報復のクロニクル

報復のクロニクル(6)

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“九月二日
己の立ち位置を振り返るとき、人はそれに気づく”




 パンチホッパーとなった三島は、影山やシャドウと共にたびたび戦闘に赴くようになった。
 そのことを知ったZECT総帥が、ひどく複雑な顔をしていたのを、影山は不思議に思う。

 その上、なぜか矢車が関わってくる。矢車が現れるようになったのは、三島がホッパーになってからだ。

 影山は矢車が生きていることを三島に告げ、説明を求めたが、三島は何も語らない。驚くこともしない。
 まるで、矢車の生存を初めから知っていたかのように。

 自分の知らないところで、何かが動いている。影山は、そのことにぼんやりと気づき始めていた。

 三島の執務室にいる矢車を影山が偶然目にした時、漠然とした疑惑は確信に変わった。
 意外な光景に何度も目をこすってみるも、幻ではない。

 薄汚れた黒いロングコートをまとった矢車が、来客用のソファにゆったりと腰を下ろしている。
 右袖が剥ぎ取られたコートに下には、ボロボロのタンクトップ。ブーツについた歯車が、執務室の床に何筋もの傷を付けていた。
 三島の方は、立ったまま窓の外を眺めている。

(なんだって、ZECTに……)

 以前の矢車を知る者に見られたら、大騒ぎになることは間違いない。矢車は死んだと、公式発表されたのだから。
 田所や加賀美など、執務室に入る前に、他の誰とも出会わなかったのだろうか。

 わずかに開いているドアの隙間から、影山は中の様子を窺った。

「たいした性能じゃないな。こんなものが、『赤い靴』のサポートになると思えん」

 三島がホッパーゼクターを手にしているのが見える。
 パンチホッパーのことを言っているとしても、『赤い靴』とは何だろう。

「まだ能力の半分も出し切っちゃいない。あんたの知らない力があるのさ」

 三島の批判を、矢車は口の端を上げて軽くいなす。ぞっとするほど、その目は冷たい。

「他の力があると? それは何だ」
「取引だと言ったろう。こちらの条件をすべてクリアしたら教えてやる」

 ドアの外の影山に気づいていないらしい。矢車は立ち上がると、掴みかからんばかりの勢いで三島に詰め寄る。

「影山を、ザビーから解放しろ」

 矢車の口から出た自分の名前に、影山は心臓が飛び出しそうになった。

(一体、何の話だ?)

 ドクドクとうるさいほどに自らの鼓動の音が耳につく。口の中もカラカラに乾いていた。
 それでも、その場から動くことができず、影山は食い入るように室内の上司たちを見つめた。

「全ライダーの中でも、ネイティブの影響を一番強く受けるのがザビーだ。くだらない野望に、影山を巻き込むのはやめろ」

 話題にしているその人物がドアの向こうにいるとも知らず、矢車は感情を露に声を荒げる。

「私が巻き込んでいるわけではない。彼が自ら選んだんだ、ザビーになることを」

 不意に三島が、カツカツと靴音を響かせ、ドアの方に向かってきた。

(やば!)

 外で聞き耳を立てていた影山は、慌てて立ち去ろうとするが。

「そんなところにいないで、そろそろ入ったらどうだ」

 勢いよく内側からドアが開かれ、影山はすんでの所で顔をぶつけそうになる。
 驚愕の表情を浮かべた矢車と目が合ってしまい、影山は気まずい思いで顔を伏せた。

 そんな二人の反応を面白そうに見やって、三島は影山を室内に招き入れた。矢車と向かい合わせのソファに座らせ、自分はその隣に腰を下ろす。
 してやられた、と、憎々しげに矢車は唇をかんだ。

「影山。お前からもはっきり言ってやれ。ザビーを手放す気はない、と」
「ザビーを……?」

 三島たちの話が、どういった経緯なのか分からない。けれど、『ザビー』という語に、影山は眉を寄せる。

(ザビーは……。ザビーだけは、譲れない)

 今の地位を、ザビーでありシャドウ隊長を任されている現状を、捨てたくはなかった。

「俺は、ザビーでありたい」

 断固とした意志を示す影山に、矢車は辛そうな目を向ける。影山の胸がずきんと痛んだ。

(なんで、そんな顔するのさ……)

「当事者が望む以上、この条件は無効ではないか?」

 三島は、くいと人差し指で眼鏡を押し上げる。

「確かにな」

 ややうつむいた矢車の口元は、薄く笑っていた。長めの前髪に隠れ、目元の表情は分からない。

「なら、明かしてもらおうか。ホッパーの力とやらを」

 嘘や誤魔化しをさせないため、三島はあえて矢車に影山の前で話すよう促す。
 この交渉において、影山の存在は保険のようなものだ。

 大きく息をついて、矢車は話を始めた。

「……ホッパーは “破壊” の象徴さ。ガタックが “戦いの神” なら、ホッパーは “破滅の神” といったところだ」
「ふん。それほどの力があるとは思えんが」

 見下した三島の視線は、ホッパーゼクターに注がれている。

「腕のアンカージャッキが、爆発的な力を解放することは知ってるだろう。最大限に発揮すれば、世界を破壊するほどの威力を持つ。その時はおそらく、カブトにもガタックにも止められない」
「馬鹿な、そんなもの……」

 あの加賀美陸が作るはずはない、と言いたいのだろう。

 甘いな、と矢車は心の中で嘲笑する。
 ホッパーは、『赤い靴』のサポートであると同時に、万が一の場合のストッパーだ。生半可な力で、暴走したカブトたちに対抗できるわけがない。

「ホッパーは、最終兵器さ」

(悪いな……)

 やや青ざめた顔で話に耳を傾ける影山に、矢車は声に出さず詫びた。
 この段階で、影山に事の仔細を知らせるつもりはなかったのに。
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