報復のクロニクル

報復のクロニクル(9)

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 矢車は、影山の手首を取って脈をみた。
 まだ心臓が動いていれば、助ける方法はある。

 トクン、トクンと伝わる律動。

(……大丈夫だ)

 ほっと安堵し、手早くライダーベルトを影山の体に巻く。そこに、三島の手から離れた灰色のホッパーゼクターを収めた。
 装着者の意識がないまま、パンチホッパーの装甲が影山を覆っていく。

「生きろ、影山……」

 常になく、弱々しい声音で矢車は呟いた。祈りのように。

「でなければ、俺が生き延びた意味がない」

 ホッパーゼクターに秘められた“破壊”と“再生”の力。
 三島から吸い取った命は、もうひとつのホッパーによって、生かす力に変換される。
 装着者を死に至らしめる力は、同時に、装着者を死の淵から呼び戻す力でもあった。





 ZECT指令車の無線を使い、矢車は或る人物に連絡を入れた。もちろん、通信記録を消す方法は心得ている。
 その人物が、シャドウに撤退命令を出したのだろう。車の陰に腰を下ろした二人に目を留めず、別の指令車で引き上げるかつての己の部隊を、矢車は何の感慨もなくぼんやりと見送る。

 ホッパーの再生と治癒で、影山は一命を取り留めていた。
 傷口が塞がると同時に、自然と変身は解除されたが、影山の意識は戻らない。

 どのくらいの時間そうしていたのか。
 身動きもせず、うつろな瞳で宙を仰ぐ矢車の後ろから、近づいてくる足音があった。

「仕留め損なったようだね」

 予想通りの言葉をかけられ、矢車は軽く溜息をつく。

「……事情が変わった」

 矢車の肩にもたれかかる若きシャドウ隊長に目をやり、初老の男は肩をすくめた。

「冷酷に徹しきれなかったわけか」
「天道や、あんたの息子の出番を残してやったまでだ」

 吐き捨てるように言われ、ふむ、と男は苦笑する。
 矢車の一計で、ネイティブの黒幕である三島が倒れてくれればしめたものだったが、最後の詰めが甘かったようだ。もっとも、あの衰弱ぶりでは、ZECTへの復帰は適うまいが。

 できることなら、『赤い靴』の発動は避けたい、と男は願う。巻き込んでしまったのは、正義漢の強い自らの息子なのだから。

 三島を支持する一派、そしてネイティブをどうするか。
 次の手駒を動かすべく、踵を返そうとした男は、ふと足を止めて尋ねた。

「彼を、きみの相棒にするのかね?」

 その問いに、矢車の眼差しが揺れる。

「ホッパーの破壊と再生は、一対のものだ。円を為し、循環する」
「それが、どうした」

 今さら聞きたくもないと言いたげに、矢車は顔をそらす。
 ホッパーゼクターを与えられた当初、この人物から教えられている。

「どちらがどちら、ということはないんだよ。それぞれが、どちらの役目も果たす」

 ホッパーは、装着者の命を取り込み続け、力へと変換する。対になるホッパーが、取り込んだ力を再び命へと変換させる。
 すなわち、対でなければ身を滅ぼす、諸刃の剣。

 『赤い靴』発動時には、二体のホッパーの全生命力をもって、カブトとガタックの暴走を食い止めることになる。最悪のシナリオでは、死を覚悟しろ、というわけだ。
 ワームと人間、すべてを壊してでも、すべての争いに終止符を打つ。それが、ホッパーの役割だった。

 “命” の破壊と再生、“世界” の破壊と再生。
 終わらせなければ、始めることはできない。

「互いが、己の一部になり、ひとつの使命を果たす。だからこそ、私はホッパーを二体作ったのだ」
「感謝でもしろってか? 地獄の道連れにされて、誰が喜ぶと思う」

 まるで創造主が謳うような男の言葉に、矢車は苛立ちを覚えた。

「まぁ、きみの相棒だ。好きに選びたまえ」

 背を向けたまま軽く片手を挙げる。と、黒塗りの乗用車が前方に止まる。二人をその場に残し、ZECT総帥・加賀美陸を乗せた車は走り去った。





 日が落ちてきた薄暗い空に、星が瞬き始めた。
 影山はいまだ目覚めないが、その寝息は安らかだ。傷は癒えており、普通に眠っているようにも見える。

 いつまでも、ここにいるわけにもいくまい。ZECT指令車の助手席に影山を座らせ、矢車は運転席側に乗り込む。

(相棒、だと)

 ハンドルの上に顔を伏せ、くっと自嘲する。
 相棒など、体よく、共に地獄に落ちる道連れにすぎない。無理矢理、重い役目を負わされた片割れは、どう思うだろう。

「俺を恨みたきゃ、恨んでいいんだぜ。……相棒?」

 答えが返ってこないことを知りつつ、矢車はひとりごちた後、車を出した。



“九月十七日
飛蝗の命は短く それゆえ、『つがい』でなければならない
どうやら飛蝗は、片割れを見つけたようだ――”



 END



※ラストです。ほんとは、もう一話あるはずだったのに、無理矢理一話に収めてしまいました(^^;
この話は本編に沿ったように見せかけて、実は沿っていないパラレルです(苦笑)。
本編通りにやるなら、「二人の確執はどうした?」ってことになってくるし・・・。
いただいたリクと主旨が違ってしまったかも・・・ゴメンナサイm(__)m
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