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紅の箱舟(アーク)

紅の箱舟(6)

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 三島の指示に従って、少年であったワームは、太い管が続く注射針を矢車の右上腕部に刺した。
 透明な管の中を、黒ずんだ液体が流れていく。

「彼は、医療に長けていてね」

 無言で睨みつける矢車の視線を何事もないように受け止め、三島は軽く笑んだ。

(やはり、お前も……、俺を裏切るのか……)

 自分の傍に立つ、今や人の姿ではない存在に、矢車は別の面影を重ねた。
 矢車に向けた、屈託のない笑顔――。
 それは、あの少年のものなのか、あるいは別の、見知った誰かのものなのか。

「く……っ!」

 右腕から自分の体に流れ込んでくる得体の知れない液体に、言い知れぬ恐怖を感じる。
 精一杯の力を込めても、拘束するベルトは緩まない。

「あっけなかったな」

 抵抗を示す矢車を不遜に見下ろしていた三島だが、やがて興味を失ったように背を向ける。と、これまで三島に従順を示していたワームの態度が一変した。

 後頭部めがけて振り下ろされた異形の腕は、そのまま三島を壁に叩きつけた。鈍い音が、室内に響く。
 不意を突かれた三島は、人間体でいたことが災いした。呻き声を上げるかつての上司と、攻撃的なワームの姿。そのどちらにも、矢車は目を覆いたくなる。

 これが、ワームの本性なのだ。

 矢車の苦々しい思いに気づくことなく、ワームは矢車の腕につながる太いチューブを引き剥がすと、ベルトの拘束を引きちぎった。それとともに、少年の姿に戻る。

「矢車さん、早く!」
「……シュン……」

 矢車を抱え起こそうとする少年は、まぎれもなく人間としての自我を保っている。
 床に倒れた三島は、口元からは血を流し、それでも薄く笑いをかたどった。通常の人間であれば、死んでいただろうダメージも、やはり致命傷には至っていない。

「逃げられるとでも、思っているのか……」

 その呟きを聞く前に、矢車と少年は部屋の外へと駆け出していた。





「ここは……エリアXの施設か」

 ぼんやりと霞む目で周囲を見ながら、矢車は口を開いた。
 発熱しているのか、体は鉛のように重く気だるい。額には玉の汗が浮かぶ。

「うん、7階。でもエレベータは使えないし……」

 矢車に肩を貸しながら、少年は周囲をきょろきょろと見回した。それが意味するところを理解し、矢車は息をつく。
 つまり、ここから外に出るのはひどく厄介ということ。

「俺を担ぐなら、ワーム体でいたほうが楽だぞ」
「やだよ、あんな姿」

 年端もいかない少年が大人の男を支えるのは、体格的に少々無理がある。そう思っての提案だったが、シュンは即答した。

(あんな姿、か)

 少年自身、ワームである己を拒んでいる。少年の心は、あくまで人間なのだろう。

「お前の方は……大丈夫か?」
「まあね、大人しく従うフリしてたから」

 逃げる機を窺うため、操られたふりを装っていたらしい。
 悪びれない少年に、矢車は苦笑する。少しばかり小ずるいところも、『誰か』にそっくりだ。

 配備されたゼクトルーパーの目を逃れ、二人は下の階へと急いだ。しかし焦れば焦るほど、脚はもつれ、思うように動いてくれない。
 息を荒げる矢車を、シュンは心配そうに見る。

「走ったから、回ってきたんだね……」

 何が、と矢車はあえて聞かない。先ほど自分の腕に流し込まれた液体のことだと分かっている。
 ワーム化をもたらすあの忌々しい液体の幾らかは、確実に体内に入ったのだから。

 辺りを見回し、トルーパーの気配がないことを確かめると、シュンは矢車を非常階段の陰に下ろした。
 その場所は、監視カメラから死角になっている。

「ちょっと痛いけど、我慢してね」

 矢車に尋ねる間を与えず、少年は手だけをワームのそれに変形させた。

「つ……っ!!」

 ちょっとどころではない激痛が、矢車の右腕に走った。
 舌を噛んでしまうのを防ぐ為、そして上げそうになる悲鳴を抑え込む為、咄嗟に服の袖を口にくわえる。

 先端に細長い注射針を生やしたワームの手は、その傷口から血管へと進入し、えぐるように動く。矢車の右上腕から、血がポタポタと滴り落ちた。
 時間としては、二十秒にも満たない。が、矢車にとっては、永遠とも思える苦痛だった。

「もう大丈夫。さっきの毒は中和したから」

 『手術』を終えたシュンは、自らの左袖を引き破り、包帯代わりに矢車の右腕に巻きつけた。
 医療に長けている、と言った三島の言葉は嘘ではなかったようだ。

「荒っぽい治療だ……」

 矢車は毒づく。けれど、安堵と感謝の含みを込めて。
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