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苦いけど、甘い

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 深夜1時を回った。
 腕時計がないから正確な時間は分からないけど、さっき入ったコンビニの時計は、1時10分前だったから。

 もちろん、この季節に寒いわけじゃない。
 ただ俺はなんとなく寄る辺がほしくて、兄貴が残していった黒いコートを自分の肩にかけた。

 このところ毎晩、兄貴は夜遅くどこかに出掛ける。
 どこへ行くのか聞いても教えてくれない。俺も行きたい、と頼んでみても「ダメだ」の一点張り。

「早く帰ってこいよ……」

 答えてくれる人は、いない。夜更かしの家々の明かりもだんだん消えていく。

 待っていた人がようやく戻ってきたのは、それから小一時間も経った頃。
 コートにくるまって顔を伏せていた俺を、眠っていると思ったんだろう。兄貴は足音を忍ばせながら、俺の傍に腰を下ろした。

「先に寝てろと言っただろ」

 ふいに上から、声が降ってきた。
 起きていることがバレているようだ。それでも、返事を返すのは悔しい。
 寝た振りをして無駄な抵抗を試みる俺に構わず、兄貴は続けた。

「悪かったな、田所さんに頼まれたんだ」

 その声が、妙に優しく響く。

「……キャバクラ行くのが?」

 我慢比べも限界とばかりに、俺はガバッと起き上がった。
 そして兄貴の目の前に、店のロゴ入りライターを差し出す。兄貴のポケットに入っていたものだ。

 それを見ても、兄貴は慌てることも眉をひそめることもしなかった。
 それどころか、くっくっと笑い出す。

「やっぱりな」

 何が『やっぱり』なのか、俺にはさっぱり分からない。

「お前がそう誤解してくれるだろうと思って、わざとポケットに入れておいたんだ」
「……どういう事さ」

 憤然として、俺は問い返す。

「俺がそこで遊んでると思ってた方が、お前も安心だろ?」
「それっ、て」

 さらに問い詰めようとした時、俺はやっと兄貴の様子に気付いた。
 暗くて分からなかったが、兄貴はあちこち怪我をしている。頬やむき出しの腕には、血や打撲の跡があった。

「ワーム、だったの?」

 問い掛けが小さく掠れてしまう。

「たいした事はない。片は付いた」

 疲れた、と言って兄貴はゴロリと横になる。
 すぐに寝息が聞こえてきて、俺はあまりの寝付きの早さに呆れてしまった。

「兄貴、兄貴ってば」

 軽く揺すっても反応を返さない。

「しょーがないな、もう」

 俺は羽織っていたコートを、兄貴の体の上にかけた。傷だらけの体をさらすのは、痛々しい。
 起きたら、すぐ手当てしないと。

 一体、田所さんにどんな任務を押し付けられたのか。
 俺に心配をかけたくなかったのだとしても。

 兄貴のついた嘘が、痛い。
 ひとりで戦う兄貴が、辛い。
 何も知らずに、ひとりで取り残されることが、俺は何より嫌なのに。

「バカ兄貴」

 眠っている兄貴に悪態をついてみる。こんな時じゃなきゃ、言えないから。
 兄貴の思いやりは、俺には苦くて。反面、甘くもあった。


 END

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※言い訳はいたしません(苦笑)。なんと申しましょうか・・・(^^ゞ疲れた脳の栄養となるのは、糖分だけだとか。
そんなわけで、お疲れ気味の貴方とワタシにファイト一発、リポビ(自主規制)・・・じゃなくて、甘いお話です。
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