楽園依存症候群

楽園依存症候群(4)

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 暑い季節に、図書館は都合がいい。
 空調が利いている上、料金もかからず、時間を気にせずいつまでもいられる。

 矢車は先日天道から聞いた事件を調べるため、図書館で資料を探していた。
 一緒に付いてきた影山は、DVDやCDコーナーにしか興味はなさそうだ。

 気に入った映画を見つけたらしい影山がDVDルームに入っていくのを目の端に映しながら、矢車は目的の新聞記事をプリントアウトする。

 七年前、渋谷に隕石が落ちたのとほぼ同時期、ノルウェーの首都オスロにも隕石が落ちている。
 他に、カナダの森林にひとつ、ニュージーランドとブラジルの間の南太平洋上にひとつ。

(計四個……)

 森林と海に落ちたものに関して、隕石落下による人的被害は出なかった。
 だが、それぞれの地に今もワームが潜伏している可能性は大いにある。

 天道が言っていたノルウェーの親殺しの事件は、数ヶ月前の地方紙に小さく載っていた。
 全部で19件、被害者は40人弱。どれも、7歳から9歳の子供が両親を鋭利な刃物で刺したとされる。

『バイキングの霊のたたりか!?』とセンセーショナルな見出しで取り上げたゴシップ誌などでは、とても事実の解明に及ばない。

 これほど特異な大きな事件なのに話題に上らないのは、犯行が未成年であるゆえか。
 しかし、報道自体に規制がかかっていることを、天道はほのめかした。

(隠蔽工作、か)

 やれやれ、と矢車は溜息をつく。
 ワームと癒着した政府や組織のお決まりの手段だ。

 探し物を終えた後、DVDルームを見渡した矢車は、影山の姿がないことに気づいた。
 図書館の中では、大声で呼べない。
 DVD・CDコーナーから、まさかとは思ったが、歴史・文学のコーナーまで。さすがにここにはいないだろうと、小難しい理数系のコーナーを回っても、やはり見つからなかった。

(もしかしたら、薬が切れて……)

 そんな不吉な考えも浮かび、矢車は図書館の出入り口へと足を向ける。

「あ、兄貴」

 入り口付近で、なんとも気の抜けた声が矢車を呼び止めた。

「相棒。お前、何して……」

 思わず矢車が呆れ顔になったのも、無理はあるまい。
 図書館を入ってすぐの場所は、幼児たちの遊び場になっている。
 カーペットが敷かれ、おもちゃや絵本を楽しむ子供たちの中に、影山がいた。

「ご、誤解しないでよね! この子、お母さんと来たんだけど、はぐれちゃったって言うからさ。一緒に遊んでやってたんだ」
「また、迷子か」

 3、4歳の男の子の傍に座り、必死で弁明する影山に、矢車は疲れたように肩を落とす。

「はぐれたって言っても、図書館の中だろ。そのうち、母親が探しに来るさ」
「う……ん。そうだけど」

 どうも影山の態度が釈然としない。

「たとえ少しの間だって、ほっとかれたら、すごい不安だし寂しいんだよ。ちゃんと、親がしっかり見ててあげなきゃいけないのに」

 言いながら、一緒にブロックで遊んでいたその子供を、影山はギュッと抱きしめた。

「おにいちゃん?」

 突然抱きしめられ、子供はきょとんと無邪気な目を向ける。
 子供の小さな肩に顔を埋める影山の頭を軽く叩いてから、代わりに矢車が答えた。

「気にするな。このお兄ちゃん、寂しがりやなんだ。俺たちはもう行くから、お母さんが来るまで、ここでちゃんと待ってるんだぞ」
「うん、分かった」

 バイバイと手を振る子供に、矢車も右手を上げて返してやる。
 ずっと俯いたままの相棒の肩に腕を回し、促して歩かせた。

「何かあったのか?」
「別に」
「……そうか」

 素っ気なく返事をする影山に、矢車はそれ以上尋ねない。
 どことなくおかしい影山の様子が気に掛かるが、無理に心の中に踏み込むことはできなかった。



※実在の地名が出てきたりしますが、もちろんすべてフィクションで捏造です。
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