星祭りの夜

星祭りの夜(3)

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3. 流星群



 長いような、短いような時間が過ぎていく。

「……空、見てよ!」

 少年の影山が、俺に預けた頭を少し上向かせて弾んだ声をあげた。

「これは……」

 俺も見上げて、思わず息を飲む。
 空から、たくさんの星たちが次々と降ってくる。雨のように、とどまることなく。輝きを放ちながら。

 流星群だ。
 プラネタリウムでも、こんなに見事なものには滅多にお目にかかれない。

「そうだ! 願い事しなきゃ」

 必死の表情で、少年は小さな声で自分の望みを何回か呟いた。
 どうやら、短冊に書いたものとは違うらしいが。

「慌てなくても、当分続くんじゃないか、これ」

 もはや流れ星なんてレベルじゃない。
 空の星がすべて落ちてしまうのではないかと思うくらい、光の雨は止むことがなかった。
 壮大な天体スペクタクルに見惚れながらも、俺の意識は別のところにあった。

(――相棒。なぜ、お前は、ここにいない?)

「ほら、お兄ちゃんも」
「何だ?」

 急に声を掛けられ驚いた。てっきり、願掛けに夢中になっていると思っていたのに。

「願い事あるんだろ? 今のうちだよ」
「……願いなんて」

 ない、と否定することはできなかった。少年が、こう続けたから。

「ありそうな顔してるよ。何かを願ってるみたい」





 (――麻婆豆腐?)

 今なにか、とんでもないキーワードを聞いたような気がした。
 どうして、この子は、俺の好物を知ってるのか。

「ほら、見なよ」
「あ?」

 少年がつい、と俺の服を引っ張る。
 考えをまとめようとしていたものの、少年が示した方向に目をやり、いっきに思考が奪われてしまった。
 それは、無数の星のシャワーだった。

「……うわ……っ」

 流星群だ。
 あとから、あとから、落ちてくる星。思わず、傘を差したくなってしまうほど。

「すげーっ! 俺、こんなの初めて見た!」

 静かに空を見上げてる少年の隣で、俺はバカみたいにはしゃいでいた。
 どちらが年上か分かったもんじゃない。

「そうだ、流れ星が落ちる前に願い事しようぜ!」
「流れ星っていうか、流星群だけど」

 浮かれる俺に、少年はさらりと言う。

「……かわいくないガキ」
「ガキはどっちだよ」

 無尽蔵に降って来る星たち。確かにきれいだけど。でも本当は、こんな風にひとりで見たくない。
 兄貴は、どうしてるだろう。この星空をどこかで見ているんだろうか。

「何、考えてるの?」
「え?」

 いきなり声を掛けられてびっくりした。
 黙りこくってしまった俺の顔を、少年が覗き込んでくる。

「実は俺、人を探してるんだ。さっき、はぐれちゃってさ」

 俺は苦笑いして答える。別に隠すことじゃない。

「じゃ、願いを掛けてみたら?」

 空を仰いで、少年はそう言った。

「もう、やってる」

 言いながら、俺は願いに集中できるように目を閉じた。
 真っ暗になった視界の中、少年の声が響く。

「オレも、一緒に願ってあげるよ」



 ――相棒は、
 ――兄貴は、

 なぜ今、俺の傍にいないんだろう……?
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