ザビー・アディクト

ザビー・アディクト(5)

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 ZECT本部の廊下を、俺たち二人は必死に走る。
 背後から自分たちを追ってくるシャドウ隊員の足音が、まだ数人分は聞こえた。

「きゃっ!」
「わっ、……と、すみません!」

 角を曲がったところで、前から歩いてきた岬さんに勢いよく肩がぶつかってしまった。
 彼女が持っていた書類がバサバサと床に落ち、その横にいた田所さんが顔をしかめる。

「矢車? どうした、そんなに慌てて」

 それには答えず、俺は耳に意識を集中させた。
 足音は、 もう聞こえない。

「何かあったのか?」

 不審に思ったらしい田所さんが、再度尋ねてくる。
 影山は首を伸ばして背後の様子を窺い、その後、凍りついた表情を俺に向けた。

「……誰も、いなくなっちゃいました」

 角を曲がる寸前まで、シャドウの何人かは俺たちを追っていたはずだ。なのに、連中の姿はどこにもない。
 途中の部屋にでも隠れたのか、あるいは足音は幻聴だったのか。

 考えがまとまらず、俺は無言で、床に散らばった書類を拾う。
 とうとう田所さんはしびれを切らしたらしい。

「何かあったようだな。説明してくれるよな?」

 俺と影山のそれぞれの肩にガシッと後ろから手を回し、逃がすまい、という雰囲気を放って田所さんは言った。





 ZECTの一室で、俺はありのままを田所さんに話した。
 殺人のあった前日に、影山とザビーブレスを見る為、開発部に入ったこと。そして、今しがたのシャドウ隊員たちの態度の急変を。

「なんで、あんなにおかしくなっちゃったのか。俺にも分かりません。矢車さんに呼ばれるまでは、皆不安がってたけど、普通だったのに……」

 岬さんが煎れてくれた温かいコーヒーをすすりながら、影山は大きく息をついた。

「なんか、やっと現実に戻った感じ」

 影山にも笑顔が戻る。

「おそらく、集団ヒステリーの一種だと思います。ザビーの呪いへの不安が、一気に膨れ上がって」

 俺は己に言い聞かせるつもりで、そう結論づけた。
 カップを持った手元に視線を落とすと、中のコーヒーがわずかに揺らいでいる。俺の手が、震えているのかもしれない。

「呪い、か」

 難しい顔をして、田所さんは呻きを漏らす。

「日下部と同じ死に方だったからな。まあ、呪いかどうかはともかく、ザビーブレスが犯行に関わってるのは確かだろう」
「……え?」

 日下部と、同じ死に方。その言葉に、反射的に顔を上げる。

「田所さん、知ってるなら教えてください! 日下部はどうして死んだんですか!?」
「落ち着け。お前らしくないぞ、矢車」

 余裕なく詰め寄った俺の肩を、田所さんは宥めるように叩いた。
 横には、心配そうに俺に向ける影山の眼差しがある。

(落ち着け)

 俺は、コーヒーカップに口をつけて、目を閉じた。温かい液体が喉を通り、じんわりと心にも浸透していく。
 コーヒーの良い香りは、徐々に、高ぶった気持ちの波を鎮めてくれた。

「日下部も、鋭利な物で刺し殺されたんですね」
「……そうだ」

 自分でも驚くほど平静になった声音で問うと、田所さんは短く答え、目を伏せた。
 鋭利な凶器と、血に濡れたザビーゼクター。そこから導き出される推測は、ひとつ。

「何者かが、ザビーになって殺人を繰り返している……ということですか。そして、ZECTはそれを隠そうと?」

 俺の質問に、今度は田所さんは答えなかった。

「……苦いな」

 返事の代わりに呟いた言葉は、コーヒーの事なのか。それとも、この現状の事なのだろうか。
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