鬼殺し [10] |
| 鬼殺し [10] 失血しているのか。 急速に体が冷えていく感覚だけがあった。 (・・・バカだな。体が死ねば、『俺たち』はどっちも存在できないのに・・・) 信じられない、と言いたげに鬼が訴える。 鬼も今、同じ感覚を味わっているに違いない。 (だけど、これでお前は、兄貴に悪さできないだろ・・・?) 影山は満足だった。 自分の手で、舞台の幕を引けたのだから。 (死ぬぞ・・・) (・・・そうかな) 死んでもいい、と影山は思っていた。 でも。 あの時の矢車の言葉がよみがえる。 生きろ、と言った矢車。 だから、きっと。 (・・・兄貴が、俺を生かしてくれるよ) * * 時刻が、午後3時を告げた。 一瞬強く冷たい風が体を吹き抜け、影山は身震いする。 「・・・寒っ!」 歩道の真ん中で、バケットを持ったまま突っ立っている自分に、首をひねった。 パン屋を出て、何をするつもりだったのだろう。 「そうだ、買い出し!」 慌てて腕時計を見た。矢車が仕事から帰ってくるまでに済ませておかないと。 ノルウェーの冬は、昼間が短いのだ。 パンと野菜、肉を、両腕に持てる限り買い込んで、影山はアパートに戻った。 荷物をテーブルの上に置いて、コートとマフラーをハンガーに掛ける。 「・・・あれ?」 ふと鏡に映った自分の姿に目を留めた。 「俺・・・いつ、こんな怪我したかな」 頬の傷は、もう目立たないほどになっている。 しかし、首に横一直線に、真新しい傷跡があった。 (変だなー、なんでこんなとこ・・・) 触ると、まだ少し痛む。結構深く切ったようだが、影山にはまったく覚えがない。 「・・・まあ、いいや。そのうち治るだろ」 思い出せないことを、いつまでも考えていても無意味だ。 この傷も、時が経てばやがては治る。 頬に受けた、裏切りと失意の傷が、今はすっかり癒えているように。 カーテンを引く前に空を見上げると、ふわふわと白いものが落ちてきた。 「うわっ、降ってきた!もー、だから傘持ってけって言ったのにさ」 ばたばたと再び外に出るための身支度を整える。 2本の傘を持って、影山はアパートを飛び出した。 しんしんと音もなく降る雪。 白夜の国が、今夜は、本当に白く覆われそうだった。 END ※お付き合い頂き、ありがとうございました。 久しぶりに本編に沿ったお話が書けて、楽しかったですv 皆様のイメージを壊していないことを祈りつつ・・・。 |
鬼殺し [9] |
| 鬼殺し [9] 矢車は自分に立ち向かえ、と言う。心の鬼に屈するな、と。 「どう・・・やってさ?」 自嘲気味に影山は笑った。 もはや、どうにもならないことなのだ。 じきに、自分の体はワームに飲み込まれる。 それを少しでも抑えようと、影山はホッパーゼクターを手にした。 (これが、俺の・・・人間としての・・・最後の変身) ライダースーツに身を包まれる影山を、矢車は直視できずに顔をそらす。 自分と対になる、同じ姿。それはまさに、兄弟のようで。 「・・・それがお前の望み、か」 ふらふらと緩慢な動きで、矢車もゼクターをベルトに装着する。 自分が何をしようとしているのか、はっきりと自覚できないまま。 もう自我を保っているのが限界だった。 「・・・さよならだ、兄貴・・・」 呟いたところで、影山の意識は真っ白になった。 * * 優しい兄貴。 俺の望み通り、引導を渡してくれたのは、兄貴。 でも、結果は・・・? 俺は生き延び、俺の中のワームも意識の奥底に、今なお潜んで。 俺は、自分で戦うことをしなかった。 ただ、兄貴に頼り。 兄貴の心に、俺への罪悪感を植えつけただけ。 トクン、トクン・・・と、まだ心臓の音が聞こえる。 次第に弱くなっているようではあるけれど。 やがてその音も止まるだろう、と影山は思った。 (・・・死にはしない。仮死状態だ) 鬼が嬉しそうに話しかけてくる。 (ゲームは俺の勝ち。俺を殺せなかった『お前』は、俺に取って代わられる) 鬼の囁きを、影山は何の感慨もなく聞いていた。 どうせ、死んだも同然の身なら、どうでもよかったのだが。 (・・・『俺』に取って代わって・・・『お前』はどうするのさ) (自由を手に入れるんだ。そのためにも、邪魔な兄貴は殺しとかないとね・・・) (・・・え?) 弾かれたように、思わずビクリとした。 (どうして・・・兄貴まで・・・) (あれ、自覚してなかった? 兄貴のせいで、俺は今までひどい目を見てきたのにさ) 自分の中のワームが矢車に向けた殺意を、影山は思い出した。 鬼は、矢車に憎悪を抱いている。 そしてそれは、確かに自分の一部でもあるのかもしれなかった。 心の闇を、受け入れよう けれど、その暴走は認められない。絶対に。 (・・・お前に、兄貴はやらない) 自らの意志で、鬼に打ち勝つために。 影山は出来る限り心をクリアにし、ただひとつの思いに集中した。 (兄貴は・・・殺させない) 今この瞬間が、現実なのか夢なのか、分からない。 影山の腕は、既に動かせる状態のはずはなく。 視界は真っ暗で、自分の姿さえも見えない上、傍にいてくれるだろう矢車の気配も感じられなかったから。 折りたたんだナイフを開く音だけが、闇にこだまする。 (・・・消えろ・・・!) 自分の首に当てたナイフの切っ先を、影山は躊躇なく横に滑らせた。 →NEXT |
鬼殺し [8] |
| 俺の弱さが、すべての良くない結果を招いた。 俺の中で、『お前』はのさばり、再び現れる機を狙い。 そして、兄貴には、兄弟殺しという十字架を背負わせて 鬼殺し [8] 何がなんだか、訳が分からない。 促されるまま、戦いの場から離れた影山は、ふらふらとよろめき歩いた。 ワームの矢車。 自分にマシンガンブレードを向けるワームたち。あれは、ゼクトルーパーだったのだろうか。 (なんだって、いきなりみんな変になっちゃったんだ・・・) 人のいないところを選んだつもりだったが、それでも何人かとすれ違う。 影山と出くわした人々は、皆例外なく悲鳴をあげて逃げていった。 (なんだ・・・?) 彼らの恐怖の対象が、自分だとは夢にも思わずに。 「バ・・・バケモノめ!」 石を投げつけてくる子供の声に、影山は初めて自分の姿を意識した。 震えながら両手を見つめ、次にゆっくりと体を見回す。 (これ・・・は・・・) 「は・・・ははは・・・」 影山は乾いた笑い声をあげた。 この姿では、涙を流すことはできなさそうだ。 ワームだったのは、矢車ではなく 『そんな姿で、生きていくくらいなら、殺してあげるよ』 矢車に言った言葉が、今度はそのまま自分に跳ね返る。 (こんな姿で生きていくのなら・・・) 足を引きずるようにして、影山は埠頭を目指した。矢車との約束の場所へ。 (殺してよ・・・俺を・・・) それが、唯一の願い。 もう希望は持たない。何も、望まない。 * * 俺は、兄貴に殺されることを望んでしまった。自分で自分を殺すことが、できなかったから。 だから、兄貴の手に委ねた。 「・・・遅かったな、兄弟」 港で待つ矢車のもとに、影山は現れた。かろうじて人間の姿で。 歩くのも辛そうな影山に、矢車は出来る限り平静を装った。 「頼みがあるんだ、兄貴・・・」 日が落ちて暗い海を眺めながら、影山は声にならない声で呟く。 オレヲ、コロシテ。 唇の動きが、死を望む言葉を形作った。 強い懇願の眼差しに一瞬顔を歪めた矢車だが、きっぱりと言い放つ。 「・・・ダメだ。生きろ」 「俺は・・・もう俺じゃない。体だけじゃなくて・・・俺の心の中に、ワームがいる」 「だったら、それは、お前が自分で退治すればいい」 「・・・できっこないだろ! 俺自身だ!」 無理難題を言う矢車に、腹が立った。 (俺のことなんて、何も知らないくせに・・・) (今になって優しくするなんて、兄貴は自分勝手だ) ・・・そう、自分勝手だ。 (俺は、兄貴ほど強くないのに) ・・・そう、俺は弱いんだよ。 自分を正当化し、自分で相槌を打つ。 そんな影山をじっと見つめ、矢車は言った。 「だが、心に棲む鬼は、お前でなきゃ倒せないんだぜ?」 →NEXT |
鬼殺し [7] |
| 鬼殺し [7] (俺がこんなになって、内心喜んでるのさ、兄貴は) (・・・そんな・・・こと) (よーく見てみろよ、兄貴の顔。どことなく嬉しそうじゃない?) そんな心のざわめきに、影山は矢車の表情を凝視した。 言葉の魔力は、暗示や思い込みを誘発して。 影山を安心させようとする矢車の笑みがぎこちないのは、偽りの仮面のせい。 自分に向ける珍しい優しさは、裏切りを悟らせないため。 一度走り出した思考は、止まることを知らない。 (やっぱり・・・兄貴は・・・) 影山の視界の中で、見る間に膨れ上がっていく矢車の体。 世界がまた、赤く染まる。 (俺に、嘘ついてたんだ) 失意と憎しみの気持ちだけが、どんどん肥大した。 きっかけはどうであれ、今は影山にとって矢車は大切な存在だった。 矢車も同じように思ってくれていると、そう信じたかったのに。 影山に腕を伸ばしてくる、矢車のなれの果ての怪物。 襲い掛かろうとしているのだろうか。 ならば、殺される前に。 「殺して・・・やる・・・」 「相棒! よせ、お前まだ熱が・・・」 さも心配しているかのような台詞が、しらじらしい。 今や完全にワームに変わった矢車が、影山の目に映っていた。 * * 狭い路地裏で、ワームに変貌する影山の姿を、矢車はなす術もなく見つめる。 「・・・目を覚ませ、相棒!」 呼びかけても、影山の心には届いていない。 遅過ぎたのだろうか、と矢車は悔やんだ。 (もっと早く、気付いてやれたら・・・) いつまでも背を向けていないで、もっと早く、自分たちは光を求めて歩き出していればよかったのかもしれない。 もとは影山だったワームに襟首を持ち上げられ、矢車は殴り飛ばされた。 コンクリートの壁にしたたか背を打ち付ける。 外に置かれた、どこかの家のゴミバケツが反動で倒れ、蓋がころころと転がった。 その転がった先に、この場所に不釣合いな大勢の靴音が轟いた。 さらに、マシンガンに弾を装填する音が続く。 (『ワーム狩り』だ・・・!) ネックレス効果で発覚したワームを始末するための、ゼクトルーパーたち。 ルーパー部隊の銃口がすべて影山に向けられるのを目にした時、矢車の背筋がさっと冷えた。 「やめろ!」 叫ぶと同時に、矢車は立ち上がり駆け出していた。 * * 耳をつんざくような銃声がして。 矢車に飛びつかれ、二人でもつれるようにして数回地を横転する。 背後の壁には、幾つもの弾痕がうがたれ、硝煙を上げていた。 「逃げろ、早く・・・! 今夜、埠頭で落ち合おう」 「・・・あ」 矢車に庇われたのだ、とようやく影山は思い至った。 マシンガンブレードを構えるゼクトルーパーたちも、影山にとっては怪物そのものだった。 「どう・・・して・・・?」 どうして、自分を助けようとするのだろう。 「生き抜くんだ、相棒。・・・俺たちの光を掴むために」 それだけ言って、矢車は影山の肩をトンと押す。行け、という合図。 物陰に隠れながら、わざと大きな音を立てて矢車はルーパーの注意を引いた。 『生きろ』 矢車の言葉に追い立てられるように、影山は弾丸が飛び交う中を走り去った。 →NEXT |
鬼殺し [6] |
| 巻き戻した時間を、再び、進めよう。 たとえ、同じ間違いを繰り返すとしても 鬼殺し [6] 相棒の言葉に、矢車は大きく目を見開いた。 その衝撃の度合いを満足げに観察して、影山は続ける。 「俺を弟にしたのは、なぜ? 復讐・・・それとも地獄への道連れが欲しかった?」 「・・・・・・」 矢車は答えられない。 ただ体の横で、ぎゅっと拳を握り締めるだけ。 「利用して、いつだって簡単に俺を捨てるつもりだったんだろ。俺を闇の中に放り出してさ」 「・・・違う」 「やっぱり復讐? なら、叶ったね。だって今俺はもう、抜け出せない暗闇の中にいるんだから」 ワームへの変貌を示唆しているのだろうか。 他人事のように話す影山に、矢車は眉を顰めた。 「嬉しいでしょ、兄貴。兄貴が知らない地獄を、俺が味わってるなんて」 自虐的で、自暴自棄。 しかし、そういった表現が当てはまらないほど、影山は心から愉快そうに見えた。 (もう少し楽しませてもらおうかな・・・) どうせ、勝敗の見えているゲーム。 矢車に向けられた殺気はふっと消え、影山はズルズルとへたり込んだ。 * * (・・・ひどい熱だ) 目を閉じたまま苦しげな呼吸をする影山の額に手を当て、矢車は舌打ちする。 相棒を助けてやれる手段が、今の自分には、ない。 「兄・・・貴」 うっすらと目を開けて、無理に笑顔を作ろうとする姿が、痛々しかった。 「なんか俺、変な夢見てたみたい・・・」 「しゃべらなくて、いい」 影山に毛布をかけてやりながら、矢車はその右手も毛布で覆い隠す。 自分の異形の手を見れば、また影山がおかしくなってしまうかもしれない。 「安心しろ、何があってもお前を見捨てたりしないから・・・」 「兄貴・・・?」 「・・・絶対に、見捨てない」 それは、自分自身への誓い。 確かに初めは、同じ地獄に引きずり込みたいだけだった。 光など、求めるつもりもなかったが。 影山がワームに変わりつつあることを知った上で、矢車は白夜の国に共に行こうと告げた。 希望という光を掴ませてやるために。 「俺たちは、ずっと一緒だ」 見捨てられることを影山が恐れているのなら、その反対のことを伝えてやればいい。 * * どうして今日はそんなに優しいのだろう、と影山はぼんやりと思う。 ZECTにいた頃はともかく、矢車が自分に優しい態度を取ることなんて、今までなかったのに。 「く・・・っ!」 毛布の下の右手がズキンと痛み、影山は呻いた。 (だまされるな。所詮は、偽善と欺瞞) 冷たい声が、意識に直接響き渡る。 猜疑心と劣等感に凝り固まった、魔物の声が。 (いいかげん認めろよ) (・・・何を、だよ) 影山はいつの間にか、自分の中のワームと対話を始めている。 (まあ、認めたからって何も変わんないけど) (だから、何を・・・) 楽しげに声を弾ませて。 (自分が誰からも愛されない、必要とされない、ってことをさ) 諭すように、ワームはそう言った。 →NEXT |
1000番単位や71111等を踏まれた方は、お知らせいただけると嬉しいです(^^)
⇒キリ番の方々
リクエストがあれば、書かせていただきます(BLの場合は、その旨お書き添えください。別館でアップします)。
コメント欄か、下のメールフォームにてお気軽にどうぞ。
※別館はコチラです。閲覧にはご注意を。
since 2007.1.7
