に明かした。

ZECTがネイティヴと呼ばれる別種のワームと手を組んでおり、『マスクド・ライダーシステム』はネイティヴの協力の元に生まれたものであること    
陸から語られたその事実に、矢車は愕然とした。

だが矢車を打ちのめしたのは、さらに恐ろしい秘密だった。

「人間をワームに変える・・・? どうしてそんなことをZECTは認めているんですか!?」
ネイティヴは何年もの間、ひとりの被験者を使って人体実験を行っているという。
ネイティヴの協力を必要とするZECTは、被験者はひとりだけにとどめるという条件で、ネイティヴのその要求を飲んだのだ。

手術台に横たわり体にメスを入れられる被験者の痛々しい姿を、矢車は目の当たりにした。
20歳にもなっていないような年若い少年だった。
麻酔が効いているらしく目は閉じていたが、青ざめた顔に浮かべているのは苦痛の表情で。

見ていられず、矢車は目をそむける。
こんなことが許されるのか。

「我々も心苦しいのだよ」
今はまだネイティヴを敵に回す時期ではない、と陸は言う。
「『赤い靴』の発動までは、何があっても沈黙を守り通さねばならない・・・」
ライダー達もやがてはネイティヴに取り込まれる。ネイティヴに対抗できるのは、暴走システムを持つカブトとガタックのみだ。

陸の話を聞きながら、矢車はザビーの紋章のことを思い出した。
ザビーゼクターは、ZECTへの忠誠を強いて資格者の心を支配する。
あの現象は、ネイティヴの技術だったと考えれば納得がいく。

あんなふうにして、ネイティヴは人間の体も心も乗っ取るつもりなのだろう。

「・・・ひとつ、教えてください。半年前、一番初めにザビーの資格者に選ばれた日下部は・・・なぜ、死んだのか」
震える唇で矢車は問いただす。
ずっと胸にくすぶり続けていた疑惑に答えが与えられそうな気がした。
しかし、それは決して好ましいものではない。

「・・・君が思っている通り、だろう」
陸の言葉が無情に響く。

(ZECTに殺された・・・のか)
日下部がどこまでZECTの秘密をつかんでいたのか分からない。けれど正義感の強かった日下部なら、ZECTのこんな非道を黙って見過ごせるはずがなかった。

「ちっ・・・」
陸の頼みを聞く気など、もはやこれっぽっちもない。
荒々しく扉へと足を向けた矢車の背に、陸は告げる。
「言っただろう。何があっても沈黙を守らねばならない、と。協力を拒むというのなら、君をこのまま返すことはできんのだよ。残念ながら」

いつの間にか、矢車の背後には黒服の男達が数人立っていた。
陸直属のSPだ。
それぞれが小型の銃を手にし、銃口を矢車に向けている。

「脅迫、ですか」
「そうだ。君の『正義』への、な」
「俺はここで殺されても、ZECTには屈しません」
怯えた様子を欠片も見せずきっぱりと矢車は言い放つ。
「小事にとらわれ大事を見過ごす、か。君は、ワームが人間を蹂躙するのを放っておくつもりかね」

諭すような陸の指摘に矢車の心は揺さぶられた。
被験者の少年や日下部にZECTがしたことは、明らかに犯罪だ。許すことはできない。
だが、それはすべて人間をワームから守るために耐えなければばらないことだと、陸は言うのだ。

『罪』を、容認する。
しなければならない。
大きな目的のために。

その決断が、矢車の今までの価値観を根底から覆し、人生を塗り替える大きな転機となった。

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16.ホッパーゼクター

想が瞬を駆け抜けて
 16.ホッパーゼクター


いまだ降り止む気配のない雨の中を、矢車は歩いていく。
すでに衣服は絞ることができるほどに水を吸い、少し長めの前髪からも水が滴り落ちているが、矢車はまったく気に留めていない。
雨の冷たさに奪われていく体温が、いっそ心地好かった。

自分と同じように見捨てられ、ずぶぬれになった影山を思い出し、矢車は口の端で笑った。
(待ってろ。お前もじき、地獄の住人だ)

影山は矢車の変わり果てた様が信じられなかったのだろう。驚きと恐怖がその瞳にありありと表れていた。
(確かに、俺はあの頃の俺とは違う)
自分の変化は、矢車自身も自覚している。
(だが、お前も・・・)
可愛い部下だった頃の影山の、自分を慕う笑顔が浮かぶ。

矢車がザビーになった頃から、何かが少しづつ崩れてきた。
変わってしまったのは、果たしてどちらが先だったのだろう   

渋谷廃墟の一角に倉庫のような建物があった。
目的の場所に着くと、矢車は扉をわずかに開き、中に身を滑り込ませた。
「びしょ濡れじゃないか。傘を持っていかなかったのかね」
先に来ていた人物がそう声を掛ける。
「・・・構わない」
短く矢車は答えた。

「見つかったかい? 君の相棒は」
「ああ・・・」

必要最低限の会話は、すべてが思惑通りに進んでいることを示していた。
「それは、よかった」
人好きのする笑顔を浮かべ、初老のその男はゆっくりとした口調で言う。
警視総監にしてZECTのトップである、加賀美陸。

「『これ』も片割れを見つけて喜んでいるよ」
そう言って、陸は矢車が持つものとまったく同じものを矢車に渡した。

ホッパーゼクター。
他のゼクターと違い、対(つい)になった時最大限の力を発揮する。陸のみが知る、秘密裏に開発されたゼクターだった。

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15.追放

想が瞬を駆け抜けて
 15.追放


ザビーゼクターを失った影山を組織に残しておくほど、ZECTは寛容ではなかった。
利用価値がなくなった道具を切り捨てるように、ZECTは影山を放逐した。そこには、一片の温情も躊躇もない。

「隊長でもザビーでもないお前など、ただの不協和音だ」
以前影山が矢車に浴びせた言葉が、今度はそっくりそのまま自分に返ってくる。
雨の中、影山はシャドウの元部下たちによって殴られ、車から放り出された。
仮にもザビーとして隊長の任にあった自分に対するものとは思えないほど、その仕打ちは冷たい。

『もう、あんたは必要ない。むしろ不協和音なんだよ』

そう自分が告げた時の矢車の表情が、影山の脳裏に浮かんでくる。
(辛そうな・・・顔してた・・・な)
あの時、矢車は怒りを表わすことも泣くこともしなかった。
ただ辛そうな、哀しそうな顔で影山を見ていた。

「お前はいいよなぁ、影山」
幻かと思った。
「・・・矢車」
つい今自分が思い出していたその人物が目の前にいる。
影山と同じように雨に打たれたまま、路上に座ってこちらに目を向けている。先日と同じ、死んだような眼差しで。

「俺が見た地獄はこんなもんじゃない」
「うるさいっ!お前のせいで俺はザビーの座を・・・」
(何言ってるんだ、俺)
矢車への罵倒が理不尽なものであると分かりながら、影山はそう叫んでいた。
矢車の顔をまともに見ることができない。

こんな惨めな様をさらすのは我慢ならなかった。
今の自分を、矢車はきっとあざ笑っているのだろう。

いいザマだ、と罵りの言葉が来ると思っていたのだが。
「地べたを這いずり回ってこそ、見える光があるんだ」
矢車はずぶぬれの体をさらに地に擦り付けるようにして言う。
「・・・光?」
影山は目を見張った。
矢車は突然何を言い出すのか。

完全に狂気を宿した者の言動だった。
やはり矢車は以前の矢車ではない。
何がひとりの人間をここまで変えてしまえるのだろう。

(俺のせい・・・なのか?)
ザビーを失いZECTの呪縛を逃れた故か、影山の心がチクリと痛んだ。
矢車と同じ立場に陥って初めて生まれた、矢車に対する罪悪感だ。

高笑いしながら去っていく矢車の後姿を、影山は呆然と見送った。
これから、どうすればいいのか。
もう何もかもが分からなくなっていた。

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