ゼクター・シャッフル |
| 人間、ヒマだとロクなことを考えない。 相棒が「暇つぶし」と称して、妙なゲームをもちかけてきた。 「ここにホッパーゼクターが2つ、それにザビーゼクター。俺たち、二人とも変身できるわけだし・・・たまには変えてみない?」 ジャーンなどと効果音を付けながら、いそいそと鳥籠を引っ張り出す相棒。 どこに隠してたんだ、そんなもの。 というか、鳥籠の中にはザビーゼクターがブンブン飛び回っている。 ・・・どうやら、ザビーゼクターを拉致っていたようだ。 助けを求めるように、ザビーゼクターは俺の方に寄ってくる。 だが俺には、助けてやる義理はない。 「でさ、このアミダでどっちが何に変身するか決めようよ」 またもやジャジャーンと言って、アミダくじが書かれた紙片を取り出してみせる。 つくづく用意のいい奴だ。 選択肢は4つ。 ひとつは空クジらしい。 名前の書かれた部分は既に折り返してあり、俺はそれに適当に線を入れていった。 「じゃ、俺からいい?」 「ああ」 ワクワクと線を辿っていく相棒。 相棒がザビーゼクターの方をちらりと見ると、ザビーゼクターはびくりと震えたようだった。 なるほど。狙いは、こいつ、か。 パンチのホッパーゼクターが不安そうに相棒を見ている(いや、ゼクターに表情はないがそういう雰囲気で)。 ・・・気付いてやれよ。 擦り寄ってくるキックのホッパーゼクターを俺は優しく撫でてやった。 「・・・安心しろ。俺には、お前だけだ」 ゼクターの気持ちを理解しない(いや、ゼクターに感情はないが、以下略)この鈍感男は、どうやら目当てのものを引き当てたらしい。 「やたーっ! ザビーゲット!!」 まるで追い詰められた女を襲う男のように、にやりと笑って相棒はザビーゼクターに手を伸ばす。 マズイだろ、そんな悪人ヅラは。 俺はため息をついて、相棒からアミダの紙を取り上げた。 隠してあった折り返しを広げると、そこにはすべて「ザビー」の文字。 ジロリとねめつけると、相棒は誤魔化し笑いをする。 「あ、ははは・・・。ほんの冗談で・・・」 ザビーゼクターを放してやれよ、と言って、俺は昼寝ができそうな場所を探した。 仕方ない。今日はもう眠ってヒマをつぶすことにしよう。 相棒がまたくだらない提案をする前に。 ※「Pホッパー→影山→ザビー→矢車←→Kホッパーな話」・・・になったでしょうか(苦笑)? リクエストありがとうございましたm(__)m それにしても、不健康な生活を送っている地獄兄弟・・・(笑)。 |
エイプリルフール |
| 真夜中だというのに、この街は眠らない。 駅周辺は、若いカップルや会社帰りのサラリーマンたち、そして夜明かしを決め込んだ俺たちの同業者・・・もとい、宿無したちで溢れ返っていた。 あと10分程で、日付が変わる。 「あっ」 突然、相棒が間抜けな声を上げた。 「今日って、エイプリルフールだった?」 相棒の視線の先には、『エイプリルフールに彼をびっくりさせちゃおう♪』などと意味の分からない文字が躍るポスターがあった。 バレンタインやホワイトデーはしっかり覚えているのに、物品の受け渡しが絡まないイベントごとには疎いらしい。 俺たちのガキの頃は、エイプリルフールは別名『4月バカ』と呼ばれ、バレンタインよりも重要な日だった。 あの頃は、娯楽が少なかったからな。 いや。そんなことを口に出したら、また"若年寄り"などと言われそうだ。 何かいい嘘ないかなぁ、と相棒はしきりに呟いている。 俺に吐(つ)くつもりなら、聞こえていたら意味がないだろう。 相棒はぽんっと膝を叩くと、くるりと俺の方を見て言った。 「俺、兄貴のこと大嫌いだから!」 「・・・・・・」 もしかして、それが嘘のつもりなんだろうか・・・? 呆れて押し黙った俺の沈黙を、失望のしるしと捕らえたのか。 「びっくりした? 嘘だよー、嘘!」 大成功とばかりに相棒はへらりと笑う。 激しく脱力を感じ、俺はため息をついた。 そしてちらりと、壁面に大きく表示された電光板の時刻に目をやる。 「・・・俺は、お前のこと、弟のように大事に思ってるぜ」 「・・・えっ!?」 案の定、相棒は鳩が豆鉄砲を食らったような表情を俺に向けた。 こらえきれなくて、俺はくっくっと笑いを漏らす。 現在時刻は、0時ジャスト。 嘘なのか、本当なのか。 相棒も、その時間の微妙なトリックに気付いたようだ。 「ちょ・・・、兄貴、それ反則!」 わめく相棒に、答えてやる気など毛頭ない。 「はっはっはっ」 今度は声に出して笑った。 たまには、こんな茶番もいい。 エイプリルフール |
北風と太陽 |
| 「暑いねー、兄貴暑くない?」 パタパタと手で扇ぎながら、さっきから相棒がうるさい。 まだ春先だというのに、最高気温は20℃まで上がるだろうという天気予報の予測はどうやら当たりそうだ。 「暑いならコートを脱げばいいだろう」 「えー、やだよ。せっかく兄貴とおそろいなのに」 兄貴が脱ぐなら俺も脱ぐけど、という相棒の台詞はあえて無視する。 「・・・北風と太陽の話を知っているか?」 我ながら、童話もないものだと思ったが、相棒に話すにはそのくらいのレベルがちょうどいい。 「北風と太陽が勝負をした。勝負の方法は、旅人のマントをどちらが脱がせることができるか、というもので・・・」 幼い頃に読んだ記憶を頼りに、俺は続けた。 だが語り出したものの、思いのほか覚えていない。 マズい・・・。どんな話だった? 詰まりがちになる俺の言葉に、相棒は「そうそう、それそれ!」と相槌を打つ。 いつからお前は、メイクアップ・アーティストになったんだ。 「子供向けの話なのに、教育上よくないよねー。北風も太陽もホモだったんでしょ。旅人の服を脱がせようなんて、スケベだよねー」 ・・・相棒。激しく歪んだ解釈をしていないか? 少なくとも、そんな話じゃなかったと思うんだが。 異議を唱えたかったが、はっきりと話の筋を覚えていない俺には何も言う資格はない。 「・・・今日は暑いな」 俺はあいまいな返事をして、その会話を無理やり終わらせた。 黒いロングコートは、それでも脱ぐことはしなかったけれど。 |
ホワイトデー |
| 「兄貴、今日なんの日か知ってる?」 またもや相棒が猫なで声で聞いてくる。 その台詞は、一ヶ月前にも聞いた。 ホワイトデーのことを言いたいのが丸分かりだ。 だが、待て。 俺は相棒にチョコをやってもいなければもらってもいない。 バレンタインの時にそういった事実がない以上、今回のホワイトデーは無関係じゃないのか。 そもそもキリスト教とは無縁の、菓子メーカーがでっちあげた日本だけの行事だろう。 「知らん」 相棒にねだられてもたまらない。 俺は素知らぬ振りを通すことにした。 「えー、知らないの兄貴」 「ああ」 あからさまに残念そうな相棒の顔。 「今日はさっ、五木ひ○しの誕生日なんだよ」 「・・・・・・」 耳が遠くなったんだろうか。 俺は相棒の言ったことが飲み込めない。 黙ったままの俺に相棒はもう一度繰り返す。 「やだなー、聞いてなかったの? だから五木○ろしの誕生日だって」 ・・・お前、確かハタチだよな。 どうしてそんな昭和世代演歌系の、しかも誕生日まで知っているんだ。 「ホワイトデーとか言うだろ、普通」 驚きが、つい言葉に出てしまった。 「あ、なんだ。兄貴知ってるじゃない」 にまっと笑う相棒に、乗せられた、と思ったがもう遅い。 「安心してよ。別に兄貴に何かもらおうと思ってるんじゃないからさ」 ・・・当たり前だ。 「来年は俺、バレンタインに何か兄貴に贈るから」 気持ち悪いからいらん、と断ると、感謝の気持ちだよ、と相棒は言う。 「・・・手作りチョコだけはやめろ」 「うん。俺、兄貴みたいに料理うまくないし」 そういう問題じゃないんだが。 「だから、ホワイトデーは3倍返しねっ」 したたかな弟分に、俺はため息をついた。 仕方がない。 必殺のキックを見舞うのは、来年まで延期しておいてやろう。 |
試食 |
| 今まで何があっても屈しなかった俺が。 あまりにも腹が減っていたため、ついに相棒の甘言に乗ってしまった。 「兄貴、スーパー行こうよ! 今日と明日はカレーの試食販売やってるはずだからさ」 ウキウキと俺を誘う相棒を拒む力は、俺には残っていなかった。 「あ、今度の日曜日はアイスの試食もやるって。だいぶあったかくなってきたもんねぇ」 一体どこからそんな情報を仕入れてくるんだ、こいつは。 ZECTにも負けない影山の情報網に俺は舌を巻いた。 「で、なんで茶碗を持ってるんだ」 「だって、試食の皿小さいし・・・」 どこから茶碗なんか拾ってきたのか。しかも端が欠けている。不衛生だろう。 いや、その前に、お前にはプライドはないのか。 「来週あたりは麻婆豆腐やるらしいよ」 ・・・もう勝手にしてくれ。 俺はヤケクソ気味に相槌を打った。 「そりゃ、楽しみだな」 「いや、来週は俺行かないよ」 「どうしてだ?」 麻婆豆腐は相棒の好物だ。食い意地の張ったこいつなら、絶対飛んでいって鍋ごと奪うのではないかと思っていたんだが。 「だって、兄貴の作るのが一番うまいんだもん」 兄貴が作ってくれるやつを真っ先に食べたいんだ、と言って相棒は笑った。 ・・・本当にバカな奴だ。 なぁ。 いつかまた光の中で、お前に麻婆豆腐を作ってやれる日が来るのだろうか。 |
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