ザビー・アディクト

ザビー・アディクト(9)

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「……早かったですね」
「悪い」

 ようやく田所さんがゼクトルーパーを率いて駆けつけてきたのは、俺が変身を解除した後。
 少しばかり皮肉を込めた俺の言葉に苦笑し、田所さんはちらと後ろに視線を走らせる。
 背後に、トルーパーを引き連れた三島さんの姿が見えた。

「どうして、わざわざ三島さんが?」
「いや、まあ、いろいろとな」

 尋ねても、田所さんは曖昧に言葉を濁す。

 三島さんはトルーパーに指示を出し、一連の事件の犯人であろうワームの処分を命じる。人間でないワームには、裁判も事情聴取も執り行われない。“死” という処分のみだ。
 これまで、そんなZECTの通例に何の疑問も抱かなかったが、今回はわけが違う。

「待ってください! このワームは日比野です。彼から、事情を聞くべきだと思いますが」

 三島さんの前に立ち、ワームをかばうように俺は両腕を広げた。

「日比野はワームに擬態され、既に死亡している。あれはただのワームだ」

 伸ばした俺の腕を、三島さんが下ろさせる。反論を許さない威圧感が、口調と態度に表れていた。

「ザビーは、君を資格者と認めたようだな。次の資格者の誕生だ」

 三島さんの眼鏡の奥の瞳が捕えたのは、俺の手首にはまったザビーブレス。
 冷たい無表情の仮面に隠され、上司の感情は一切読み取れない。

 その瞬間、背筋が凍りついた気がした。
 同時に、胸の辺りが熱く息苦しく、不快になる。

「……つっ!」

 気のせいではなく、焼け付くような痛みを感じ、俺は胸を押さえた。

「ザビーの紋章ですね。初めは痛むかもしれないけど。大丈夫、すぐ慣れますよ」
「影山……?」

 横から覗き込んできた影山が、にこりと笑う。
 まるで、俺の知らない者のような表情だった。





 夢を、見たんです
 綺麗な女の人が、俺に聖杯をくれる
 あのひとは多分、ザビーゼクターの化身なんじゃないかな





 ワームがシャドウ隊員だった日比野に擬態し、ザビーを使って関係者を襲っていた。

 それが、翌日ZECTに周知された、事件の真相。
 身内にワームが紛れていたことに動揺はあったものの、皆は解決に大いに安堵した。
 だが俺は、いまだ心が晴れない。

 第一に、日比野はいつからワームだったのか。

 日比野がシャドウに入隊して、一年に満たない。ザビーの開発者が死んだのは、二年前。日比野がZECTに入る以前だ。
 ザビー絡みの事件のすべてを日比野の凶行と考えるのは、無理がある。

 どこからどこまでが、日比野によるものなのか、うやむやなまま。
 日比野の姿をしたワームは即日に処分され、真実は闇の中に埋もれた。

 第二に、なぜ日比野がザビーに変身できたのか。

 ゼクターは、資格者を自ら選ぶ。資格のない者は、たとえブレスを手に入れても、ザビーにはなれない。
 その点について、ZECTは一切明らかにしようとしなかった。

 第三に、シャドウ隊員たちの集団ヒステリー。俺にとって、一番不可解な事象。

 開発部内で起きた殺人事件を受けて、警戒を強めるよう、俺が皆を集めて通達した。その際のパニックじみた暴動が、彼らの記憶からすっかり抜け落ちていたのは、なぜなのか。

 ワームの心理操作ではないか、と田所さんは言う。
 けれどあの場にいた日比野が、皆を操っていたとは考えにくい。むしろ、日比野もまた操られているように思われた。
 日比野に全ての罪を着せ、事件の黒幕はのうのうと逃げおおせた。そんな気がする。

 そして、以前と同じように笑顔を向け、俺を慕ってくる影山。
 影山がザビーに憧れを抱いていることは、言葉の端々から感じられる。

「本当は、お前がザビーになりたかったんじゃないのか?」

 正式に俺がザビーに任命された日、影山に尋ねてみた。影山がどんな反応を返すのか、確かめたかったから。

「矢車さんは、ザビーになりたくなかったんですか?」
「お前は、どう思う」

 互いに答えを知りつつ、探り合いを繰り返す。

 ザビーとなってから、俺の胸に、烙印を押されたような印が浮き上がった。蜂を模した刻印は、ザビーの資格者が持つ “紋章”。
 当初は焼け付くような痛みがあったが、今はすっかり薄らいでいる。

 それでも夜になると、しばしばうなされ、汗だくになって目が覚める。
 漆黒の闇が、俺を飲み込む夢。そういう日は決まって、ザビーの刻印が痛み出した。

「最近よく、嫌な夢を見るようになった。これと関係してるんじゃないか」

 影山に話しながら、俺は自分の胸元をトンと親指で指す。

「夢、ですか。俺も見ますよ。起きるのがもったいないくらい、いい夢だけど」
「それはいいな。俺もあやかりたい」
「枕並べて寝ましょっか。夢、交換できるかも」

 他愛もない冗談に、俺たちは笑い合った。以前とは何かが変わりつつある違和感に、あえて目を伏せて。

 少しづつ日常の歯車がずれ、軋みを上げる。
 夢の中では、闇に侵食される俺を、日下部と日比野が見守っていた。

 お前も、堕ちるのか――と。
 哀れむように語り掛ける二人の声が、闇の内より響いた。
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