鬼殺し [10] |
| 鬼殺し [10] 失血しているのか。 急速に体が冷えていく感覚だけがあった。 (・・・バカだな。体が死ねば、『俺たち』はどっちも存在できないのに・・・) 信じられない、と言いたげに鬼が訴える。 鬼も今、同じ感覚を味わっているに違いない。 (だけど、これでお前は、兄貴に悪さできないだろ・・・?) 影山は満足だった。 自分の手で、舞台の幕を引けたのだから。 (死ぬぞ・・・) (・・・そうかな) 死んでもいい、と影山は思っていた。 でも。 あの時の矢車の言葉がよみがえる。 生きろ、と言った矢車。 だから、きっと。 (・・・兄貴が、俺を生かしてくれるよ) * * 時刻が、午後3時を告げた。 一瞬強く冷たい風が体を吹き抜け、影山は身震いする。 「・・・寒っ!」 歩道の真ん中で、バケットを持ったまま突っ立っている自分に、首をひねった。 パン屋を出て、何をするつもりだったのだろう。 「そうだ、買い出し!」 慌てて腕時計を見た。矢車が仕事から帰ってくるまでに済ませておかないと。 ノルウェーの冬は、昼間が短いのだ。 パンと野菜、肉を、両腕に持てる限り買い込んで、影山はアパートに戻った。 荷物をテーブルの上に置いて、コートとマフラーをハンガーに掛ける。 「・・・あれ?」 ふと鏡に映った自分の姿に目を留めた。 「俺・・・いつ、こんな怪我したかな」 頬の傷は、もう目立たないほどになっている。 しかし、首に横一直線に、真新しい傷跡があった。 (変だなー、なんでこんなとこ・・・) 触ると、まだ少し痛む。結構深く切ったようだが、影山にはまったく覚えがない。 「・・・まあ、いいや。そのうち治るだろ」 思い出せないことを、いつまでも考えていても無意味だ。 この傷も、時が経てばやがては治る。 頬に受けた、裏切りと失意の傷が、今はすっかり癒えているように。 カーテンを引く前に空を見上げると、ふわふわと白いものが落ちてきた。 「うわっ、降ってきた!もー、だから傘持ってけって言ったのにさ」 ばたばたと再び外に出るための身支度を整える。 2本の傘を持って、影山はアパートを飛び出した。 しんしんと音もなく降る雪。 白夜の国が、今夜は、本当に白く覆われそうだった。 END ※お付き合い頂き、ありがとうございました。 久しぶりに本編に沿ったお話が書けて、楽しかったですv 皆様のイメージを壊していないことを祈りつつ・・・。 |
鬼殺し [9] |
| 鬼殺し [9] 矢車は自分に立ち向かえ、と言う。心の鬼に屈するな、と。 「どう・・・やってさ?」 自嘲気味に影山は笑った。 もはや、どうにもならないことなのだ。 じきに、自分の体はワームに飲み込まれる。 それを少しでも抑えようと、影山はホッパーゼクターを手にした。 (これが、俺の・・・人間としての・・・最後の変身) ライダースーツに身を包まれる影山を、矢車は直視できずに顔をそらす。 自分と対になる、同じ姿。それはまさに、兄弟のようで。 「・・・それがお前の望み、か」 ふらふらと緩慢な動きで、矢車もゼクターをベルトに装着する。 自分が何をしようとしているのか、はっきりと自覚できないまま。 もう自我を保っているのが限界だった。 「・・・さよならだ、兄貴・・・」 呟いたところで、影山の意識は真っ白になった。 * * 優しい兄貴。 俺の望み通り、引導を渡してくれたのは、兄貴。 でも、結果は・・・? 俺は生き延び、俺の中のワームも意識の奥底に、今なお潜んで。 俺は、自分で戦うことをしなかった。 ただ、兄貴に頼り。 兄貴の心に、俺への罪悪感を植えつけただけ。 トクン、トクン・・・と、まだ心臓の音が聞こえる。 次第に弱くなっているようではあるけれど。 やがてその音も止まるだろう、と影山は思った。 (・・・死にはしない。仮死状態だ) 鬼が嬉しそうに話しかけてくる。 (ゲームは俺の勝ち。俺を殺せなかった『お前』は、俺に取って代わられる) 鬼の囁きを、影山は何の感慨もなく聞いていた。 どうせ、死んだも同然の身なら、どうでもよかったのだが。 (・・・『俺』に取って代わって・・・『お前』はどうするのさ) (自由を手に入れるんだ。そのためにも、邪魔な兄貴は殺しとかないとね・・・) (・・・え?) 弾かれたように、思わずビクリとした。 (どうして・・・兄貴まで・・・) (あれ、自覚してなかった? 兄貴のせいで、俺は今までひどい目を見てきたのにさ) 自分の中のワームが矢車に向けた殺意を、影山は思い出した。 鬼は、矢車に憎悪を抱いている。 そしてそれは、確かに自分の一部でもあるのかもしれなかった。 心の闇を、受け入れよう けれど、その暴走は認められない。絶対に。 (・・・お前に、兄貴はやらない) 自らの意志で、鬼に打ち勝つために。 影山は出来る限り心をクリアにし、ただひとつの思いに集中した。 (兄貴は・・・殺させない) 今この瞬間が、現実なのか夢なのか、分からない。 影山の腕は、既に動かせる状態のはずはなく。 視界は真っ暗で、自分の姿さえも見えない上、傍にいてくれるだろう矢車の気配も感じられなかったから。 折りたたんだナイフを開く音だけが、闇にこだまする。 (・・・消えろ・・・!) 自分の首に当てたナイフの切っ先を、影山は躊躇なく横に滑らせた。 →NEXT |
鬼殺し [8] |
| 俺の弱さが、すべての良くない結果を招いた。 俺の中で、『お前』はのさばり、再び現れる機を狙い。 そして、兄貴には、兄弟殺しという十字架を背負わせて 鬼殺し [8] 何がなんだか、訳が分からない。 促されるまま、戦いの場から離れた影山は、ふらふらとよろめき歩いた。 ワームの矢車。 自分にマシンガンブレードを向けるワームたち。あれは、ゼクトルーパーだったのだろうか。 (なんだって、いきなりみんな変になっちゃったんだ・・・) 人のいないところを選んだつもりだったが、それでも何人かとすれ違う。 影山と出くわした人々は、皆例外なく悲鳴をあげて逃げていった。 (なんだ・・・?) 彼らの恐怖の対象が、自分だとは夢にも思わずに。 「バ・・・バケモノめ!」 石を投げつけてくる子供の声に、影山は初めて自分の姿を意識した。 震えながら両手を見つめ、次にゆっくりと体を見回す。 (これ・・・は・・・) 「は・・・ははは・・・」 影山は乾いた笑い声をあげた。 この姿では、涙を流すことはできなさそうだ。 ワームだったのは、矢車ではなく 『そんな姿で、生きていくくらいなら、殺してあげるよ』 矢車に言った言葉が、今度はそのまま自分に跳ね返る。 (こんな姿で生きていくのなら・・・) 足を引きずるようにして、影山は埠頭を目指した。矢車との約束の場所へ。 (殺してよ・・・俺を・・・) それが、唯一の願い。 もう希望は持たない。何も、望まない。 * * 俺は、兄貴に殺されることを望んでしまった。自分で自分を殺すことが、できなかったから。 だから、兄貴の手に委ねた。 「・・・遅かったな、兄弟」 港で待つ矢車のもとに、影山は現れた。かろうじて人間の姿で。 歩くのも辛そうな影山に、矢車は出来る限り平静を装った。 「頼みがあるんだ、兄貴・・・」 日が落ちて暗い海を眺めながら、影山は声にならない声で呟く。 オレヲ、コロシテ。 唇の動きが、死を望む言葉を形作った。 強い懇願の眼差しに一瞬顔を歪めた矢車だが、きっぱりと言い放つ。 「・・・ダメだ。生きろ」 「俺は・・・もう俺じゃない。体だけじゃなくて・・・俺の心の中に、ワームがいる」 「だったら、それは、お前が自分で退治すればいい」 「・・・できっこないだろ! 俺自身だ!」 無理難題を言う矢車に、腹が立った。 (俺のことなんて、何も知らないくせに・・・) (今になって優しくするなんて、兄貴は自分勝手だ) ・・・そう、自分勝手だ。 (俺は、兄貴ほど強くないのに) ・・・そう、俺は弱いんだよ。 自分を正当化し、自分で相槌を打つ。 そんな影山をじっと見つめ、矢車は言った。 「だが、心に棲む鬼は、お前でなきゃ倒せないんだぜ?」 →NEXT |
鬼殺し [7] |
| 鬼殺し [7] (俺がこんなになって、内心喜んでるのさ、兄貴は) (・・・そんな・・・こと) (よーく見てみろよ、兄貴の顔。どことなく嬉しそうじゃない?) そんな心のざわめきに、影山は矢車の表情を凝視した。 言葉の魔力は、暗示や思い込みを誘発して。 影山を安心させようとする矢車の笑みがぎこちないのは、偽りの仮面のせい。 自分に向ける珍しい優しさは、裏切りを悟らせないため。 一度走り出した思考は、止まることを知らない。 (やっぱり・・・兄貴は・・・) 影山の視界の中で、見る間に膨れ上がっていく矢車の体。 世界がまた、赤く染まる。 (俺に、嘘ついてたんだ) 失意と憎しみの気持ちだけが、どんどん肥大した。 きっかけはどうであれ、今は影山にとって矢車は大切な存在だった。 矢車も同じように思ってくれていると、そう信じたかったのに。 影山に腕を伸ばしてくる、矢車のなれの果ての怪物。 襲い掛かろうとしているのだろうか。 ならば、殺される前に。 「殺して・・・やる・・・」 「相棒! よせ、お前まだ熱が・・・」 さも心配しているかのような台詞が、しらじらしい。 今や完全にワームに変わった矢車が、影山の目に映っていた。 * * 狭い路地裏で、ワームに変貌する影山の姿を、矢車はなす術もなく見つめる。 「・・・目を覚ませ、相棒!」 呼びかけても、影山の心には届いていない。 遅過ぎたのだろうか、と矢車は悔やんだ。 (もっと早く、気付いてやれたら・・・) いつまでも背を向けていないで、もっと早く、自分たちは光を求めて歩き出していればよかったのかもしれない。 もとは影山だったワームに襟首を持ち上げられ、矢車は殴り飛ばされた。 コンクリートの壁にしたたか背を打ち付ける。 外に置かれた、どこかの家のゴミバケツが反動で倒れ、蓋がころころと転がった。 その転がった先に、この場所に不釣合いな大勢の靴音が轟いた。 さらに、マシンガンに弾を装填する音が続く。 (『ワーム狩り』だ・・・!) ネックレス効果で発覚したワームを始末するための、ゼクトルーパーたち。 ルーパー部隊の銃口がすべて影山に向けられるのを目にした時、矢車の背筋がさっと冷えた。 「やめろ!」 叫ぶと同時に、矢車は立ち上がり駆け出していた。 * * 耳をつんざくような銃声がして。 矢車に飛びつかれ、二人でもつれるようにして数回地を横転する。 背後の壁には、幾つもの弾痕がうがたれ、硝煙を上げていた。 「逃げろ、早く・・・! 今夜、埠頭で落ち合おう」 「・・・あ」 矢車に庇われたのだ、とようやく影山は思い至った。 マシンガンブレードを構えるゼクトルーパーたちも、影山にとっては怪物そのものだった。 「どう・・・して・・・?」 どうして、自分を助けようとするのだろう。 「生き抜くんだ、相棒。・・・俺たちの光を掴むために」 それだけ言って、矢車は影山の肩をトンと押す。行け、という合図。 物陰に隠れながら、わざと大きな音を立てて矢車はルーパーの注意を引いた。 『生きろ』 矢車の言葉に追い立てられるように、影山は弾丸が飛び交う中を走り去った。 →NEXT |
鬼殺し [6] |
| 巻き戻した時間を、再び、進めよう。 たとえ、同じ間違いを繰り返すとしても 鬼殺し [6] 相棒の言葉に、矢車は大きく目を見開いた。 その衝撃の度合いを満足げに観察して、影山は続ける。 「俺を弟にしたのは、なぜ? 復讐・・・それとも地獄への道連れが欲しかった?」 「・・・・・・」 矢車は答えられない。 ただ体の横で、ぎゅっと拳を握り締めるだけ。 「利用して、いつだって簡単に俺を捨てるつもりだったんだろ。俺を闇の中に放り出してさ」 「・・・違う」 「やっぱり復讐? なら、叶ったね。だって今俺はもう、抜け出せない暗闇の中にいるんだから」 ワームへの変貌を示唆しているのだろうか。 他人事のように話す影山に、矢車は眉を顰めた。 「嬉しいでしょ、兄貴。兄貴が知らない地獄を、俺が味わってるなんて」 自虐的で、自暴自棄。 しかし、そういった表現が当てはまらないほど、影山は心から愉快そうに見えた。 (もう少し楽しませてもらおうかな・・・) どうせ、勝敗の見えているゲーム。 矢車に向けられた殺気はふっと消え、影山はズルズルとへたり込んだ。 * * (・・・ひどい熱だ) 目を閉じたまま苦しげな呼吸をする影山の額に手を当て、矢車は舌打ちする。 相棒を助けてやれる手段が、今の自分には、ない。 「兄・・・貴」 うっすらと目を開けて、無理に笑顔を作ろうとする姿が、痛々しかった。 「なんか俺、変な夢見てたみたい・・・」 「しゃべらなくて、いい」 影山に毛布をかけてやりながら、矢車はその右手も毛布で覆い隠す。 自分の異形の手を見れば、また影山がおかしくなってしまうかもしれない。 「安心しろ、何があってもお前を見捨てたりしないから・・・」 「兄貴・・・?」 「・・・絶対に、見捨てない」 それは、自分自身への誓い。 確かに初めは、同じ地獄に引きずり込みたいだけだった。 光など、求めるつもりもなかったが。 影山がワームに変わりつつあることを知った上で、矢車は白夜の国に共に行こうと告げた。 希望という光を掴ませてやるために。 「俺たちは、ずっと一緒だ」 見捨てられることを影山が恐れているのなら、その反対のことを伝えてやればいい。 * * どうして今日はそんなに優しいのだろう、と影山はぼんやりと思う。 ZECTにいた頃はともかく、矢車が自分に優しい態度を取ることなんて、今までなかったのに。 「く・・・っ!」 毛布の下の右手がズキンと痛み、影山は呻いた。 (だまされるな。所詮は、偽善と欺瞞) 冷たい声が、意識に直接響き渡る。 猜疑心と劣等感に凝り固まった、魔物の声が。 (いいかげん認めろよ) (・・・何を、だよ) 影山はいつの間にか、自分の中のワームと対話を始めている。 (まあ、認めたからって何も変わんないけど) (だから、何を・・・) 楽しげに声を弾ませて。 (自分が誰からも愛されない、必要とされない、ってことをさ) 諭すように、ワームはそう言った。 →NEXT |
鬼殺し [5] |
| あの時の俺は、どうかしてた。 疑惑ばかり膨れ上がって、異変を起こした自分の右手も意識できず。 それから、『お前』が、俺の意識を占領するようにどんどん大きくなっていった。 鬼殺し [5] 視界の全てが、赤い。 いつの間にか、世界は赤一色で埋め尽くされていた。 目に映るものは、醜く歪んで見える。今までこんなにも、いびつな世界で生きてきたのだろうか。 信じられる唯一の存在だった矢車も、例外ではなかった。 ぶくぶくとした瘤の塊のような姿で、「相棒・・・」と呼んでくる。 耳障りなその声に、影山は耳を塞いだ。 「・・・俺に近寄るな。それ以上近付いたら・・・殺す」 真剣にそう思った。 今、目の前の矢車が、影山にとっての現実で。 「兄貴・・・どうして、そんな風になっちゃったのさ」 「何言ってる・・・?」 いつもの矢車の声音ではなかった。 まるで、変声器で音を引き伸ばしたかのように聞こえる。 (・・・ワームになっちゃったんだね、兄貴は) そんな姿で、生きていくくらいなら。 「・・・俺が、殺してあげる」 哀しげな目を向けて、影山は手にした折りたたみナイフをパチンと開いた。 * * 「相棒・・・!」 突然襲い掛かってきた影山に、矢車は訳が分からない。 頻繁に発熱を繰り返していた影山の体の異常に、気付いてはいた。 天道の忠告で、矢車の不安は確信に変わった。影山の手が、その証拠だ。 しかし、心では否定していた。 信じたくなかった。 「・・・っ」 ナイフの切っ先が腕を裂き、矢車は顔をしかめた。 いつもより、動きが格段に速い。 ワーム化によって、身体能力が上がっているのかもしれない。 影山のナイフを蹴り飛ばそうとした矢車だったが、あっさりかわされ、蹴りは空を切る。 「何・・・っ!?」 その足首を捕らえられ、矢車の体はぐるりと反転した。 地に叩きつけられて呻く矢車を、影山は面白そうに見ている。 「無理だよ。今の俺に、兄貴は勝てない」 「・・・お前・・・」 「ここで殺してもいいんだけどさ。俺としては、もう少し楽しみたいんだ」 「お前・・・本当に影山か?」 影山の雰囲気が先程までと違う。 「そうだよ。今まで抑圧されてた俺自身。表に出られたのは、ワームになったおかげかも」 言いながら、倒れた矢車にナイフを突き入れようとする。 すんでのところで避けられ、影山は唇を尖らせた。 「やだな、兄貴。悪あがきしないでよ」 「・・・どうして俺を殺そうとする」 「決まってるじゃない」 なんとか正気に戻そうと問いかける矢車を、あざ笑って。 影山は、最終通告を渡した。 「ずっと、兄貴のことが憎かったんだよ。・・・知らなかった?」 →NEXT |
鬼殺し [4] |
| 鬼殺し [4] 「・・・兄貴」 血の滲んだ指をサッと後ろに隠して、影山は矢車の顔を見上げた。 なぜか矢車は機嫌が悪そうで。 (怒ってる・・・?) 「こそこそするな。天道はもう行っちまった」 「あ・・・うん」 天道がいた為に出て行きそびれたことは、矢車にバレていたようだ。 「それより、このネックレス・・・」 ぐいと強引に、矢車は影山の首に掛けたそれを引っ張った。 「痛っ。あ、兄貴・・・」 「はずせ、早く」 力任せに引かれ、鎖が首回りに食い込んでくる。まるで、鎖を引きちぎろうとでもしているかのように。 「ま、待ってってば。首痛い・・・」 「いいから、はずせ!」 今度は上から無理やり取り上げようとする。 頭を押さえつけられた影山が暴れたことで、ネックレスはぐるりと一回りし、さらに影山の首を締め付けた。 「ちょ・・・兄・・・苦し」 影山の目に、必死な形相の矢車の顔が映る。 なぜ、ネックレスを嫌がるのだろう。 これは、ワームを感知するための道具で、それを拒むということは。 (もしかしたら・・・兄貴が、ワーム・・・!?) 湧き上がった疑念に、影山は震えた。 血が出ていた指がズキンと痛みを訴える。右手中に痛みが広がっていくようだった。 「・・・やめろっ!」 気が付くと、影山は矢車を全身で払いのけていた。 痛む右手を左手でカバーし、矢車から離れる。 「俺に触れるな、ワームめ!」 「相棒・・・」 殺気立った影山の瞳に圧倒され、矢車は動きを止めた。 体中の血が逆流するような感覚。 発熱しているのだろうと影山は思った。ただ右手だけが、ひんやりとして心地よい。 (分かった・・・すべて) 「天道がネックレスを破壊して回ってるって聞いた。人間の敵だ。・・・そして兄貴、あんたも」 そう言って矢車に向けられた影山の指は、手は。 ゴツゴツとした固い殻で覆われ、すでに人間のものではなくなっていた。 →NEXT |
心臓すごいコトになってんぜ? |
| ※甘いお題のハズが、あんまり甘くないです。 どちらかというと痛いかも・・・。 どうとでも解釈できる、ビミョーな話になっちゃいました(苦笑)。 →お題一覧はコチラ [Read More...] |
雑記:ザ・カゲヤマ |
| 「カゲヤマ」という名字の方って、いそうで、あまりいないんでしょか。 ワタシはコールセンターのオペレーターやってるもんで、毎日色々な名前の方と話しますが、「カゲヤマ」さんに当たったのは今まで1回だけです。 受けた時は、顔ニヤけましたよ(^^; 影山主役の今回のシリアス、実はタイトルは将棋の手から取ったのでした。 検索してたら、「鬼殺し向かい飛車」というのがあったので、それをもじってタイトルを「鬼殺し向かい矢車」にしようかと・・・。 でもギャグになりそうなので、却下しました(笑)。 ギャグといえば・・・。 『不協和音』の方も、更新ストップしてるので、そろそろ更新したいです。 よく考えたら、別館と合わせて今4つ連載してる・・・(--; なんでそう、自分の首を絞めるよーなことを(苦笑)。 拍手押してくださった方、ありがとうございました。 |
鬼殺し [3] |
| 今度のゲームは、俺に分がある。 そう思って笑ったのは、どちらの "影山" だったのか 鬼殺し [3] 公園の大時計が軽快なメロディを流した。 午後3時を告げる時報。 ベンチに横たえていた体を起こして、影山は身震いした。 (寒・・・っ) 妙にだるく、頭が割れるように痛い。 冬だと言うのに片袖のコートとボロボロのタンクトップでは、風邪を引いても当たり前かもしれない。 先日加賀美たちが配布していたネックレスが、胸元でカチャリと揺れた。 せっかく矢車の分も取ってきたネックレスは、受け取ってもらえなかった。 いつもそうだ、と影山は思う。 自分が矢車の為に何かをしようとしても、拒絶される。 (もしかして、本当は兄貴、まだ俺のことを憎んでるのかも・・・) そんな不安が湧き上がり、影山はブンブンと頭を横に振った。 (・・・そんな事ない! 昔の事なんて、もう関係ないさ) ネックレスを握り締めて、影山は矢車のもとへと向かう。 顔を見れば、きっと安心できる。 役所での無料配布は広く行き渡ったらしく、すれ違う人々の何人かは、同じネックレスを付けていた。 ワームを見つけ出し、殲滅するためのネックレスだという。 矢車が拒む理由など、ないはずなのに。 「あ、兄・・・」 いつもの場所、いつものねぐら。 しかし矢車に声を掛けようとした影山の足は、そこで止まった。 天道が、いる。 影山に気付かずに、矢車と天道は何か話をしている。 こんな場面は珍しい。 二人が共にいる時は、たいてい戦いの火花が散る時だったから。 根本的に、どこか彼らは似たところがある。 恐らく、だからこそソリが合わないのだろうと影山は想像していた。 なんとなく出て行くことができず、影山は咄嗟に物陰に隠れた。 聞き耳を立てるが、影山のいる場所からでは話の内容はよく分からない。 ただ、"ネックレス" という単語は聞き取れた。 「・・・いいか。絶対に付けるなよ」 「ああ。・・・あんなもの、誰が付けるか」 念を押す天道に、矢車は吐き捨てるように返す。 (俺がもらってきたネックレス・・・?) 矢車の言葉が、影山にはそのまま自分に対する拒絶として感じられた。 (兄貴・・・俺より、天道の方がいいのかな・・・) 急速に膨れ上がっていく疑心。 ふと疼きを感じて右頬に手をやった影山は、以前の傷跡がぱっくりと割れているのに気が付いた。 傷口から何かが滲み出しているような感じがする。 (血・・・?) 手に付着したその赤いものは、うぞうぞと蠢いてるようで。 ゴシゴシと目をこすって再び見ると、やはり血だ。 だが、それは頬からではなく、自分の指からだった。 どこかに引っ掻いて、怪我でもしたらしい。 ペロリと血の付いた指を舐めていると、唐突に矢車の声が降ってきた。 「・・・いつまで隠れてるつもりだ?」 →NEXT |
鬼殺し [2] |
| 鬼殺し [2] 同じ顔をした人間が、向かい合って歩道に立つ。 片方は冬らしい装いだが、もう片方は左の袖がない黒いコートを着て。 傍から見れば、珍しくもない双子に見えたかもしれない。それでもこの時期にそぐわない奇妙な片袖の風体は衆目をひいた。 『見せもんじゃない、あっち行け!』 流暢なノルウェー語でもうひとりの "影山" が声を上げると、道を歩く人々は気まずそうに足を速めた。 「・・・俺に、今さら何の用だよ」 震える声で影山が問う。 「ゲームしないか?」 食べ終えた紙くずをポイと後ろに放る擬態 "影山" に、影山は眉を寄せる。 ケラケラと笑って、擬態は続けた。 「俺も居場所がなくて困ってるんだ。お前が勝ったら、俺は消えてやる。俺がゲームに勝ったら、お前の体と兄貴は、俺がもらう。・・・どう?」 「な・・・っ!」 影山の体中にカッと怒りが駆け巡った。 「バカ言え! お前なんて、ただの妄想だ! こんなこと、あり得っこない!」 (こいつは、俺だ。あの時の・・・) 一方で、心に罪悪感が襲ってくる。 「・・・そう、あり得ないよね。同じ人間が二人存在するなんて、さ」 影山と顔は瓜二つだが、纏う雰囲気は明らかに違って。 「だから、どちらかが消えなくちゃ。その勝負ってわけ」 不敵に言い放つ擬態。 (もし俺が負けたら、兄貴は・・・) 影山はギリと唇をかみ締めた。 負けた時の代償が、大き過ぎる。 けれど、この勝負は、受けるしかない。 自分自身の決着をつけるためにも。 ちらと影山は腕時計を見た。 矢車が帰ってくるまで、あと3時間程。 時刻が、午後3時を告げた。 →NEXT |
鬼殺し [1] |
| ※キリ番39999を踏まれた春巻様から、「ネイティブ化して矢車を襲う影山」のリクを頂きました。ありがとうございます。 『フレイア』の後日談になりますが、「鬱展開」そして「最後に射し込む、一筋の光」を目指して・・・がんばりまっす(^^) 鬼殺し [1] ノルウェーの冬は、日本よりも寒さが厳しい。 サマータイムも終わり、あの白夜が嘘のように、昼間でも空はどんよりとして日の差さない事が多かった。 フィヨルド観光に連れて行ってくれる、と約束した矢車は、昼間は仕事に出掛けている。 自分も働きたかったが、矢車ほどにノルウェー語が堪能でない影山に、まだ職探しは無理だった。 アパートにひとり残され、退屈そうにノルウェー語の辞書とテキストをぱらぱらとめくる。 (夕食の買出しにでも行こう) 厚めのコートを着込みマフラーを巻いて、影山はアパートを出た。 ここ数日太陽は昇らず、陰鬱な天気が続いている。 外に出てもあまり気晴らしにはならなかったが、キリリとした冷たい空気に触れれば、身は引き締まる。 行きつけのパン屋でバケットを買う影山に、店の主人は怪訝そうに聞いた。 「あれ、さっき買い忘れたのかい?」 店主は英語で話してくれるので、ある程度理解できる。 「え、俺、今日はここ来るの、初めてだけど」 たどたどしく話す影山に、店主は笑った。 「何言ってるんだい。バケットを買いに来てくれたろう。兄貴は元気か、って聞いたら、仕事だ、って言ってたじゃないか」 (・・・俺が、来た?) なんとか言葉は通じるが、どういうことなのか分からない。 「俺、本当に、今日はおじさんに会ってないよ。他の人と間違えてない?」 「まさか! この辺りに住む日本人は、お前さんたちくらいしかいないし。代金はツケにしといて、と言われて、サインももらった」 店主が見せてくれた帳面には、確かに "S.Kageyama" とサインが入っている。 (誰だ、これ書いたの・・・) 自分でないことは確実で。 食い入るように帳面に目を落として顔色を変える影山に、店主も何か普通でない様子を感じ取ったらしい。 「まだ、10分も経ってない。遠くには行ってないと思うが・・・」 その言葉が終わらないうちに、影山は店の外へ飛び出した。 あまり観光客はやって来ない区域だった。 他に店もなく、小さなアパートや街路樹が立ち並ぶばかりで、人通りは少ない。 「・・・久しぶり」 そんな風に相手の方から声を掛けられて、影山は息が止まるほど驚いた。 まるで、自分を待っていたかのようなタイミングだ。 「お前・・・っ! どうして」 目の前に現れた男の姿に、影山は見覚えがあった。 ずっと以前に、対峙したことがある。その時は、心の中で、だったけれど。 「俺はもう・・・ワームじゃない。治ったはずだ、元通り。なのに、なんでお前がいるんだ!?」 「ムキになんなよ。食う?」 泣き出しそうなのか、怒っているのか。 叫ぶ影山に、その人物はからかうようにバケットを差し出した。 「・・・なんで、お前がここにいるのさ」 うつむいて、もう一度影山は同じ台詞を繰り返す。 パクリとバケットにかぶりつきながら、彼は影山に告げた。 「治療のせいで、お前の中から俺は追い出されてしまった。それで・・・」 面白くてたまらない、と男は笑った。 影山とまったく同じ表情、まったく同じ外見で。 「こうして、実体化したってことさ」 →NEXT |
雑記:フレイア補足 |
| なんとか『フレイア』終わりました。 お付き合い、ありがとうございました。 いや、途中、記事消失があるわ、なんだかんだで、えらく長丁場になった気がします。 以前にも書きましたが、フレイアとボーヒネン博士は『仮面ライダー SPIRITS』のキャラなので、できるだけイメージを壊さずに、でもあまり目立ち過ぎないように、と四苦八苦でした(^^; 『フレイア』の話の中では、あえて誤魔化しましたが(笑)。 フレイアさんは、ボーヒネン博士に改造された、解毒(治癒)能力を持つ改造人間・・・。 『SPIRITS』の設定通りです。 更新ペース落ちてますが、拍手くださった方、ありがとうございました。 ↓以下、拍手レスです。 [Read More...] |
フレイアは笑わない [17] |
| フレイアは笑わない [17] 採光の為か、1階のラウンジは一面がガラス張りだった。 窓の外に見えるのは、緑の木々と少し雲が掛かった空。 「・・・これからどうするのさ、兄貴」 ボーヒネン博士と同じ問いを、今度は影山が聞いてくる。 「お前は、どうしたい?」 「どうって、そりゃ・・・」 答えは決まっていたが、言葉には出せなかった。 任務が終われば、ZECTからの資金的な援助はなくなる。 ノルウェーでワーム化抑制治療が受けられただけでも、お釣りが来るほどだ。 ZECTを離れてこのまま滞在するのは、きっと難しい。 「余計な事は考えるな。どうしたいか、お前の気持ちを言えばいい」 「俺・・・」 矢車に促されて、影山はコートのポケットからボロボロになった紙片を取り出した。 もうずっと前、いつだったか、矢車から見せられた白夜の写真。 あの時に、強く思った。 白夜の世界に行きたい、新天地で矢車と共に新しい人生を歩みたい、と。 再び大事に折りたたんで、影山は写真をポケットにしまう。 忘れたことはなかった。 『白夜の国』は、二人にとって、ずっと希望のキーワードだったのだ。 「・・・俺は、ここで兄貴と生きたい」 * * 初めて会った時と同じように、敷地内の木立の中をフレイアは散策していた。 彼女の姿を見つけた影山が、笑顔で手を振る。 「ほら、兄貴。フレイアさんだよ・・・覚えてないかもしれないけど」 不機嫌顔の矢車に、影山はフレイアを引き合わせた。 少し首をかしげた彼女の肩から、長い髪が滑り落ちる。 「・・・父から聞きました。私の治療の影響を受けてしまったんですね。ごめんなさい」 「治療・・・? 皆の記憶を消したのは、治療とは関係ない。ボーヒネン博士を庇うためにしたことだろ。・・・違うか?」 謝罪を口にするフレイアだが、矢車は容赦なく問い詰める。 記憶が残っていれば、また違ったかもしれない。 けれど今の矢車にとって、フレイアはオーディンに加担する者でしかなかった。 「いいえ、その通り」 弁解せず、フレイアは頷いた。 哀しげな微笑を浮かべながら。 「父は研究のためなら何でもするでしょう。私には、それを止められない。私にできるのは・・・ただ癒すことだけ」 施設内の人々は、自分がワーム化していることを知らされていないらしい。 それゆえ表立った治療はできず、フレイアの力を放射する "治療の時間" が月に数回施される。 「でもね、影山さんはもう大丈夫。この間、ばっちり治療しておいたから」 「わ−、ホント?」 喜んで顔を見合わせる二人が、矢車にはなんだか面白くない。 「あんたの治療って、一体・・・」 尋ねようとした矢車の肩に腕を回して、影山は肩を組もうとした。 しかし矢車の方が背が高いため、今ひとつサマにならなかったのだが。 「"おまじない" だよ。・・・ね!」 誤魔化すな、誤魔化してないよ、と、どつき合う兄弟にフレイアはクスクス笑う。 (この人たちは、きっと・・・) 眩しいものでも見るように、彼女は目を細めた。 「あなたたちは、これからどうするの? 日本に帰る?」 3度目になる、その問い掛け。 「・・・いや。ノルウェーで暮らすつもりだ」 戸惑うことなく、矢車はそう答えた。 傍らで、影山もコクリと力強く首を振る。 「けど、兄貴、不眠症大丈夫なの?」 「そのうち慣れるさ」 沈まない太陽。求め続けた白夜。 ここで生きていくならば、そのうち体も順応するだろう。 今夜はゆっくり眠りに就けそうだ、と矢車は思った。 「オスロの白夜は夏だけよ・・・」 今はまだ日が高くとも、やがて夜の闇はやってくる。 「冬になったら、片袖のコートは替えた方がいいわ」 オーディンが導く、世界の終焉。 もしかしたら、その到来を防いでくれるかもしれない二人に、風邪などひかれては困るから。 そう思って、フレイアは笑った。 END |
フレイアは笑わない [16] |
| フレイアは笑わない [16] おざなりのノックの後、荒々しく開けられたドアに、ボーヒネン博士は別段驚いた様子も見せなかった。 「・・・哀れなものだ」 ソファにゆったり腰掛けたまま、独り言のように呟く。 「哀れ? 誰が? ・・・あんたがワームに加担したせいで、死んでいった人たちが、か?」 もはや礼儀も何もなく、矢車は博士の前のソファにドカッと腰を下ろした。 その隣に影山もおずおずと座る。 「あんたが考案したレミング・システムのデータを、あんた自身がワームに流したんだな。だが、結局あんたはワームに見切りをつけた。なぜだ?」 「・・・あ、俺コーヒー買ってきていい?」 明るい声で口を挟む影山。 気を遣っているらしいが、間が悪い。 溜息をついて、矢車は飲み物分のコインを相棒に渡した。 部屋を出て行く影山を、博士の視線が興味深げに追っている。 それが矢車には気に入らなかった。 被験体を見る研究者の眼差し。 ZECTで秘密裏に行われていた実験も、人を人とも思わない研究者たちの手によるものだった。 「・・・あいつは、あんたの研究対象じゃないぜ」 敵意をあらわに見せる矢車に、 「ああ、すまん。私の専門は生命工学でね」 と博士は笑って弁解した。 「・・・どうしてワームを見限った? フレイアを使って、都合の悪い記憶を消したんだろう。事実が露見しないように」 仕切り直しとばかりに、矢車が低い声で問う。 ワームとレミング・システムに関わる事柄が、次第に人々の記憶から薄れつつあった。 どのような「力」なのかは分からない。 だが、もしフレイアがワーム化抑制治療を施す一方で、記憶の消去も行っているとしたら 「では、こちらも質問させてもらうが・・・。何故君は、私とフレイアを悪者にしたがるのかね。証拠でもあると?」 「・・・証拠なんてないし、あんたを裁くつもりもない」 矢車はまっすぐボーヒネン博士を見返した。 「思っただけだ。あんたが、オーディンじゃないかと」 「オーディン・・・?」 含み笑いをして、博士は白い髭を撫でる。 矢車は次の言葉を待った。 何を告げられようと、結局は何もできない。 実行犯であるワームは倒されたのだし、それ以上の追及は自分たちの範疇ではないから。 知りたいのは、ただ真実。 「・・・私は、技術の園に連れて行ってほしかったのだよ。だが、かの地球外生命体は哀れで愚かな存在で、私の期待外れだった。・・・それで、答えにならないかね」 (役に立たないと分かって、あっさり見放したわけか・・・) 口には出さず、矢車は皮肉めいた笑みを浮かべる。 いつか再び、ボーヒネン博士は人間の敵に回るかもしれない。 その時は 「やり過ぎない方が身のためだ。少しは娘の事も心配してやれ」 「・・・それは警告かな」 「別に。・・・しょせん、俺たちには関係ない」 タイミングよく戻ってきた影山の腕を引き、矢車は話を切り上げた。 コーヒーがこぼれる、と文句を言う相棒を促して。 「君たちは、これからどうするね?」 背後からボーヒネン博士の声が聞こえたが、立ち止まることはしなかった。 →NEXT |
フレイアは笑わない [15] |
| フレイアは笑わない [15] 「変身・・・」 気のなさそうな態度で、矢車はホッパーゼクターをベルトに装着する。 この感覚は、久しぶりだった。 パンチホッパーに変わった影山は、次々とワームに拳を打ち込んでいる。 その姿は生き生きとして、どこか楽しそうにも見えて。 「何してんだ、兄貴! 行くよっ」 影山の誘いに矢車は苦笑する。 (それほどの敵でもないだろうが・・・) そう思いながら、矢車もまた気持ちが高揚するのを感じていた。 二人同時にアンカージャッキを入れて、ワームを粉砕する。 久しく忘れていたコンビネーション。 「さっすが、兄貴!」 「お前もな」 もう襲ってくる気配がないことを確認して、言葉を掛け合う。 その後に、矢車は心の中で呟いた。 (やっぱり、俺の相棒はお前だけだ・・・) * * 施設内のオリジナルワームは分析班の所員だけだったらしく、他の人々はフレイアの治療の時間が終わると、再び人間の姿に戻っていた。 倒れたワームたちを見て、周囲にざわめきが起こる。 けれど先程の騒動を、誰も覚えていないようだ。 「・・・お前が受けた治療も、こんなだったのか?」 ふと思い出して、矢車は影山に尋ねてみる。 「んー。椅子に座ってたんだけど、だんだん頭がボーッとなってさ・・・」 フレイアの治療がどんなものだったのか、実はあまり思い出せない、と影山は言う。 矢車は集まってくる人々に状況を説明し、事後処理を任せた。 自分たちができることはもう何もない。 レミング・システムのデータを流用したのは、あのオリジナルワームたちということで説明が付く。 データを使って、人間への復讐と反撃を狙っていたのだろう。 「これで、一件落着だね」 声を弾ませる相棒に、だが矢車は眉根を寄せた。 何か、まだひっかかる。 心にわだかまるものの正体を、矢車は必死に掴もうとした。 ボーヒネン博士の注射のおかげで覚醒したとはいえ、まだ断片的に思い出せないことが幾つかある。 記憶を失った事が、健常者に対するフレイアの治療の反作用だとするならば。 (・・・いや、だが消された記憶は・・・) 「ちょ・・・兄貴! どこ行くの?」 突然走り出した矢車に影山も慌てて付いていく。 「ボーヒネン博士のところだ」 「博士? なんで?」 エレベーターに飛び乗り、最上階のボタンを押す。 その速度さえもどかしいように、矢車は拳でエレベーターの内壁を打った。 「・・・博士だ、黒幕は」 「え・・・ワームだってこと?」 「それは分からないが」 意識の片隅に残っている、文字の羅列。 加賀美が自分に宛てたメールに何が書かれていたのか、はっきりとは思い出せなかった。 ただ、北欧神話のイメージだけが浮かんでくる。 (そうだ・・・オーディン) 矢車は、頭の中のイメージを形にしようと声に出してみた。 「ボーヒネン博士が、世界を終末に導くオーディンだ・・・」 →NEXT |
フレイアは笑わない [14] |
| フレイアは笑わない [14] 施設内の人間たちのほとんどが、ワームに変わっていた。 その中にちらほらと人間の姿のままの者もいる。 けれど、互いに関心を払うわけでもなく、先程までの矢車と同じでぼんやりとして見えた。 フレイアによる "治療(レメディ)" 緩やかに意識を眠らせ、施設の多数の人間を同時に治療する方法とは、やはり音波を利用したものなのだろうか、それとも・・・。 そこまで考えて、矢車は首を振った。 それよりも一刻も早く、相棒の元に急がなければならない。 もともとのワームには、フレイアの治療も無意味だ。この時間も、自由に動けているのだろうから。 * * 「・・・なんでこんなワームだらけなんだよ」 エレベーターで階下に下りた影山は、建物の入り口に自分を追ってきたワームたちの姿を認めてひとりごちた。 「頼むから外へ出してよね」 ソファの陰に身を隠しながら、そろそろと進む。 が、ゴツンと何かにぶつかり、顔を上げて、影山は固まった。 「ちょ・・・待っ・・・」 いきなり目の前に現れた敵に、なす術がない。 影山の体はワームに軽々と持ち上げられ、そのまま勢いよく放り投げられた。 (ぶつかる・・・!) 「・・・ぐっ・・・!」 本能的に目を閉じた影山の耳元で呻く声。 「・・・え?」 壁に叩きつけられる衝撃はなく、代わりに見覚えのある腕に抱き止められていた。 「あ・・・兄貴!」 「・・・重い。早くどけ」 矢車を下敷きにしていることに気づき、影山は慌てて立ち上がる。 「・・・大丈夫か」 「兄貴こそ」 受け止めた矢車の方には相当負担があっただろうが、それを顔には出さない。 「あいつらは、オリジナルワームだな」 「うん・・・研究所の分析班の人たちだよ」 状況を説明する影山に、矢車はホッパーベルトを渡した。 既に矢車はベルトを身に付けている。 「久々にやろうぜ、相棒」 「OK、兄貴」 顔を見合わせて笑い合った二人は、跳んでくるホッパーゼクターをその手に掴んだ。 →NEXT |
「009-1」 |
| 『フレイア』の続きを上げるつもりだったんですが、Yahoo!動画で『THE NEXT』見たついでに、つい今更ながら『009-1』の1〜5話無料配信に見入ってしまいました(^^; 深夜にTVでやってたのは知ってたけど、いや、これは確かに深夜枠じゃないとマズイかも。 1話なんか、あれアニメでやっていいんですか、という感じで(笑)。 でもやっぱり第1話が009-1の魅力全開です。アクションあり、お色気あり、チームプレーあり。 『009』と同じスタッフっていうのが、ツボ。 石ノ森テイスト満載なのが、これまた涙モノでした。 拍手、ありがとうございました。 ↓以下、拍手レスです。 [Read More...] |
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