ザビー・アディクト [11] |
| ザビーを手にしたものは ザビーに魅入られ、破滅の道を辿る もしかしたら、それは本当に 呪いなのかもしれない ザビー・アディクト [11] 「バカか、お前は」 影山の傷の手当てをしてやりながら、俺は毒づいた。 ごめん兄貴、と影山は気まずそうに俺に謝罪する。 ワームの総攻撃で人手が足りなくなったZECTは、俺と影山にザビーに復帰するよう求めてきた。 田所さんにザビーゼクターを見せられた時、俺は心に苦いものを感じたが、影山の方は未練がましくゼクターを見つめていた。 ちょっと出かけてくる、と俺と別行動を取る影山の後を密かにつけてきたら・・・案の定、このザマだ。 ザビーに変身した影山は、ガタックとともに、カッシスワームにボロボロにされていた。 どうして、そこまでザビーにこだわるのか。 影山にとってザビーはZECTの権力の象徴であり、自分の存在を主張できる唯一の手段なのだろう。 だが、それにしても。 「いい加減あきらめろ。フラれた女にいつまでもすがりつく男みたいだぞ。みっともない」 「・・・ひどいや、兄貴」 むくれながらも、影山にいつもの元気はない。 かつて同じ轍を踏んだ俺には、相棒の気持ちは分からなくもなかった。 ザビーには、人を惑わし、煽動する何かがあるのではないかと思う。 「・・・もう一度、あの夢を見たかったんだ」 影山がぽつりと呟くのを聞いて、俺は眉を寄せた。 いまだ、影山はザビーの幻想に取り憑かれている。 「甘えるな」 影山を突き放す言葉を投げて。 「お前には、ホッパーがあるだろ」 思い出させるように、ホッパーゼクターを眼前に示す。 今の俺たちの現実は、このホッパーゼクターだ。 もはや聖杯をささげ持つ美女は、影山の前に現われない。 相棒の傍にいるのは、ザビーゼクターの美女ではなく・・・。 「・・・うん。今の俺には、兄貴がいてくれるもんね」 そんな風に言う影山から俺はわざと視線をそらした。 地に転がったままのザビーブレスに目を落とし、溜息をつく。 ブレスがここにある限り、影山の言葉は当てにならない。 END ※『響鬼』のラストのように、いきなり最終回で時系列が飛んでます(苦笑)。 もともと矢車さんの回想風にしたかったんですけど・・・。 ともあれ、お付き合いありがとうございました。 |
ザビー・アディクト [10] |
| 夢を、見たんです 綺麗な女の人が、俺に聖杯をくれる あの女(ひと)は、多分ザビーゼクターの化身なんじゃないかな ザビー・アディクト [10] シャドウ隊員だった日比野がワームに擬態され、そのワームがザビーを利用して人々を襲っていた というのが、その翌日周知された事件の顛末だった。 自分たちの中にワームが紛れていたことに動揺はあったものの、シャドウ隊員たちは事件の解決に大いに安堵した。 だが俺は、いまだに腑に落ちない。 第一に、日比野はいつからワームだったのか。 少なくともシャドウの皆が集団ヒステリーに陥った時・・・日比野は、いつもの日比野だった。 日比野がシャドウに入隊して半年程だが、いつワームにすり替わったのか、まったく分からない。日下部の死やそれ以前の事件も日比野の仕業だとしたら、かなり昔からワームだったことになる。 ワームである者が、ZECTに入隊できるわけがない。・・・ZECTが容認したのでない限り。 第二に、なぜ日比野がザビーに変身できた? 日比野がワームなら、なおさらだ。 第三に・・・これが、俺には一番理解できない。 一見、いつもと同じように笑い、俺を慕ってくる影山。 しかし顔にこそ出さないが、影山がザビーにある種の憧れを抱いていることは言葉の端々から感じられた。 「本当はお前がザビーになりたかったんじゃないのか?」 正式に俺がザビーに任命された日、俺は影山に聞いてみた。 影山はどんな反応を返すのか、それが知りたかった。 肯定か、否定か。 「・・・矢車さんは、ザビーになりたくなかったんですか?」 反対に尋ねられてしまった。 「お前はどう思う」 らちが開かない。 互いに答えを知っていながら探り合いを繰り返す。 当初に比べ、胸に現われたザビーの紋章に痛みはなくなった。 けれど夜、しばしばうなされて汗だくになって目が覚める。 「・・・いつも同じ夢だ。真っ黒い闇が俺を飲み込んでいく。その夢を見ると、こいつがまた痛み出す」 言いながら、俺は自分の胸元をトンと親指で指した。 影山には言わなかったが、その夢には続きがある。 闇に侵食される俺を、日下部や日比野が見守っていた。 『お前も、堕ちるのか』と。 そして哀れむように、闇の中から手を伸ばして・・・。 「俺も、よく夢を見ますよ」 俺とは対照的に明るい表情で影山は言った。 「起きるのがもったいないくらいいい夢だけど」 えへへと屈託なく笑う影山を見て、俺はなんとなくほっとする。 「それはいいな。俺もあやかりたい」 「枕並べて寝ましょっか。夢、交換できるかも」 他愛もない冗談に、俺たちは笑い合った。 心に広がる不安や不信を打ち消すように。 →NEXT |
ザビー・アディクト [9] |
| ザビー・アディクト [9] まるで花から花へ渡り歩く蜂のように、至極当然であるかのように。 何の躊躇もなくザビーゼクターは装着者から離れ、俺の手にやってきた。 弾け飛んだザビーブレスが、カランと音を立てて床に落ちる。 「矢車さん!」 影山が叫び声を上げる。 素早くブレスを拾った俺も、顔を上げて殺人鬼の正体に目を奪われた。 「日比野・・・」 ザビーの中から現われたのは確かに、俺たちが知っている最年少のシャドウ隊員だった。 だが変身が解け、日比野の姿に戻ったのは一瞬で。間を置かず、それはワームに変わった。 (・・・日比野がワーム・・・?) 混乱する頭を叱咤し、俺は影山をドアの方に促した。 「田所さんが応援を呼んでくれてる。お前はとにかくここから出ろ!」 「矢車さんは?」 「俺は・・・」 最後まで言葉を告げないうちに、ワームが掴みかかってきた。 「くっ!」 後ろから羽交い絞めに俺を捕らえた為、影山もマシンガンブレードを撃つことができない。 「影山、さがってろ!」 「でも・・・っ」 戸惑っていた影山だが、俺がしようとしていることに気付くと、ドアを開けて背後に身を隠した。 (・・・それでいい) 影山は、俺の行動を察すのが早い。 ザビーブレスは俺の左腕にあった。 締められた腕を下方に伸ばし、なんとか自由になる右手でゼクターを装着する。 「変身・・・!」 ザビーのスーツと装甲が全身を覆っていくのを感じた。 「キャストオフ!」 同時にアーマーを外す。 勢いよく飛び散るアーマーの欠片にたまらず俺の体を放すワーム。 「わわわっ!!」 ガッガッとドアをへこます程の勢いでぶち当たるアーマーに、影山も身を伏せた。 「矢車さん、ちょっとやり過ぎ・・・」 情けない声で訴える影山には答えず、俺はライダースティングを決めていた。 もちろん、命を奪うつもりはなかったが。 「修繕費で金一封もチャラですよ、きっと」 倒れたワームと室内の惨状を見比べながら、影山は口を尖らせる。 「・・・そうだな、減給かもな」 「そんなっ、困りますって!」 慌てる影山がおかしく、またその無事に安堵し、俺は声を上げて笑った。 ようやく田所さんがゼクトルーパーを率いて駆けつけてきたのは、俺が変身を解除した後だった。 「・・・早かったですね」 「悪い」 少しばかり皮肉を込めた俺の言葉に田所さんは苦笑し、ちら・・・と後ろを振り向いた。 その背後には、三島さんの姿がある。 どうして、わざわざ三島さんが出て来るのか。 尋ねても、田所さんは曖昧に言葉を濁すだけだ。 三島さんはルーパーを手早く指揮し、動かないワームを運んで行こうとする。 俺はそれを見とがめて言った。 「どこに連れて行くんですか? まだ日比野は生きてます。彼から事情を聞くべきだと思いますが」 「・・・日比野?」 ピクリと三島さんの眉が動く。 「日比野はワームに擬態され、既に死亡している。あれはただのワームだ」 三島さんの口調と態度には、反論を許さない威圧感があった。 「それより、ザビーは君を資格者と認めたようだな」 ザビーブレスをはめたままの俺の左腕に三島さんは目を留めた。 「次の資格者の、誕生だ」 いつもの無表情からは感情は読めないが、眼鏡の奥の視線はただひたすら、ザビーブレスに注がれていた。 俺は背筋が冷えるのを感じた。 その反面、胸の辺りが熱く息苦しく、どこか不快で。 「・・・つっ!」 焼け付くような痛みを感じ、俺は胸を押さえた。 そんな俺に気付き、影山が後ろから覗き込んでくる。 「ザビーの紋章ですね。初めは痛むかもしれないけど・・・すぐ慣れますよ」 「・・・影山、お前」 影山は、何を言ったのだろう。 にこりと笑う影山が、俺の知らない者のように思えた。 それが、終わりであり、始まりだったのだ →NEXT |
ザビー・アディクト [8] |
| ザビー・アディクト [8] 昼間はシャドウの中で行動している為、敵が襲ってくる可能性は薄い。 問題は夜、だ。 俺と田所さんは、3時間交代で監視に当たることにしていた。 影山の見張りを始めて二夜目。 深夜1時を少し過ぎた頃、モニターを見ていた田所さんが、車中で仮眠をとる俺の体を揺すった。 「起きろ、矢車。動いたぞ!」 「・・・え」 浅い眠りから意識を呼び戻し、俺はモニターに駆け寄る。 通路に設置した第一のモニターに映し出されたのは、紛れもなくザビーだ。 既に犯人は、変身している。 「田所さん、警報を!」 「分かった」 田所さんに応援の要請を頼み、俺は指令車から飛び降りた。 影山に知らせるべく、合図の携帯を鳴らしながら走る。 (逃げろ、影山・・・!) 祈るような気持ちで、俺は懐から取り出したゼクトガンを握り締めた。 そこは、まるで楽園のように美しく花々が咲き誇っていた。 ひとりの乙女が、蜂蜜色の液体を聖杯に注ぐ。 胸元が大きく開いたドレスをまとっている為、胸に刻まれた蜂のような紋章がひどく浮き立って見えた。 乙女は聖杯を差し出して微笑する。 『さあ、英雄に祝福を』 「影山、無事か・・・!」 部屋に飛び込んだ俺が目にしたのは、ザビーに向けてマシンガンブレードを構えた影山の姿だった。 寝巻きのままだが、目はしっかり覚めているらしい。 「せっかくいい夢見てたのにさ。お前のせいで起こされちゃったよ」 ザビーにそう語る影山に、俺はどことなく違和感を覚えた。 こんなに、冷たい目をしていただろうか・・・? ゼクトガンを撃ちながら、俺は影山とザビーの間に入る。 俺と影山の弾を腕でガードし、ザビーは一気に距離を詰めてきた。 「よけろ!」 影山を突き飛ばし、俺も瞬時に身をかわす。 ライダースティングがベッドのマットレスを深々と貫くのを見て、俺は背筋が冷えた。これが、何人もの命を奪った凶器だ。 「矢車さん、ザビーゼクターを呼んでください!」 ザビーと再び距離を置き、影山が叫ぶ。 「ザビーゼクターが離れれば、変身は強制解除されます。早く!」 なぜ影山がそんなことを知っているのか。 しかし、疑問に思う余裕はなかった。 俺がもし本当に、ザビーの資格者だというのなら・・・。 「ザビーゼクター、来い! 俺の元へ!」 影山に促されるまま、俺は右手を上空に差し伸べた。 →NEXT |
ザビー・アディクト [7] |
| ザビー・アディクト [7] 何度も説得を試みたが、影山は自分が囮になると言い張った。 もし、護りきれなかったら・・・? 俺はそれが、怖い 「相手はザビーだ。お前を助けられないかもしれないぞ」 脅しの意味も込めて、最悪の状況を想定する。 けれど、影山は言うのだ。 「んー、そうですね。その時は自分でなんとかします」 「それこそ 無理だ、と続けたかったのだが。 「でも矢車さんが負けるなんて想像できないし。万が一そうなったら、俺は猛ダッシュで逃げますから」 逃げ足は速いんで心配しないでください、と冗談ぽく笑う影山。 「ほんとにお前は・・・」 ついに俺は根負けして呟いた。 「信用するか、お前の逃げ足を」 お前が俺を信頼してくれるのなら。 信頼には信頼で答えるしかない。 『ザビーの呪い』の名のもとに起こった数々の事件は、ザビーにからんだZECT内の不祥事だ。 たとえばザビーゼクターの開発者は、ザビーに魅せられ持ち逃げしようとしたらしい。ZECT幹部をゆすっていた経歴もある。 『ザビーの黄金色に、皆取り込まれるんだ』 資格者に選ばれた頃、好奇と嫉妬の眼差しを向けられて、日下部がそんな言葉をもらした。 『欲の皮が張った連中には、これが黄金に見えるのかもしれん』 『まさか。これが、ヒヒイロノカネでできてることぐらいZECTの誰だって知ってる』 俺が笑うと、日下部は困ったように眉を寄せた。 『ああ、矢車。お前の言う通りだ・・・』 あの時、日下部は自分が狙われていると感じていたのだろうか。 影山をザビーの資格者に仕立て上げるには、三島さんに事情を説明する必要があった。 ZECT側は、何者かがザビーを使って事件を起こしていることは認識していたものの、犯人が誰かはつかめていなかった。今回の作戦は、ZECTにとっても利になる。 三島さんは、ZECT全てに次のザビーの資格者は影山に決まったと通達した。 影山をZECTの仮眠室に寝泊りするようにさせ、網を張る。仮眠室には隠しカメラとマイクを設置して。 「手振ってるぞ、影山のやつ」 ZECT指令車の中でモニターを見ていた田所さんが、呆れたように俺を振り返る。 夜中の間の監視は、さすがにひとりでは無理だ。 自ら協力を申し出てくれた田所さんの心遣いがありがたかった。 「・・・あのバカ」 こちらの声は、向こうには聞こえない。 矢車さん、聞こえてる? と、呑気にベッドに腰掛けてカメラ目線の影山に俺は溜息をついた。 田所さんは腕時計に目をやる。 時刻は10時半を回っていたが、まだZECT内施設のあちこちで明かりがついていた。 「犯人は来ると思うか?」 「ええ。今夜じゃないかもしれないけど」 なんとなく、俺は思った。 犯人はザビーに執着している。ザビーを手に入れたがっている。 だから、邪魔者を消すために、必ず来る。 →NEXT |
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