SS・お題

無愛想だけど、優しい

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 よりによって、こんな日に熱を出すなんて。
 すっかり暖かくなったと油断してたのかもしれない。

 一日の温度差が激しい季節は、昔から体調を崩しやすかった。
 幼い頃は、一年で一度のこの日によく風邪を引いて。母さんが付き添ってくれたのを覚えている。
 額に置かれた濡れタオルは、熱ですぐぬるくなる。それを優しい手で取り替えてくれて。
 熱にうかされながらもケーキが食べたいと訴える俺に、母さんはくすりと笑った。

『ケーキはまだ無理よ。その代わり、瞬にお歌を歌ってあげる』





 ひんやりとしたものが額に乗せられ、俺は目を開けた。
 少し、うとうとしていたらしい。

「……兄貴」

 先程まで見ていた母さんは、過去の幸せな幻想だったのだと思い知る。
 今俺が身を置いているのは温かい家ではなく、俺の側にいてくれるのは母さんでもない。
 額の冷たい感覚は、熱冷まし用のシート。兄貴が買ってきてくれたのだろう。

「寝てろ、まだ熱がある」

 隣に腰を下ろす兄貴は、もう俺の方など見ていない。
 気付けば、俺の体には毛布が掛けられていた。
 地面の下から伝わる冷たさを防ぐためか、体の下からぐるっと毛布を巻き付ける形で。

「兄貴、俺、ケーキ食べたい……」
「そんな金はないな」
「じゃ、兄貴の作る麻婆豆腐」
「作る場所と材料がない」

 ピシャリと言い放つ兄貴。
 相変わらず視線を合わせようとしない兄貴に、俺はちょっとだけ失望する。
 どうせ、今日が何の日かなんて兄貴は覚えてないだろうけど。

「その代わり、歌でも歌ってやる。それで我慢しろ」
「え?」

 俺は一瞬その言葉が理解できなかった。
 兄貴は今、何て言った?

「一応言ってやる。今日ぐらいはな」

 お前も病人だし? と口の端で笑う。
 耳に聞こえてくるのは、優しい旋律。兄貴がくれたバースデー・ソング。
 それは、ずっと昔、母さんが歌ってくれたように。

 こんな優しい兄貴は、珍しい。
 これも夢だろうかと思いながら、俺はまた眠りに落ちていった。
 沈む意識の中で、そのメロディーはいつまでも続く。





『ハッピーバースデー、相棒
お前が生まれてきたことに、感謝を』


 END

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※5/2は内山さんのバースデーということで、誕生日記念SSです。
一応甘い話なので、ご注意を。
矢車さんの性格、こんなじゃないと我ながら思う・・・。ギャグにすればよかった(--ゞ
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