ザビー・アディクト

ザビー・アディクト(8)

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 そこは、楽園と見紛うばかりに、たくさんの美しい花々が咲き誇っていた。

 一人の乙女が、蜂蜜色の液体を聖杯に注ぐ。
 胸元が大きく開いたドレスを纏っている為、その胸にある、蜂を模した烙印が、ひどく浮き立って見えた。
 乙女は、聖杯を差し出して微笑する。

『さあ、英雄に祝福を――』





「影山、無事か!?」

 部屋に飛び込んだ俺が目にしたのは、ザビーに向けて発砲する影山の姿だった。
 寝巻きのままだが、目はしっかり覚めているらしい。

「せっかく、いい夢見てたのに。貴様のせいで、起こされたよ!」

 黄金の侵入者に対し、憤りあらわな影山に、俺はどことなく違和感を覚えた。
 この部下は、こんなに冷たい目をしていただろうか。

 ゼクトガンを撃ちながら、俺は影山とザビーの間に入る。俺と影山の弾を腕でガードし、ザビーは一気に距離を詰めてきた。

「よけろ!」

 影山を突き飛ばし、俺も瞬時に身をかわす。
 ライダースティングがベッドのマットレスを深々と貫くのを見て、俺は背筋が冷えた。これが、何人もの命を奪った凶器だ。

「矢車さん、ザビーゼクターを呼んでください!」

 影山が叫ぶ。

「ザビーゼクターが離れれば、変身は強制解除されるんでしょ!?」

 通常の隊員は知り得ない、ゼクターの機密事項。影山が知っていることが不可思議だが、疑問を追及する余裕はなかった。
 ザビーになった相手に勝てる見込みがないと、百も承知している。
 ゼクターは、本来の資格者に従う。資格者を選ぶのは、ゼクター自身。

「ザビーゼクター、来い! 俺の元へ!」

 俺は右手を、上空高く差し伸べた。

 まさに花から花へ渡り歩く蜂のように、至極当然とばかりに。
 何の躊躇もなく、装着者から離れたザビーゼクターは、俺の求めに答え、俺の手の中に収まった。
 弾け飛んだザビーブレスが、カランと音を立てて床に落ちる。

「矢車さん、こいつ……!」

 影山が驚きの声を上げる。俺は素早くブレスを拾って顔を上げ、殺人鬼の正体を目に映した。

「日比野!?」

 ザビーの中から現われたのは、俺たちの知る最年少のシャドウ隊員。
 しかし、ザビーの変身が解け、日比野の姿に戻ったのは一瞬で。そのまま、異形のワームに変わる。

(日比野が、ワーム……?)

 思いがけない光景を前にし、俺は影山をドアの向こうへ押し出した。

「田所さんが応援を呼んでくれてる。お前はとにかくここから出ろ!」
「矢車さんは?」
「俺は……」

 答えを返せないうちに、ワームに掴み掛かられた。

「くっ!」

 ワームの盾として、俺の体が後ろから羽交い絞めにされている為、影山は銃を撃つことができない。

「影山、さがってろ!」
「でも……っ」

 言いかけた影山は、俺の意図に気付いたのか、急いでドアの外に身を隠す。
 この部下は、意外に察しがいい。
 俺の左腕に、ザビーブレスがある。締められた腕を下方に伸ばし、なんとか自由になった右手でゼクターを装着した。

「変身!」

 ザビーのスーツと装甲が、全身をゆるやかに覆っていく。それは、初めての、不思議な感覚。

「キャストオフ!」

 即座にザビーのアーマーが外れ、欠片が勢いよく飛び散る。至近距離で直撃を受け、たまらずワームは俺の体を放した。
 ドアをへこます程の勢いでぶち当たるアーマーに、影山も丸くなって身を伏せる。

 再びこちらに向かってくるワームの姿を、俺は微動だにせず見つめた。
 日比野が擬態され、取って代わられたのか、あるいは、ZECTに入隊した日比野は、初めからワームだったのか。

 さまざまな可能性を思い巡らせながら、ワームの手が届く一瞬前に、俺はライダースティングを決めていた。
 仮にも部下であった存在を、殺したくはない。

 どうっと床に倒れ伏し、断続的に体を痙攣させるワーム。その現実から俺は逃げるように目を逸らす。

「金一封が出ても、修繕費でチャラですね、きっと」

 凄惨な部屋の有様を見回し、影山は的外れな意見を言った。

「……そうだな、減給かもな」
「そんなっ、困りますよ!」

 冗談を真に受け慌てる影山に、俺は声を上げて笑う。

「安心しろ。減給は、俺だ」

 けれどそうして笑顔を作ったところで、胸に残る黒いしこりは、どうあっても拭えない。
 俺は、元部下を己の手で倒した。命を奪うに至らなかったのが、自分の中でせめてもの救い。

 ザビーの姿のまま、俺は激しい疲労と罪悪感でくずおれそうになる脚を必死に奮い立たせていた。
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