迷宮クロニクル [12] |
| 迷宮クロニクル [12] (・・・影山・・・!) 叫び出したい気持ちを堪え、矢車は影山の手首を取って脈をみた。 心臓にも耳を当ててみる。 弱いけれど、脈打つ鼓動。 影山の生の証を感じ取り、とりあえずほっとする。 矢車は、三島が打ち捨てたライダーベルトを影山の腰に巻くと、そこに先ほどのゼクターを装着した。 気を失っている影山は、自分が何をされているか分からないだろう。 矢車の腕の中で、影山はパンチホッパーへと変化する。 「生きろ、影山」 常になく、弱々しい声音で矢車は呟いた。 まるで、祈るかのように。 「・・・でなければ、俺が生き延びた意味がない」 ホッパーゼクターに込められた "破壊" と "再生" の力。 三島から吸い取った命は、影山を生かす力に変換されるはずだ。 どのくらいの時間そうしていたのか。 身動きもせず、影山をただ見守る矢車の後ろから、誰かの気配が近づいてくる。 「・・・仕留め損なったようだね」 予想通りの言葉をかけられ、矢車は軽く溜息をついた。 「事情が変わった」 矢車の腕の中のホッパーの姿に目を留め、その人物は肩をすくめる。 「なるほど。だが、初めからきみは、殺すつもりはなかったのだろう」 「・・・天道や、あんたの息子の出番を残してやったまでだ」 ふむ、と、その人物は苦々しく笑った。 矢車の一計で、ネイティブの黒幕である三島が倒れてくれればしめたものだったが、そううまくはいかなかったようだ。 できることなら、『赤い靴』の発動は避けたい。 知らぬ間に巻き込んでしまった、自らの息子を思えば・・・。 これからの算段を立て直さねばならない、と彼は踵を返す。 しかし、思いついたように足を止めて矢車を見た。 「彼を、きみの相棒にするのかね?」 不躾な問いに、矢車は眉をひそめた。 それに構う様子もなく、その人物は話し続ける。 「きみには、まだ言ってなかったかな。破壊と再生は、一対のものだ。円を為し、循環する」 「・・・それがどうした」 今さら聞きたくもなかった。 ホッパーゼクターを与えられた時、知らされている。 最悪のシナリオの場合、自分の命を削ってワームを殲滅する。 制御できないその力は、おそらく世界を滅ぼすことになる。 破壊の後の再生を担うのが、もうひとつのホッパーだ、と。 「どちらがどちら、ということはないんだよ。それぞれが、どちらの役目も果たす。実際、そのゼクターで証明済みだろう」 その言葉に合わせたように、影山の変身が解除されていく。 目を見張る矢車は、影山の傷がすっかり癒えているのに安堵した。 まだ、意識が戻ることはなかったけれど。 「互いが、己の一部になり、ひとつの役割を果たす。だからこそ、私はホッパーを二体作ったのだ」 一応は耳を傾けながら、矢車は舌打ちした。 この男の言うことは、いつも謎掛けまがいで苛つく。 「もうひとりのホッパーは、きみと対になる存在、ということだ。まぁ、慎重に選びたまえ」 ふっ、と笑みを見せ、加賀美陸は二人を残して立ち去った。 ようやく訪れた、静寂。 目覚めない影山に視線を落とした後、矢車は三島と陸の姿を追うように前方を見やって目を細めた。 三島は、今後どう出るのか。 陸は、自分という駒をどう動かすのか。 (相棒・・・か) 陸の言葉を反芻して、矢車は自嘲気味に笑った。 それは、地獄に共に落ちる相手だ。 「・・・忘れろ、影山。今回のことはすべて」 三島を逃がしてしまった今、その正体を知っている影山はおそらく命を狙われる。 「忘れてくれ」 矢車は、願いを込めてゼクターを握り締めた。 次に会うときは、また自分たちは違う立ち位置にいる。 それならば、いっそ白紙に戻したほうがいい。 (それで、お前が無事なら・・・) 九月十七日 飛蝗の命は短く だからこそ "つがい" でなければならない END ※ラストです。ほんとは、もう一話あるはずだったのに、無理矢理一話に収めてしまいました(^^; この話は本編に沿ったように見せかけて、実は沿っていないパラレルです(苦笑)。 本編通りにやるなら、「二人の確執はどうした?」ってことになってくるし・・・。 いただいたリクと主旨が違ってしまったかも・・・ゴメンナサイm(__)m |
迷宮クロニクル [11] |
| 迷宮クロニクル [11] シシーラワームを捕獲するため、現場に向かった影山たちだが、決着はあっさりと付いた。 意外にも、カブトが彼女に引導を渡したのだ。 腑に落ちない気はするものの、それについて深く追及するつもりはない。 むしろ、自分が手にかけずに済んで幸運だったかもしれない。 後始末をシャドウに任せて、影山はザビーの変身を解除した。 ホッパーの姿のままの三島の傍に寄る。 やはりまだ、具合が悪そうだ。 「三島さん、終わりました」 「ああ・・・」 事の成り行きを把握しているのかいないのか、三島は曖昧な返事をする。 (さっきよりも、ひどくなってるみたいだ・・・) 「変身、解いたほうがいいです。早く帰って休みましょう」 立ち上がれないほど衰弱している三島に、影山は肩を貸そうとした。 そこに、ふいに声がかけられる。 「・・・変身を解かないんじゃなくて、解けないんだ」 振り向いた影山の目に映ったのは。 「矢・・・車・・・」 あの時と同じ、黒いロングコートにボロボロのタンクトップ姿で、矢車は近づいてくる。 触れたら切れそうな狂気の瞳に、薄く笑みを浮かべて。 「そいつの生命力は、すべてジャッキを通してゼクターに吸い取られてる。もう、変身は解除できない」 矢車は腕組みしながら、倣岸にパンチホッパーを見下ろした。 「貴様・・・っ、最初から、そのつもりで・・・!」 「当然」 少しの哀れみすら感じていないような物言いだった。 「一応、忠告はしたはずだぜ? ホッパーは破滅の象徴だと。それだけの力を、媒体なしに引き出せるわけないだろう」 「媒体・・・だと・・・?」 「装着者の命そのものさ」 (命が・・・媒体って・・・) 影山は必死に、矢車の言葉を頭の中で整理した。 確か、矢車自身も緑色のホッパーに変身したはずだ。 「だって、それじゃ・・・!」 言いかけた影山に、矢車は目で制する。 余計な事は口にするな、と。 こうなれば、もう何も聞けなくなってしまう。 「力を使えば使うほど、ゼクターは力を吸収する。あんたは、少し欲張り過ぎた」 苦しげなホッパーに、矢車は容赦なく告げる。 「さよなら、三島さん」 「調子に乗るな・・・よ!」 ふらりと立ち上がったパンチホッパーは、ベルトを無理やり外そうと試みる。 「無駄だ。力づくで外せるわけ・・・」 その時、矢車は何かに気づいてハッと息を飲んだ。 重要なことを、忘れてるのではないか。 そうだ、三島は 「おおおおおっ!!」 獣じみた唸り声を上げたかと思うと、三島の体からガチャリとベルトが外れ、地に落ちた。 行き場を失ったホッパーゼクターは、助けを求めるかのように矢車の手に収まる。 矢車と影山の目の前で、三島は見る間にワームの姿に変わっていった。 「み、三島さんが・・・ワーム!?」 影山は激しく動揺している。 「離れろ! 奴はグリラスワーム。・・・おそらく、最強のワームだ」 影山の肩をぐいっと掴んで、矢車は自分の後ろに引き寄せようとした。 が、それはほんの少し遅かった。 グリラスワームの左腕の爪が、影山の胸を深々と貫いて。 「影山・・・!」 矢車が伸ばした腕の中で、影山はくず折れるように倒れた。 傷が深い。 血の気が引いて蒼白な影山の顔。その胸からは、血がとめどなくあふれ出してくる。 (ちくしょう・・・!) 不甲斐なさに、矢車は握った拳を地に打ち付けた。 グリラスワームの方も、力が回復したわけではない。 残った力を振り絞っての反撃だったのだろう。 今なら、討つことができる。 だが、弱った足取りで逃げて行くワームを、矢車は追わなかった。 それよりも、優先しなければならないことがある。 →NEXT |
迷宮クロニクル [10] |
| 九月十日 事態はゆっくりと進行する 向かう先は、"破壊" と "再生" 迷宮クロニクル [10] 三島は、パンチホッパーとして繰り返し変身を果たしていた。 必ずそこに、ザビーやシャドウを引き連れて。矢車への牽制であることは、容易に見て取れる。 (・・・頭の切れる奴だ。だが・・・) いつものように、ホッパーたちの戦闘を遠目で眺めながら、矢車は思いを馳せた。 矢車の持つホッパーゼクターが、三島の力の衰えを教えてくれている。 (そろそろだな) もう、いい頃合だ。 とどめを刺しに行くべきかもしれない。 * * 影山は困惑していた。 先日の矢車のZECTへの来訪だけでも十分な衝撃だったが、今度は、ワーム狩りを命じられた。 しかも、そのワームは見知った人物だ。 特に親しかったわけではないが、彼女が働く店にも何度か足を運んだ。 三島の命令である以上、やるしかないが、正直気は進まない。 加賀美が知ったら、きっと止めに来るだろうと予想がつく。その時、一騒動起こすだろうことも。 「・・・あの女が、ワーム? ほんとにですか」 意外に思って聞き返す影山に、三島は淡々と告げた。 「シシーラワームの擬態だ。ためらう必要はない」 しかし、三島の顔色はひどく青白い。 ここ最近の体調不良は傍目から見ても、はっきりと分かるほどだった。 立っているのが辛いのか、壁にもたれるようにして息をつく三島に、影山は心配そうに声をかけた。 「今回は、俺とシャドウだけで行きます。三島さんは休んでてください」 それは、純粋に三島を気遣っての台詞だったのだが。 「私の目を離れて、矢車に寝返るつもりか?」 「えっ?」 いきなり考えてもいなかったことを言われて、影山は言葉を失った。 「それとも、加賀美に加担して女をかばうか?」 「ま・・・さか」 影山にしてみれば、三島がなぜそんな事を口にするのか分からない。 今まで忠実に、三島の元で動いてきたというのに。 「俺は、三島さんに・・・ZECTに従います。何があろうと」 言いながら、影山はその決意を自分自身に言い聞かせる。 それしか、自分の生きていく道はないのだから・・・。 「そうか。だが、私のことなら心配無用だ」 目にかかる数本の髪を気だるそうにかき上げると、三島はポケットからガラス瓶を取り出した。 サプリメントか薬なのか。 緑色の錠剤をいくつか手に乗せて、水なしでそれをガリッと飲み込む。 その様子は、どこか病的に見えた。 「・・・行くぞ。シャドウにも準備させろ」 「・・・はい」 影山に、否を言う権限はなかった。 →NEXT |
迷宮クロニクル [9] |
| 迷宮クロニクル [9] 「全ライダーの中でも、ネイティブの影響を一番強く受けているのがザビーだろう。くだらない野望に、影山を巻き込むのはやめろ」 その人物がドアの外にいるとも知らず、矢車は話し続ける。 「私が巻き込んでいるわけではない。彼が自ら選んだんだ、ザビーになることを・・・」 ちらりと視線をはずした三島は、カツカツと靴音を響かせ、ドアの方に向かってきた。 (やば・・・!) 外で聞き耳を立てている影山は、慌てて立ち去ろうとするが。 「・・・そんなところにいないで、そろそろ入ったらどうだ」 勢いよくドアが開かれ、影山は思わず顔をぶつけそうになった。 「あ・・・」 部屋の中から、矢車が驚いたように自分を見ている。 ふいに目が合ってしまい、影山は気まずい思いで顔を伏せた。 そんな二人の反応をさも面白そうに見やって、三島は影山を室内に招き入れた。 楽しんでいるのが、ありありと分かる。 してやられた、と、憎々しげに矢車は唇をかんだ。 「影山。お前からもはっきり言ってやれ。ザビーを手放す気はない、と」 「ザビーを・・・?」 三島たちの話がどういった経緯から発したかは分からない。 途方に暮れていた影山だが、"ザビー" という言葉にピクリと反応を返した。 ザビーは・・・。 今の地位を、ザビーでありシャドウ隊長を任されている現状を、捨てるつもりは、ない。 「俺は・・・ザビーで、いたい」 小さく、けれど強い意志で影山は言った。 その答えに満足そうな三島と、複雑な表情で受け止める矢車。 辛そうな目を向ける矢車に、影山の胸がずきんと痛んだ。 (なんで、そんな顔するんだよ・・・) 「・・・まあ、そういったわけだ。肝心の当事者が拒んでいる以上、この条件は無効だな」 三島はクッと人差し指で眼鏡を押し上げる。 当然だと言わんばかりの冷静さで。 「確かにな」 矢車の口元は薄く笑っていた。 だが、うつむき加減のため、長めの前髪に隠れて表情は分からない。 「なら、明かしてもらおうか。ホッパーの力とやらを」 あえて、影山の前で話させようというのだろう。 嘘や誤魔化しをさせないために。 影山は、この交渉において三島の保険のようなものだ。 ふうっと息をついて、矢車は切り出す。 「・・・ホッパーは、"破壊" の象徴さ。ガタックが "戦いの神" なら、ホッパーは "破滅の神" といったところだ」 「ふ・・・。それほどの力があるとは思えんが」 見下したような三島の視線は、ホッパーゼクターに注がれていた。 「腕のアンカージャッキが、爆発的な力を解放することは知ってるだろ。最大限に発揮すれば、世界を破壊するほどの威力を持つ。・・・その時はおそらく、カブトにもガタックにも止められない」 「馬鹿な、そんなもの・・・」 あの加賀美陸が、作るはずがない、と言いたいのだろう。 甘いな、と矢車は心の中で嘲笑する。 ホッパーは『赤い靴』のサポートであると同時に、万が一の場合のストッパーだ。 生半可な力で、暴走したカブトたちに対抗できるわけがない。 「ホッパーは、最終兵器さ」 (悪いな・・・) 少し青ざめた顔で話を聞いている影山に、矢車は声に出さずに詫びた。 今この段階で、影山に知らせるつもりはなかったのに。 →NEXT |
迷宮クロニクル [8] |
| 九月二日 己の立ち位置を振り返るとき、 大切な存在に気づくものだ 迷宮クロニクル [8] パンチホッパーとなった三島は、影山やシャドウと共にたびたび戦闘に赴くようになった。 そのことを知ったZECT総帥が、ひどく複雑な顔をしていたのを、影山は不思議に思っていた。 ZECT内でも隠されていたそのライダーがどういう存在なのか、影山には分からない。 それに、なぜか矢車が関わってくる。 彼の目当ては、おそらくパンチホッパーだろう。矢車が現れるようになったのは、三島がホッパーになってからだ。 影山は矢車が生きていることを三島に告げ、何があったのか問いただそうとしたが、三島の反応はあっさりしたものだった。 「そうか」と一言だけ発し、それ以上は弁明しようとしない。 自分の知らないところで何かが動いている・・・影山は薄々、そんな風に感じ始めていた。 膨らみかけていた疑惑が明確になったのは、三島の執務室に矢車の姿を見た時だ。 薄汚れた黒いロングコートをまとった矢車が、来客用のソファにゆったりと腰を下ろしている。 三島の方は、立ったまま窓の外を眺めていた。 (なんだってZECTに・・・) 以前の矢車を知る者に見られたら、あれこれ詮索されることは間違いない。田所や加賀美など、他の誰とも出会わなかったのだろうか。 わずかに開いているドアの隙間から、影山は戸惑いながらも、そっと中の様子を窺った。 「たいした性能じゃないな。こんなものが、『赤い靴』のサポートになるのか」 三島がホッパーゼクターを手にしているのが見える。 パンチホッパーのことを言っているのだろうが・・・『赤い靴』とは何だろう。 「まだ能力の半分も出し切っちゃいない。あんたの知らない力があるのさ」 矢車は口の端で笑った。 冷たい目だ。 自分に向けてくれる優しい顔とは、まったく違う。 「ほぅ。それは何だ?」 「取引だと言ったろう。こちらの条件をすべてクリアしたら教えてやる」 ドアの向こうの影山に気づかず、ふたりは話を進める。 おもむろに矢車が立ち上がり、掴みかからんばかりの勢いで三島に詰め寄った。 「影山をザビーから解放しろ」 矢車の口から出た自分の名前に、影山は心臓が飛び出しそうになった。 (一体、何の話だ・・・) ドキドキと跳ねる鼓動を抑えることができず、影山は食い入るように事の成り行きを見守った。 →NEXT |
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