地獄兄弟は今日も平和

「仮面ライダーカブト」自己満足スピンオフ(笑)! 矢車・影山の地獄兄弟二次小説

完全調和な不協和音 [30]

完全調和な不協和音
 vol.30 嬰ニ短調の終わりと始まり



「二兎を追う者は二兎とも取れ」

残り1丁となった絹ごし豆腐をめぐって、おかしな男と豆腐料理勝負をし、勝った俺にその男はそう言った。

豆腐1丁で麻婆豆腐4人分できるので、俺としては半分でも良かったんだが。
いらないと言うなら、まあいい。
影山に食べさせてやるとして、残った分は先日通販で購入した真空パックのフードセーバーで保存しよう。

しかし豆腐は腐りやすいというのに、妥協せず俺の申し出を断るとは、まったく環境に優しくない男だ。
以前どこかで見かけた気もするが、はっきりと思い出せない。
女性に人気のケータイサイト、『100シーンの恋』でだっただろうか。

田所さんとも久しぶりに顔を合わせた。
ザビーとなった俺の姿を目の当たりにし、幾分驚いた様子だった。
無理もない。
ザビーになることを嫌がっていた、あの頃の俺とは違う。
今は、ザビーであることが俺のプライドだ。

「・・・聞きましたか、カブトのこと?」
珍しく真剣な面持ちで、影山が俺に聞いてくる。
しかし、レンゲに麻婆豆腐をすくいながら言われても、シリアスな会話なのか、それとも熱いから冷めるのを待っているだけなのか判断に困る。

「ああ、『ZECTに入らなければ、倒せ』・・・だろ」
とりあえず、会話を続ける方向で俺は答えた。
「今月中にZECTに入隊すれば、お得なキャンペーンで3万円の入隊祝い金がもらえるんですよね」
「・・・らしいな」
俺も誰か紹介しようかな、などと呟く影山。

ついにZECTにも人材不足の波が押し寄せ、打開策のため、『今ならお得!ZECTに入隊お友達紹介キャンペーン』というものを打ち出してきた。
誰かを紹介すれば、紹介者と被紹介者にそれぞれ3万円がもらえるという。
もっとも、カブトの資格者が3万円に釣られるとは思いがたい。

「もしカブトがZECTに入ったら、矢車さん3万円ゲットですねっ」
影山は羨ましそうな目を向ける。
「・・・そうだな」
俺は疲れたように笑って、適当に返事をした。

カブトがZECTに協力しなければ、マスクドライダー計画に大きな障害となる。
ガタックゼクターはあの一件以来、反省室行きとなり、当分は表舞台にあがれまい。
ドレイクゼクターは風に乗ってどこかへ飛んで行ってしまい、ドレイクグリップごと行方不明となっている。
となれば、今のところ頼みはカブトのみ。

食べ終わるや、影山は「ごちそうさまでした」と言って大きく手を振り去っていく。

その姿に、俺は心が和んだ。
誰もがお前のように単純、いや素直だったら、どんなにいいだろう・・・。

おそらくこれから、俺には色々な試練が待ち受けている。

  *   *

麻婆豆腐に満足し、矢車から離れたところで影山は携帯を取り出した。
いつものように、簡単にリダイヤルを押す。

「・・・矢車さん、カブトを倒す気充分ですよ」
出た相手に、影山は淡々と告げた。

「もうすっかり、ザビーの使命に目覚めてるみたい。俺も、矢車さんが俺たちの仲間になってくれて、とっても嬉しいです」
弾んだ声で無邪気に、けれど無慈悲な天使にも似て。

「分かってます。もし矢車さんがまた不穏な動きを見せたら、報告しますから」
それだけ言って、影山は携帯を切った。

「・・・じゃ、また。三島さん」


そして、運命の歯車が回り出した    


 END


※はい、完結です〜。
長らくのお付き合い、ありがとうございましたv

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完全調和な不協和音 [29]

完全調和な不協和音
 vol.29 変ホ長調の任命



予感していたことが、とうとう現実のものとなった。

日下部の死後、ザビーの志願者たちは『ラブアタック』まがいの過酷な勝負を繰り広げたのだが、最終的に「かぐや姫」もといザビーゼクターが「NO」のスイッチを押したそうだ。
必死に勝ち抜いた挑戦者を、自分の好みであっさり奈落の底へ落としてしまうこの番組のあり方に、視聴者から非難の声が上がったのも無理はない。

いや、問題は、そんな番組のことではなく。

ザビーゼクターは、資格者として俺を選んだ。
そして、俺は胸にザビーの紋章を受け・・・。
次第に、俺自身も変化していった。まるで、ザビーの魔性にとり憑かれたかのように。

「あ、矢車・・・さん?」
「・・・なんだ」

何日か振りで顔を合わせた影山が、怪訝そうに俺を見る。
ザビーの資格者として、しばらく俺は特殊訓練を受けていたため、自分の隊からも離れていた。

「どうした、変な顔をして」
影山があまりにもぼけっとしているものだから、俺はできる限り口調を柔らかくした。
その甲斐あって、ようやく影山も口元を緩める。
「いえ・・・。なんか、ちょっと矢車さん、前と感じが変わったな、って思って」

「・・・そう、かな」
部下に指摘され、苦笑する以外なかった。
自分でも、分かっていることだから。

日下部が命懸けで調べていたZECTの陰謀も、今となってはどうでもよかった。
ZECTが善でも悪でも、俺は組織の命令通りに動くしかない。
精鋭部隊シャドウの隊長であり、ZECT直属のライダーとなった以上は。

「聞きたいんですけど・・・」
おずおずと影山が上目使いで話しかけてくる。
「そう怯えるな。前と同じでいい」
ポンと肩を叩いてやると、影山はその俺の手をガシッと取った。

らしからぬ大胆な行動に少し驚いていると、
「矢車さん、まだ『完全調和』の精神は捨てていませんよねっ?」
「・・・え?」
詰め寄る影山に、俺はあせった。

なんだって、いきなり核心に触れる質問をするのだろう。
まだブラウン管にはザビーさえ登場していないのに、33話以降の話をされても、混乱するだけだ。

「当たり前だろ。完全調和を捨てることはない。俺が、俺である限り・・・」
今だから、言える言葉かもしれない。

「・・・よかった、それでこそ矢車さんです!」
影山は安心したように笑った。

それは、俺が言う台詞だった気がするんだが。
ついでに言えば、英語訳が "That's my Kageyama !" だったため、物議をかもした台詞だと記憶している。

「じゃあ、その黄色いスーツと黄色い靴と、その黄色づくめは止めてくださいねっ」
「・・・え?」

本日2度目の疑問符。

言われてみれば、いつの間にか俺は黄色を好むようになっていた。
身に付けるものまでその嗜好が及んでいることに、今更ながら気づく。

「・・・そんなに変か、この色」
自分のスーツを見回しながら、首をひねった。
どうもやはり、ザビーのせいで感覚まで麻痺しているようだ。

「ネクタイぐらいはいいですけど。上着とズボンは最悪です! しかも黒い縞まで入ってるし」
ズバズバと言う影山に、もはや遠慮というものはないらしい。

「その格好、ぜんぜん調和してない・・・」

影山がそう言ってうつむいたので、俺はなんとか事情が飲み込めた。
一応、俺の変化を心配してくれたと受け取るべきか。
決して、俺のファッションセンスにケチを付けているわけではなく。

「あ、でもハンカチは黄色でいいですよ!」
にこりと笑う影山。

『幸福の黄色いハンカチ』だ・・・。


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完全調和な不協和音 [28]

完全調和な不協和音
 vol.28 嬰ト短調の変調



ついに本編のTV放映が始まり、もとい、マスクドライダー計画が動き始めた。
カブトの資格者だった男は非業の死を遂げ、カブトゼクターはずっと探していた運命の相手とめぐり合ったそうだ。

想い続けていれば、願いは叶う。
それは、切なくも美しく・・・。

「ZECTの冬ソナ」と言われた資格者交代劇は、あっという間にZECTはもとより、スタッフおよび視聴者に忘れ去られた。
哀れなのは、カブトの元資格者だろう。
初登場でいきなり死んでいたので、誰の印象にも残らなかったという。

「加賀美もカブトになりたかったらしいけど・・・あいつじゃなかったんだ・・・」
よかった、と言わんばかりに影山が笑う。
どうも影山は、加賀美とウマが合わないらしい。

加賀美新は、田所さんのチームに新たに配属された新人だった。

「・・・矢車さん、もしかして今のギャグですか?」
「そのつもりはない」
変なところで、影山が反応する。

「最近全然田所さんの姿見ないし・・・せっかくのトリオも解散ですね」
影山が寂しそうに息をついた。

誰と誰が、いつ、何のトリオを結成したというのか。
そう言いかけたが、影山があまりにも元気がないのを見て、俺は言葉を飲み込んだ。

「仕方ないな。田所さんは、加賀美の指導で忙しい身だから」
言いながら、俺も思いを馳せる。

そう。
日下部の葬儀以来、俺たちは田所さんと顔を合わせていない。
決して毎日会いたい人ではないが、こう疎遠になると確かに寂しい気もする。

しかし同じZECT内にいて、全く会わないというのも不思議な話で。
実際、何度か遭遇しかけた場面はあった。
だがことごとく、すれ違う。

廊下で田所さんの声が聞こえ、声をかけようとすると、部下に呼び止められたり。
帰り道で待っていると、その日はなぜか三島さんと一緒になったり。

まるで告白しようと相手を待ち伏せている女子校生のようだが、断じてその気はない。

先日などは「ZECTの社食の餃子に農薬が混入」というデマが流れ、ギョウザ定食を頼んだ田所さんはパニックに陥っていた。
話しかける余裕など、あったものじゃない。

ここまで重なると、意図的な作為を勘ぐりたくなる。
誰かが、俺と田所さんを引き離そうとしているのかもしれない、と。

「矢車さんも寂しいでしょうけど、これからはコンビでがんばりましょう!」
影山が握りこぶしを固めて決意を示すが。

漫才のコンビなら、金輪際願い下げだ。


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完全調和な不協和音 [27]

完全調和な不協和音
 vol.27 変イ長調の告別式



厳寒の最中、日下部の告別式がしめやかに行われた。
ZECTからも、幹部役員、書記、会計、人事、広報係と、そんな部署があったのかと俺も知らないような連中が参列していた。

そして、日下部の親戚や友人たち。
皆暗く沈んだ顔をしていたが、その中のひとりに俺はなんとなく気を引かれた。
作務衣姿に下駄ばきで、なぜか片手に豆腐を持った男。
服装から察するに、本当に弔問者なのかも怪しいが、その男はじっと棺の方に目を向けていて。
変質者だろうか。

「矢車!」
ふいに呼ばれ、そちらを振り向くと、声の主は別の変質者、もとい田所さんだった。
「受付は済ませたか?」
「・・・いえ、まだです」
答えてから、先程の男を目で探したが、もうどこかに行ってしまったらしい。

「今日は一段と冷えるな」
身震いしながら受付に進もうとする田所さんを、俺は呼び止めた。
「田所さん、コートを脱いでください」
「なんだと? こんなところで裸になれというのか! 2人きりの時にしてくれ」

いや、2人きりの時なんて、冗談でも勘弁して欲しい。

「全部脱げなんて、言ってませんよ。そのコート・・・毛皮は駄目です」
俺は溜息をついて、説明する。
葬儀で毛皮はタブーなんだが、なんだってまたミンクのコートなんて。

「そうなのか? 会場は冷えるから、と三島さんがこれを貸してくれたんだが」
「三島さんが・・・?」
俺は眉を顰めた。
三島さんが葬儀のマナーを知らないはずはないのに。

「おっと、いかん。遅れるぞ、矢車!」
田所さんは無頓着に、コートを脱いで受付へと俺を引っ張っていく。
その時、またパタパタとこの場に似つかわしくない足音が走りこんできた。

「わー、遅刻だ、遅刻!」
「・・・影山・・・」
黒い学ランを着た影山の姿に、俺は開いた口が塞がらなかった。
オプションとして、始業のチャイムでも聞こえてきそうだ。

「お前、その格好は・・・」
「あ、これですか。俺、黒いスーツって持ってなくて・・・黒い服持ってない時は、確か学生服でもいいんですよね」

気まずそうに頭をかく影山。
しかし、そもそもの認識が間違っている。
それはあくまで、学生限定だ。

いっきに脱力した俺を尻目に、田所さんと影山は既に記帳を済ませていた。
「遅いぞ、矢車」
「置いてっちゃいますよ!」

・・・この2人にだけは、言われたくない。

芳名帳に記帳しようとして、すぐ上に書かれた田所さんの名前に目を留めると。
なぜか、「田所修一、」の最後に「、」が付いている。
「自分は未完だ」という意味から、あの偉大な俳優が改名したように、この人も何か思うところがあったのだろうか。

ZECTには、謎が多すぎる。
日下部の悲劇を転機に、もしこの人がまともになって俺の味方に付いてくれたら・・・。

「田所さん、この "点" は・・・」
淡い期待を込めて、聞いてみたのだが。

「ん? インクの汚れじゃないか」
あっさりと田所さんに否定され。

「矢車さん、実は香典で今月ピンチで。給料日まで、1万貸してください」
こっそりと影山に耳打ちされ。

俺はますます滅入る心境で、告別式に参列した。

(日下部・・・お前はZECTの秘密をつかんだのか?)

組織を探るための唯一の仲間だった日下部。
お前がいない今、やはりもう、俺ひとりで闘うしかなさそうだ。


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完全調和な不協和音 [26]

完全調和な不協和音
 vol.26 ハ短調の候補者



「・・・それで、田所さん。ザビーはどうなるんですか?」

やや唐突ではあるが、先手必勝。
間髪入れずに、俺は3話目の、もとい3度目の正直で本題を切り出した。

いきなり現実に引き戻され、田所さんや影山は理解が追いつかなかったらしい。

「なに。ザビーの登場は第7話だ、まだ時間がある」
「えっ、撮影はもっと早いじゃないですか!」
何が7話で、何が撮影だか分からないが、田所さんと影山はそんな事を口走る。
よほど混乱しているに違いない。

「・・・つまり、資格者の件は白紙に戻ったということですね」
確認を取ると、田所さんは「うむ」と頷いた。

ザビーに関わった者は、破滅する    
日下部の死とともに、その怪しげな噂はますます広まるだろう。
精鋭部隊シャドウを率いるZECT直属のライダー。シャドウ隊長という地位は魅力でも、リスクが大き過ぎる。
好き好んで資格者に志願する者など、いるはずが・・・。

「今回ザビーの希望者は7人集まった」
「えっ?」
意外な田所さんの台詞。

「この中から数々の試練を勝ち抜き、優勝した者だけが、ザビーにアタックする権利を得る」
「・・・『ラブアタック』ですか」
俺は呆気に取られて呟いた。
『パンチDEデート』や『フィーリングカップル5対5』に比べて、幾分マイナーかもしれない大昔の恋愛バラエティ番組にそういう類のものがあったが。

「矢車さん、せめて『ねるとん』て言わなきゃ。歳、バレますよ」
横から影山が口を挟む。

余計なお世話だ。
それはともかく。

「では、7人のうちの誰かがザビーの資格者に・・・」
「いや、8人だ」
数も間違えるほど平静さを失っているとは。
先程7人だと言った田所さんが、もうひとり付け加えた。

「その7人は、あくまで挑戦者に過ぎん。ZECTが推す資格者は・・・矢車、お前だ」

そう通告する田所さんは、有無を言わせない雰囲気をまとっていて。
もしかしたらと思っていたからこそ、田所さんに確認したかった。

以前の俺なら、なんとしても断っていただろう。
けれど、ザビーになることがZECTの陰謀を暴く近道なら。
日下部が果たせなかったことを引き継ごうと思った。日下部の無念に報いるために。

「そう・・・ですか」
曖昧に同意を示す俺に、
「わー! じゃあ、矢車さんも、フルコースディナーの早食い競争とか、水中での息止め競争とかやるんですよねっ」
「・・・何だそれは」

なぜか目を輝かせて俺を見る影山に、俺は憮然と返事をする。
この部下は、俺がザビーの資格者になることを喜んでくれているのか、それとも俺がフルコースディナーを早食いするのが見たいだけなのか。

おそらく後者じゃないかと思うのは、俺の思い過ごしだろう、きっと。


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