地獄兄弟は今日も平和

「仮面ライダーカブト」自己満足スピンオフ(笑)! 矢車・影山の地獄兄弟二次小説

楽園依存症候群 [18]

たとえ、永遠でなくても
たとえ、明日にはすべてが終わってしまうとしても

今、この瞬間
俺は楽園(エデン)にいるのかもしれない


楽園依存症候群
 [18]



矢車には分かっていた。
影山自身、意識していてもいなくても。どちらにせよ、矢車を本気で討つことなどできはしない。

人間は、矛盾する生き物だから。
永遠を求めながら、刹那の幸せにも固執する。

(一緒にいられる今の時間を、手放したくはないくせに)

以前、「永遠に一緒だ」と影山に告げた時の事を矢車は思い返していた。
あの時は今回と逆で。自分が影山の死と引き換えに永遠を手にした。
けれど、と矢車は思う。

(お前は、俺を失いたくないんだろう?)

口に出すほど愚かでも素直でもなかったので、心の中だけで呟く。


(・・・俺も、同じだ)

   *    *

「あー、やっぱり影山さん、ここでしたか!」
立ち入り難いような空気をものともせず、バタンと大きくドアが開けられた。
サァ・・・と外からの爽やかな風が入る。
ひょっこり姿を見せた加賀美の後ろには、天道もいた。

「矢車さんの体が治ったら、二人ともすぐ出発です。準備しててくださいね!」
「準備も何も・・・こいつらなら、何も持っていく物などないだろう」

満面の笑顔でいきなりそんな風に言う加賀美に、天道が茶々を入れる。
矢車と影山は呆気に取られた。

「・・・なんの事だ。順を追って話せ」
話の内容はつかめないが、天道の態度が気に入らない。
矢車に不機嫌そうな顔を向けられ、加賀美の額から冷や汗が流れた。

「あ、そ、そうですね。実は、ワーム研究組織の調査で・・・」
「お前らにはノルウェーに行ってもらいたいそうだ。ワーム化抑制の治療も、現地で続けられる」
初めから説明しようとした加賀美を遮って、天道が告げた。

「矢車、ノルウェーの対ワーム組織の事は前に話しただろう。渡航費用も滞在費用も、すべてZECT持ちだぞ」
「ZECTが俺たちを派遣するというのか・・・?」

スゴイじゃん兄貴! と、影山は大喜びするが。
笑顔が戻った影山にホッとしつつも、矢車は警戒を怠らない。
うま過ぎる話には、何か裏があるに決まっている。

「・・・で、俺たちに何をさせる気だ」
不審をありありと示す矢車をそのままに、天道は加賀美に向き直った。
「あとは、加賀美が説明する」
「・・・って、おい、天道・・・っ!」

さっさと部屋から出て行ってしまった天道に代わって、残された加賀美に矢車と影山の二人分の視線が突き刺さる。

おいしい所だけを話して、込み入った部分の話は押し付けられてしまったらしい。
やれやれ、と加賀美は溜息をついた。

ノルウェーの研究組織の内部で不穏な動きがあること。
ワームによるマインドコントロールがまだ収まっていないこと。
ZECTを通して行くということは、ZECTの命令があれば従わなければいけないのだ。
ワームとの戦闘になる可能性は高い。

(・・・でも、まあ)

「早く話せよ!」
急かす影山の表情は、ひどく嬉しそうで。
いまだベッドの中にいる矢車も、そんな影山を楽しげに見ている。

(きっと大丈夫だ。この二人なら・・・)

「じゃあ、説明しますから。ちゃんと聞いてくださいね」
つられて微笑しながら、加賀美は考えていた。

いつだって、どんな場所だって。
自分にとって大切な誰かが傍にいれば、きっと・・・。


そこは、楽園に違いない。


 END


※長らくのお付き合い、ありがとうございました。
えー・・・この後二人はノルウェーに旅立ちます。某所で、フィンランドに行った二人の素敵小説を拝見したので、こちらはノルウェーにしました(^^;
次回シリアス、『フレイアは笑わない』へ続きます。

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楽園依存症候群 [17]

楽園依存症候群
 [17]



音を立てないように気を付けたのだが、矢車はすぐ気配を感じ取って目を開けた。
病室に入ってきた影山に、ベッドに横になったまま顔を向ける。
「・・・相棒、ちゃんと薬は飲んだのか?」

いつもと何も変わらない口調で、そんな風に心配をする。
一瞬ビクリとした影山は、思わず数歩後ずさった。

(なんで、俺のことなんて・・・)
気まずい気持ちは吹き飛んだものの、代わりに怒りが込みあげてくる。

「自分の事考えろよ! 俺は兄貴に、とどめ刺しに来たのかもしれないだろ」
「殺りたきゃ殺ればいい」

別段大した事でもない、と思っているのだろうか。
矢車の静かな声に比例して、影山の感情は高ぶるばかりだ。

「どうしてそう言えるのさ! 死にたいのかよ!?」
泣きたい気持ちになっているのは、影山の方だった。
こんな事を言うために来たんじゃないのに。

矢車の怪我が心配で、様子を見に来たのに。

「死にたいわけじゃないが」
影山の言葉に、矢車は困ったように笑う。
「・・・俺はもう二度と、お前を殺したくないだけだ」

(俺を殺す・・・?)

何の事だろうと考え、影山は白夜の国へ行こうとしていたあの夜のことか、と思い当たった。

「俺は一度お前を殺そうとしたろ。だから、お前が俺を殺したいならそうすればいい」
「あれは・・・兄貴のせいじゃない」

あの時は、自分が矢車に倒されることを望んだのだから。
ワームになって、人間を、矢車を傷付けるくらいなら、死んだ方がいいと思った。
兄貴に殺されるのなら、それも悪くない、と。

(・・・あ。そ、か)
影山はふと気づいた。
もしかすると、矢車も同じように思ったのかもしれない。

「兄貴・・・俺になら、殺されてもいいと思った?」
精一杯の気持ちで聞いたのだが。
「馬鹿言うな。そこまで俺は抜けてない」
矢車はあっさり否定する。

「お前に、俺が殺せるか」

少しばかりムッとする影山を気にも止めず。むしろ面白がって、矢車はふっと笑みを浮かべた。

→NEXT


※次回エピローグです。
次回に持ち越します・・・PC不調のため(泣)。

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楽園依存症候群 [16]

楽園依存症候群
 [16]



「もう少しで『レミング』の道連れになってたところだ。・・・秘密主義は相変わらずか」
皮肉っぽく咎める天道に、加賀美陸は肩を竦めて見せる。
「仕方あるまい。まさか君たちがあの場所に行くなど、予想外だったから」

陸の執務室で、天道と息子である新は、今回の事件のあらましを聞かされていた。
終始沈んだ顔の新には、あえて話を振らない。
子供たちの事で今も心を痛めていることが分かっていたので。

あれから、空に向かった宇宙船は大気圏外に出たところで爆発した。
ワーム自らが、船を自爆させた。ワームの意識を操る『レミング計画』のシナリオ通りに。

ZECTはノルウェーと協力体制を取り、人に害を及ぼすワームを隕石跡地に集結させていた。
今回の計画が成功すれば、オリジナルワームの脅威はなくなるはずだったのだが。

「ノルウェーのノウハウが、どこかでワームに洩れたようだ。それを使って、ワームが何か計画を進めていた可能性がある」
苦々しい顔で、陸は告げた。

人間の子供たちを操って、親を殺めさせたこと。
外宇宙に向けて、通信をしていたこと。
これらの謎がまだ残っている以上、すべてが終わったとは思い難い。

「・・・で、どうするんだ?」
疑問形で問うてはいるが、天道は陸の打つだろう手に心当たりがあった。

「ノルウェー側の調査が必要だ。どこかに適した人材はいないものかな」
いつもながら、陸の言葉は回りくどい。
分かっているだろうに、と天道は辟易した。

「あ、親父! なら、ちょうどいい二人がいるよ」
陸の言葉を聞いて、加賀美新はようやく暗い顔をほころばせた。

  *    *

ZECT管轄の医療所のベッドで、影山はぼんやりと天井を見上げていた。
特に怪我をしているわけではない。
ワーム化抑制の治療を受けた後、何もする気になれず、ただベッドに横になっている。

宇宙船の中で、子供たちと一緒にいたことも、自分が矢車に何をしたかも覚えていた。
それは、残酷なくらい鮮明な記憶で。

(兄貴・・・生きてる・・・かな)

影山は毛布からもぞもぞと両手を取り出し、目の前にかざした。
罪を犯した手、だった。
今でもこの手は、矢車の血にまみれている気がする。

言い訳しようとは思わない。
あの時の自分は、確かに矢車を殺したいと思ってしまった。
おせっかいな加賀美は、意識を操られていただけだ、と慰めようとするけれど。

(そういう問題じゃない・・・)

何も解決していないことを、影山は知っていた。
自分と子供たちがワームと共に目指した楽園は、間違っていたのかもしれない。
それでも、人の心は楽園を探し続ける。


決して手に入らない、『永遠』を希求して。

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楽園依存症候群 [15]

楽園依存症候群
 [15]



外へと続く狭い通路を、三人は出口に向かって急いだ。
一人は意識のない男を背負い、一人は限界まで衰弱し、一人は胸に刺し傷を負って。
誰もひとことも口を開かない。話している余裕もなかった。

「・・・大丈夫か」
その沈黙を天道が破った。
額に脂汗を浮かべ、血の気が引いた矢車を気にかけての台詞だ。

「ああ・・・刺されたのは、右・・・だからな」
心臓のある左側ではない。
「あきれた・・・バカだ・・・」
加賀美に担がれた相棒に、矢車は視線だけを走らせる。

一突きで、簡単に人は殺せない。
ナイフを使うのなら、ボディではなく首の頚動脈を狙う。
仮にもZECTに身を置いていた影山ならば、そのぐらいは知っているだろうに。

「バカはお前もだ」
天道は容赦のない言葉を浴びせた。
「影山を助けに来ておきながら、何を遊んでる。俺に余分な仕事を増やすな」
「なん、だと・・・」
「はいはい、ストップ。ケガ人同士、黙って歩く!」
見かねた加賀美が割って入った。
口喧嘩などで体力を消耗し、これ以上歩みが遅れてはたまらない。

(あと20分・・・)

腕時計を確認すると、焦りが押し寄せてきた。
恐らく、来た道の半分は戻ったと思うのだが。

すでにこの船体内のワームたちはどこか一ヶ所に集まり、『レミングの旅立ち』の時を待っているに違いない。
侵入者のことなど、もう気にも留めずに。

ぐらりと床が揺れた。
足を取られて転びそうになるところを、加賀美たちはなんとか踏みとどまる。

「・・・動き出したか」
天道が低く呟いた。
加賀美から話を聞いた彼は、事態を正確に理解していた。

  *   *

(あと10分・・・まだか、新)

苛々と加賀美陸は腕時計を見つめる。
隕石落下の跡地にはゼクトルーパーを待機させてあるが、間に合わなければ何にもならない。

ぐらりと大地が揺れる感覚に、ルーパーたちがざわめいた。

「うろたえるな、もう少しさがって」
ぎりぎりまで待って息子たちが戻らなければ、彼らの安全のためにもここから離れねば。そう、苦渋の決断をした時。

「・・・親父、手を貸してくれ!」

地面に開いたままのハッチから、待ちわびた息子の声が聞こえた。

「新・・・!」
すぐさまルーパーに指示を出し、息子たちを中から引き上げさせる。
「早くここから離れるんだ!」
脱出が済むや、陸は全員を跡地から撤退させた。
タイムリミットだ。

地面の揺れはますます激しくなり。
やがて大量の土砂を振り落としながらぽっかりと地面から浮き上がったのは、銀色に鈍く輝く楕円形の宇宙船だった。


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楽園依存症候群 [14]

さびしい心が聞きました。
「おとうさんとおかあさんは、ずっとぼくをあいしてくれる?」
魔法使いが答えます。
「ずっと、永遠なんてありはしないよ。もし永遠を願うなら」

時間を止めるしか、ないんだよ。


楽園依存症候群
 [14]



無防備に広げられた矢車の腕に、影山は泣きたいような気持ちで笑みを浮かべた。
自分が本当に刺すわけはない、と思ってるのだろうか。

(甘いよ、兄貴・・・)

以前は触れれば切れそうな眼をしていた矢車だったのに。
矢車は変わった。そして、自分も。
これからも、生きている限り、心はどんどん変化していく。

こうすることが、流れを断ち切る唯一の手段だから。

「・・・じゃあ、また、ね」
戸惑いはもう、なかった。
まるで学校帰りに、友達が軽く挨拶を交わすような調子で。
凍りついた笑顔のまま、影山は矢車の胸にナイフを突き立てた。


「矢車さん! 影山さん!」
あり得ない光景に加賀美は目を疑った。

一体、何が起こったのか。

変身は解除させたものの衰弱した天道に肩を貸し、ようやく矢車たちを見つけたと思えば。
胸を赤く染めて床に倒れている矢車と、その矢車の体を膝に乗せ腕に抱えている影山と。二人の周囲には、大勢の子供たち。

床にできた血溜まりを見て、加賀美は青ざめた。
相当量出血している。

「・・・加賀美、あのバカを止めろ。俺は矢車を・・・」
「天道・・・! けど、お前だって」
加賀美の手を弾き、ふらつきながらも天道は呼吸を整えた。

「誰にものを言ってる。俺は、天の道を往く男だ」

やせ我慢なのは一目瞭然だが、仕方がない。
残された時間はあとわずかだ。

天道たちに気づいた影山は、別段うろたえる様子もなく、もしろ穏やかにさえ見える顔で。
ゆっくりと立ち上がり、血だらけの手で招く。
「お前らも行きたいなら連れてってやるよ、楽園へ」

「影山さん、すみません!」
加賀美は瞬間的に駆け出すと、影山の鳩尾に拳を入れた。
低く呻いて倒れこむ影山をそのまま背に担いで、倒れている矢車を覗き込む。
息は、ある。
薄く眼を開けた矢車を確認して、ひとまず安心した。

「・・・そら、逃げるぞ。歩けるか、矢車」
加賀美に代わって、天道が矢車に肩を貸した。
立ち上がると同時に、パタパタッと血の滴が落ちる。

「ひとりで・・・歩ける。服・・・汚れるぞ・・・」
「心配するな。クリーニング代は、後で請求する」
当然のように言ってのける天道に、矢車もふっと笑みをこぼす。

(どことなく似てるとこあるよな、あの二人・・・)

怪我人同士で肩を貸し合っても、まともに歩けるのかと加賀美は思ったが、自分も影山を背負っていてはどうにもならない。

天道たちが歩き出した後、加賀美は立ち尽くしている子供たちを促した。
「きみたちも早くここから逃げるんだ! えっと・・・その、早く外へ!」
日本語が通じそうにないことを悟り、出口を何度も指差して見せる。
けれど誰一人、その場から動こうとしなかった。

「逃げなきゃ、死んじまうぞ! いい子だから早く!」
懇願に近い思いで、加賀美は叫んだ。
彼らを見殺しにはできない。

『・・・いいから、行って』

突然、頭の中に声が響いた。
声ではなく、直接脳に刻まれるような。

『早く、行っちゃえ』

それは、明らかに子供たちの拒絶だった。

怒りと哀しみが、加賀美の心を支配する。
このやりきれない想いを、どこにぶつけたらいいのだろう。
「あのクソ親父!」
怒りの矛先をとりあえず父親に向け、加賀美は踵を返した。

置き去りにするしかない子供たちを、あえて振り返らずに。

(くっそぉ・・・)
こんな小さな者も救えない、自分の無力さを罵りながら。


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