星祭りの夜

星祭りの夜(4)

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4. そして……



 探していた人物は、唐突に現れた。

 それぞれの隣にいた少年は、流星群が止むと、いつの間にかいなくなっている。
 月と星が照らす川辺で、ふたりは合流した。

「お前、どこにいたんだ!」
「兄貴、どこにいたのさ!」

 口をそろえて同じ質問をする。

 いつもの影山の姿を認め、どうやら現実に戻ったらしい、と矢車は安堵の息をついた。
 彼の赤いタンクトップが、水に浸かったように濡れているのが気にはなったが。

「……あれ。今度はあの子が、いなくなっちゃった」

 キョロキョロと辺りを見回して、影山はうーんと首をかしげる。

「あの子?」
「うん。兄貴がいない間、一緒にいたんだ」
「……どんな子だ?」
「……あ」

 影山は、そう言えば、と思い至る。少年の名前さえ、聞いていなかった。

「なんか、ヘンな子でさ。教科書とかカバンを、川に投げ込んでたんだ。それを俺、拾ってやって……」

 影山には状況がまったく飲み込めない。
 しかし少し眉根を寄せた矢車は、頭の中のモヤがだんだんと晴れていく気がした。

 (……ああ、そうか)

 くっくっ、と矢車はおかしそうに笑った。

「相棒。子供の頃、短冊にどんな願いを書いた?」
「短冊って、七夕の? そんなの覚えてないよ」

 子供の頃には、願い事は数え切れないほどあった。年を重ねるごとに、願い事は変わり、少なくもなっていった。
 たとえ願っても、容易に叶えられないことを知ってしまうから。

「兄貴こそ、何か願い事したとか?」
「……短冊じゃなかったがな」

 含みを持たせた矢車の物言いに、影山は好奇心いっぱいの眼差しを向ける。

「じゃ、何に願ったの?」
「流れ星さ」

 『星に願いを』なんてガラじゃない。思いきり意外そうな顔をする影山を、矢車は拳で軽く小突いた。

「他の奴のために願ったんだ。そいつの願いが叶うように、って」
「ええっ、兄貴が?」

 またもや大げさに驚かれ、矢車はただ苦笑するしかなかった。

「さあ、もう帰るぞ」

 ひとこと言って、くるりと背を向ける。
 一人で歩き出す矢車の後を、影山は慌てて追い掛けた。

「えー、待ってよ! まだ、兄貴と一緒に星見てないのに!」

 そんな影山の抗議の声も、聞こえない振りをして耳を貸さない。
 もう、見る必要もないだろう。あれほどの流星群を、体験したばかりなのだから。

 影山が気づいていないのなら、そのほうがいいと矢車は思った。
 初めて人前で大泣きしたことは、ひどく恥ずかしく、実を言えば、あまり思い出したくはない。
 それでも、不思議なあの夜の出来事は、少年の頃の矢車にとって、大きな意味を持つものだった。

「……ヘンな子で、悪かったな」
「なんの話だよ?」

 振り向くことなく、矢車はぽつりと言った。口元には、照れくさそうな笑みを浮かべて。
 不貞腐れて後ろを付いてくる影山が、その表情を窺い知ることはなかったけれど。

 それは、七夕の夜の、不思議な旅。


 END



※はい、ラストです。
4連チャン、お付き合いくださり、ありがとうございました。
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