報復のクロニクル

報復のクロニクル(5)

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“八月三十一日
人と人との関係は 思い通りにいかない”




 ねぐらにしていた渋谷廃墟を出た矢車は、三島の動向を窺っていた。
 果たして、こちらの思惑通りに動いてくれるのかと危ぶみながら。

 三島にはまだ、ハイパーゼクターという切り札がある。ホッパーゼクターなど、三島にとっては取るに足らないものかもしれない。
 万一、そのまま捨て置かれたのでは、意味がなくなってしまう。

「……そうそう、俺の相棒になってくれなきゃ。なぁ、三島さん」

 己と色違いのライダーの姿を認めて、矢車は口の端を上げた。

 廃ビルに立てこもったワームらを相手に、パンチホッパーが応戦している。
 ビルから離れた建物の陰で、矢車は戦いの様子を傍観した。

 おそらく、三島はホッパーの性能を実戦で測っているのだろう。加賀美陸が希望を託したライダーの性能を、その身で知るために。
 また、陸の直属のライダーであるホッパーが三島の手に渡ったとなれば、陸にとって脅威であり、いい見せしめにもなる。
 すべて、計算づくだ。

 相手は、サナギ体ワームのザコばかり。ザビーとシャドウまで率いているのだから、容易にけりが付く。
 たいした戦闘ではない、と矢車は面白くなさそうに視線を泳がせる。

 その目の端に、廃ビルの方に駆け寄っていく小さな姿を捉えた。

(まずい……!)

 まだ5、6歳の少女が二人、ビルの入り口にちょこんと腰を下ろした。すぐ近くで戦闘が行われていることなど少しも気づかず、楽しげに語らっている。

「こっちに来い! 早く!」

 呼び止めて、連れ戻そうとしたが、遅かった。
 突如、子供たちの泣き声と悲鳴が上がる。ワームという恐ろしい怪物を目の前にして。

「チッ!」

 矢車は子供たちを背後にし、ワームの前に切り込んだ。間髪入れず、利き脚の右に渾身の力を込め、蹴りを放つ。
 変身はしない。サナギ体であれば、やり過ごして逃げるぐらいはできるだろう。

「大丈夫か?」

 少女たちがコクコクと頷くのを確認すると、小さなその手を片方づつ両手で握った。

「じゃ、逃げるぞ」
「お兄ちゃん、後ろ!」

 右側につかんだ少女が叫ぶ。
 振り向かずとも、矢車にも気配で分かった。攻撃が来る。
 だが、子供たちにギュッと強く手を握られ、振り払うことができない。両手が塞がったこの体勢でかわすのは無理だ。

「目つぶってろ……」

 少女たちを腕の中にかばって、矢車は柔らかく言う。
 変身せず切り抜けたかったのに、そうも言っていられないらしい。コートの内のホッパーゼクターを確かめ、矢車は確実に食らうだろう一撃を覚悟した。

 しかし、その衝撃はやって来なかった。代わりに、子供たちの息を飲む声が耳に届く。
 空気の流れが、変わっていた。

 ゆっくり振り向いた矢車は、腕から伸びたニードルをワームに突き立てるライダーの姿を見た。
 黄金色のプロテクターをきらめかせた、ザビーの姿を。

「影山……」

 その名が、矢車の口から自然にこぼれる。
 ライダースーツを装着した影山の表情は、読めない。影山がどんな気持ちで、自分をその瞳に映しているのか、矢車には分からなかった。

 互いに、それ以上声を発せないうちにザビーは後じさり、何事か呟いて、彼らから離れていく。

「影山!」

 もう一度叫んだときには、すでにザビーの気配は跡形もない。
 動かないワームと、撒き散らしたおびただしい緑色の体液に眉を顰め、矢車は息をついた。

 子供たちを安全な区域へ送り出した後、先ほど去り際に影山が残した言葉を、脳裏に反芻する。

『俺の前に、現れるな』

 影山は、そう言った。

「悪いが、そうもいかないんだ」

 手の中のホッパーゼクターを見つめて、矢車は自嘲気味に笑った。
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