紅の箱舟(アーク)

紅の箱舟(9)

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 払っても払っても、意識の中に、闇が流れ込んでくる。
 やがて、それは心に堆積し、どす黒く固まっていく。

 うっすらと目を開けた時、矢車は自分がまだ生きていることを不思議に感じた。
 三島に撃たれたことは覚えている。避けることはできなかった。弾は正確に心臓を貫いた、はずだ。

「……おや、気がついたかい」

 視界は霞がかかって歪んでいるものの、聞こえてきたその声には覚えがあった。

「……あんた、は……」
「どうだい、気分は? なにせ、丸2日眠り続けていたからね」

 声が、穏やかに告げる。

 矢車は、ゆっくりと自らの体を確認した。
 左右の腕や胸、全身に白い包帯が巻かれている。拘束されているわけでないが、意思通りに動かすことができない身体。右腕に伸びたチューブを流れるものは、黒い液体ではなく、点滴だった。

 次第にはっきりしてきた頭を少し動かし、矢車は周りを見回す。
 おそらく、ここは病院には違いない。しかし、一般のそれでないことは、装備された医療機器から容易に判断できた。

(ZECTの施設……か)

 矢車は、息をついた。
 敵の手中に落ちたことを悟る。命が助かったとは、到底思えない。

 ZECT総帥・加賀美陸その人が、矢車の寝かされているベッドの横に椅子を置いて座っていた。
 観念したかのように目を閉じた矢車を、やわらかな微笑で眺めながら。

「ホッパーゼクターは役に立ったようだね、色々な意味で」
「……ホッパー……ゼクター?」

 陸は手の中に持っていたそれを、ぽんと矢車のベッドの上に投げた。
 緑色のガジェット。その奇妙な物体に視線を落としながら、矢車は記憶のピースをかき集めた。

 ゆるゆると、記憶が甦ってくる。
 ゼクターに導かれ、エリアXの地下通路へ入ったこと、そこで命を絶たれた少年、自分と対峙した影山、大勢の被験者たち、ワームと化した三島――。
 どれもこれも、思い出したくない悪夢ばかり。

 いつの間にかゼクターはいなくなり、三島に奪われたのだろうと思った。しかし、ゼクターは生き物のようなものだ。自ら動き、資格者を選ぶ。

「この連中は、瞬間移動をするからね。咄嗟に、君の心臓を守ったんだよ」

 興味深い眼差しを、陸は修復したガジェットに向けた。
 矢車の記憶のピースが、カチリとはまる。ゼクターが盾になってくれたおかげで、三島の弾は急所を外れたのだろう。

「幸運にも、君は助かった。が、公には、死亡として処理された。身の安全のためにも、時期が来るまで姿を隠していた方がいい」
「……よく言う。俺を殺したいんじゃないのか。それとも、ワームにする気か」

 陸の提案を、矢車は皮肉で返した。一連の事件の黒幕が、何を言うのか、と。

「誤解をしているようだが、私は蚊帳の外だよ。今回の件は、私の預かり知らぬことだ」

 表面上はね、と陸は大袈裟に肩を竦めて見せた。

(食えない男だ……)

 矢車は警戒を解くことなく、鋭い視線を陸に向ける。

「私にできたのは、このゼクターを、君に会わせることぐらいでね」

 その言葉は、矢車の命を救ったのは陸だと告げていた。
 ZECTのトップが、味方なのかは判然としない。けれど、ホッパーゼクターを寄越し、今こうして矢車を助けたのが陸だとしたら、三島と陸の間には内なる確執があるのかもしれない。

 どろどろとしたZECTの内情など、もはや矢車には関係ない。知りたくもなかった。
 すべてを拒絶するように、かぶりを振った矢車は、それでもひとつだけ陸に問いかける。

「あの子は、どうなった……?」

 聞くまでもなく、分かりきった答え。

「さあ、分からんよ」

 あえて尋ねる矢車を、陸はあいまいにかわした。そして、言い訳のように付け加える。

「もともと、人間をワームに変える実験は医療目的だったのだよ。擬態という能力があれば、移植手術に拒絶反応という壁はなくなる。人類の未来のための実験のはずだった」
「……どうでもいいさ」

 うつろな目で、矢車は低く呟く。

 一体、自分は何をしたのか。
 何も、できなかった。誰ひとり、助けることができなかった。影山も、あの少年も――。

 自分の存在もまた、今や抹消されてしまった。日の当たる世界を歩くことなど、もうできない。しばらくは存在を隠して生きろ、と陸は言う。“時期が来るまで” は。

「マーク・トウェインの著書を思い出したよ。彼は言っている――『神は、人間を救うためにノアの箱舟を作らせたのではない』」

 仮面のような表情で、陸は語る。

 おそらく、それが、真実なのだろう。
 侵食されていく闇の中で、矢車はぼんやりとそう思った。





 救うためではない
 神は 人を 苦しめるために
 人に 箱舟を
 作らせたのだ――


 END



※やっと、終わりました。暗かった・・・胃が痛い(苦笑)。
矢車さんは、部下に裏切られたぐらいでやさぐれたんじゃ27歳男としては情けないだろうと思って、「地獄」を壮絶にハードにしたかったんだけど・・・。
文章力の無さ+あまりの暗さのため、書ききれませんでした(--ゞ
イメージとしては、『幽遊白書』(また、古いマンガを・・・)の仙水さんみたいなのを書きたかったんですよ、ほんとは(^^;
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