星祭りの夜

星祭りの夜(1)

 ←いまさら七夕 →星祭りの夜(2)
 誰かが言っていた
 七夕の夜は、精神の旅サイコトラベルができるのだと



1. 矢車想の夜



「相棒! どこだ?」

 先ほどから呼んでいるが、相棒の姿が見当たらない。
 こんな夜中にこんな場所で、はぐれるバカがいるか。

 例年、雨が降ることが多い七夕の夜。
 今年は珍しく晴れたから星がよく見えるところに行こう、と言い出したのはあいつなのに。

 すぐ下に澄んだ川が流れる土手に腰を下ろし、俺は探すのを諦めた。
 街灯もない。月明かりと星の輝きだけが頼りのこの場所で、下手に動いたら、余計迷いそうだ。

 月の光を宿し、さらさらと流れる川面。
 静寂の中、川の流れだけがあった。住宅街からそれほど離れていないはずなのに、生活の音がまったくしない。

 あまりの静けさに、俺はわずかに身震いした。
 まるで、世界に自分ひとりだけしかいないような感覚に襲われる。いつも俺の傍にいた相棒も、今はいない。

「どこに行ったんだ、相棒……」

 ひとりごちて、俺は膝の間に顔を伏せた。




 “笹の葉さらさら のきばに揺れる”

 どこかで、子供の歌う声が聞こえる。
 誰か来たのだろうかと周りを見回すと、俺の下方、川辺に小学生くらいの少年がいる。
 笹の葉で作った舟を川に流そうとしているようだ。

「おい、そんなとこにいると危ないぞ」

 近くに寄りながら、驚かせないように声をかける。
 だが少年は俺の忠告に耳を貸さず、目的を果たすべく、さらに身を乗り出していた。

「危ないって言ってるだろ、落ちるぞ!」

 ぐい、と俺は少年の体に腕を回して引き上げた。

「……離せよっ!」

 少年はキッと睨み付けてくる。その顔は、どこかで見覚えがある気がする。

「なら、別の場所でやれ。俺の見てないところでなら勝手に落ちろ」

 突き放すように言うと、少年は急に黙り込んだ。

「……なんだよ。助けてくれたんじゃないのかよ」
「悪いな。そんなに善人じゃない」
「……助けてよ」
「え?」

 少年の訴えに、俺は戸惑った。

「一度助けてくれたなら……ちゃんと責任持てよ」

 俺を見上げてくるその顔は、確かによく知ったもので。

「……お前、名前は?」

 馬鹿げた考えだと思いながらも、確かめずにはいられなかった。
 問われて一瞬きょとんとした様子を見せたが、少年は屈託ない笑顔で答えた。

「影山瞬」

 頭を殴られたかのような、衝撃が走った。半ば予想していた答えとはいえ。
 俺は、タイムスリップでもしたのか。
 これが過去の相棒だというなら、今の相棒はどこだ。

「どうかした?」

 呆然とする俺を不思議に思ったらしく、少年の影山が覗き込んでくる。

「いや……。それよりお前、どうしてこんなところにいるんだ?」

 頭を整理しなくてはならない。俺は状況を把握しようと、少年から情報を求めることにした。

「別に。笹舟を流そうと思っただけさ」

 どこか、きまり悪そうな言い方をする。
 ふと彼が手に握っていた笹舟に目をやると、その先には短冊が付いていた。
 短冊を付けた笹を流す行事は聞いたことがあるものの、笹舟とは。

「ぷっ」

 おかしくなって吹き出す俺に、少年は真っ赤になって怒った。

「わ、笑うなよっ! 俺の短冊、笹に飾らせてもらえなかったんだから、仕方ないだろ!」
「飾らせてもらえなかった? どうして」
「……いろいろ事情があるんだよ」

 うつむいてしまった少年に、それ以上聞くことはできなかったが。短冊に書かれた願いが、彼の境遇を物語っている気がした。

『強くなりたい』

 このくらいの歳の子供が、そんな願いごとをするのはどういう訳だろう。

 強く、なりたい。誰からも傷つけられないくらい、強く。
 俺にも、そんな想いを抱いていた時期があった。

「やめとけ。今のお前じゃ、強くなれない」
「どうしてだよ!?」

 少年の感情を逆撫ですることは分かっていた。
 案の定、食ってかかる影山の頭に、俺はポンと手を置き、諭すように言った。

「お前は、助けを求めてるんだろう? 頼りたい気持ちは分かる。だが、そのままじゃ強くなれない」
「……じゃ、どうすればいいの?」
「そうだな。まずは、自分の現実を受け入れろ。目をそらしたり、逃げたりしないで」

 子供相手に何を真剣に語っているのか、と自分でもおかしかったが、なぜか言わなければいけない、言っておきたいと思った。

「逃げずに、戦うんだ。自分の力で」
「がんばっても……それでも、ダメだったら……?」

 少年が泣きそうな顔で尋ねてくる。

「がんばって、ダメだったとしても」

 俺は、彼の頭をキュッと抱き寄せた。

「俺が、傍にいる」



※亡き石ノ森先生をリスペクトして。
関連記事



【いまさら七夕】へ  【星祭りの夜(2)】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【いまさら七夕】へ
  • 【星祭りの夜(2)】へ