報復のクロニクル

報復のクロニクル(3)

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“八月二十七日
片割れを探しながら、寂しい者達は惹かれあう”




『よくやったな、影山』

 そう言われたくて、影山は努力した。
 影山が頑張ると、その人はとても嬉しそうで。その人の笑顔が見たくて、さらに頑張ることができた。

 でも、今、自分は一体何のためにここにいるのか。
 どうして自分だけが、生きているのだろう。





「……うわっ!!」

 えもいわれぬ恐怖感に襲われて、影山はベッドから跳ね起きた。
 心臓がドキドキと早鐘を打っている。
 鼓動が落ち着くのを待って、影山はベッドサイドの置時計を手に取った。午前三時半、まだ深夜だ。

(また、あの夢か……)

 顔を枕に埋めるようにして、影山は再びベッドに体を預ける。
 だが、もう眠れないことは分かっていた。この夢を見た後は、いつもそうだから。

 正確には、それは夢ではない。四ヶ月前、現実に起こった出来事。

 銃で撃たれ、血に染まっていく元上司の体。助け起こすことも、声をかけることも、自分には許されていなかった。
 その後、彼が死んだという報告を、三島から受けた。

(当然の報いだ。あいつは、裏切り者なんだから)

 人間を、そしてZECTを、その人物は裏切った。だから、ZECTに処罰されても仕方ない。
 そう納得しようとしても、罪悪感や虚無感は消えることなく、心の中で日増しに大きくなっていく。

(忘れろ、忘れろ)

 じっとりと体に汗をかいている自分に、言い聞かせる。

(忘れなきゃ……)

 独身者向けにあてがわれたZECTの寮は、ちょっとした高級マンションだった。
 涼しい風を感じてそちらに目をやると、ベランダに面したカーテンがふわりと揺れている。どうやら、窓を開けっ放しで寝てしまったらしい。

「別に盗られる物なんて、ないけどさ」

 自分自身に言い訳をして、影山は窓を閉めるべく立ち上がった。窓枠に掛けたその手が、ふいに止まる。
 あり得ない人物の姿が、窓の下にあった。

 まだ外は暗く、三階にある影山の部屋からは、はっきりと顔が見えない。
 けれど、そこに立つ者が誰であるか、影山は本能的に悟った。

「矢車……」

 つい先ほど、夢で見たばかりの元上司の名を、影山は呟くように口にしていた。

 あまりのことに、息も継げない。
 ベランダに身を乗り出したまま固まっている影山に気付き、下から声が掛けられる。寝静まった他の住民たちの耳に届かないよう、低いトーンで。

「……そこに行ってもいいか?」
「えっ?」

 問われた意味が、分からなかった。
 答えを待つつもりもないのか、矢車はベルトにゼクターらしきものを装着すると、軽々と跳躍する。

(ライダー?)

 見たこともない、緑色のタイプだった。影山のいるベランダのフェンスに片手を掛け、ひょいと飛び越えて中に静かに降り立つ。ボディのメタリックな部分が、月明かりで青白く輝いて見えた。

(……綺麗だな)

 ぼんやりとそんな風に考えるのは、現実感が伴っていない証拠だろう。
 影山の前で、矢車は変身を解除する。が、昔と全く違うその風貌に影山は目を見張った。右袖を欠いた黒いコートをまとい、虚ろな眼差しには生気が感じられない。

(ああ、きっと俺、まだ夢を見てるんだ)

 先程の夢の続きだ、と影山は思う。

「なんだ? 幽霊でも見るような顔して」
「だって、矢車さんは死んだって、三島さんが……」

 いぶかしげな矢車に、影山は素直に答えた。夢の中ならば、色々なしがらみに縛られる必要はない。

「死んじゃいない。今、お前の目の前にいるだろ」
「そう、ですね」

 影山は笑う。そして矢車も。
 これは、夢、なのだ。

「俺、ずっと、矢車さんに謝りたかったんです。本当は……」

 叱られた子供のように、影山はうなだれる。
 普段であれば、こんな事は言わない。ZECTの精鋭部隊シャドウを率いる者として、決して言うべきではない。

「俺も、お前やシャドウを見捨てた。お互いさまだ」

 矢車も、触れたくはない過去をあえて口に乗せる。それぞれ封印していた罪の意識を、互いに打ち明けた。

「これ……、夢でしょ。矢車さん」
「ああ」

 確認を求める影山に、矢車は頷いて見せる。

(夢にしておいたほうが、いい)

 以前自らが暮らしていたZECTのマンションに、ほんの少しだけ懐かしさを感じて、矢車は足を向けた。
 エリアXに乗り込んで以来、一度も戻ることのなかった自分の城。過去の自分も、思い出も何もかも、すべてそこに置いて来た。

 数ヶ月前、影山がこのマンションに移ったことを、加賀美陸から知らされた。三島は、影山をZECTの監視下に置き、何らかの目的に利用するつもりらしい、と。

 けれど、まさか顔を合わすことになるとは、思いもよらなかった。
 人目を避けるために、わざわざこんな時間を選んだのだから。

「三島には気をつけろ、影山」

 それだけ告げて、矢車はベランダから身を躍らせた。ホッパーゼクターが、常人には不可能な跳躍力を、矢車に与えている。

 すべては、夢。夢であればこそ、こんな邂逅が果たされた。
 朝が来れば、否応なく過酷な現実に引き戻されるだろう。



※矢車さん、夜這い編(違っ)。なんか話が微妙な方向に・・・。
今回のイメージとしては、『カリオストロの城』か『ロミオとジュリエット』(苦笑)。
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