楽園依存症候群

楽園依存症候群(6)

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 日が長い季節、18時前後はまだ宵の口でそれ程暗くはない。
 ディナータイムのためか、店内はそこそこ客が入り賑わっていた。 

 「いらっしゃ……何だ、お前か」

 仮にも客に対して、店員であるひよりの対応は適切とは言い難い。
 しかし非礼を気にも留めず、矢車はまっすぐ目的の席へ向かう。

「何だ、お前か」

 窓際の四人掛けのテーブルは、ほぼ天道の指定席となっていた。
 矢車の姿を認めた天道は、先程のひよりとまったく同じ台詞を投げてくる。

「あ、矢車さん」

 今日は非番なのか、私服の加賀美も向かい合わせに座っている。
 好都合だとばかりに、矢車は手近にある椅子を引き寄せ、旧知の男たちと顔を突き合わせた。

「……影山がいなくなった。“あの件” と関係があるようだ」

 天道に助けを求めるのは癪に障る。とはいえ、他に方法がない。
 驚いた様子を見せる天道たちに、矢車は事情を手短に説明した。

 事の成り行きに耳を傾け、天道が冷静に問い掛ける。

「ターゲットは子供のはずだ。なぜ、影山が関わってくる」
「俺の方が知りたい。まさかお前、影山に例の話を吹き込んでないだろうな」
「誰が、あんな単純バカに話すか」

 矢車が睨むと、天道は、心外だ、と嫌そうな顔をした。

 図書館での影山の言動は、明らかにノルウェーの事件を示唆している。周囲の状況に流されやすい影山ならば、あの怪事件を自分の身に重ね合わせてしまうかもしれない。
 図書館でチェックした資料も、矢車は影山の目につかないよう極力注意を払っていた。

 すると、コーヒーカップを手に持ち、考え込んでいた加賀美がおずおず口を開いた。

「……実は、渋谷廃墟で異変がありまして。もしかしたら、それが影山さんと関係してるのかも」
「渋谷廃墟? 隕石落下の跡地か」

 矢車は嫌な予感を覚えた。
 頷いた加賀美は、“親父” からの情報ですけど、と前置きする。警察側ではなく、ZECT側の情報というわけだ。

 表向きは、ワームは倒され、ZECTは解散したと伝えられている。
 だが実際は、ワーム化抑制治療も完全ではなく、生き残りのワームに対しての警戒が依然続いていた。

「電波信号が、渋谷廃墟から継続的に発信されてるんです。ワームの通信と思われますが、内容はまだ解析できてません」
「ワームがまた動き出したのか!?」
「落ち着け」

 椅子から身を乗り出しかけた矢車を、天道が片手を挙げて制す。
 矢車はギリッと唇を噛んだ。
 薬で抑えていても、ワームと接触することで、影山の変異が再発しないとも限らない。

(……そうだ、薬は!?)

 事の重大さに、矢車は思い当たった。
 ワーム化抑制の薬は、コートのポケットにそのまま入っていた。つまり影山は薬を持っていない。
 一刻も早く、影山を見つけねばならない。

「あ、待ってください! 動くのは、電波通信の分析結果が出てから……!」
「それじゃ、遅い」

 止める声を振り切り、矢車は即座に店を飛び出した。
 加賀美は慌ててその後を追おうとする。ワームが群れているとしたら、単独行動は危険だ。

「待て、加賀美。お前は分析結果を待って、父親から詳しく聞き出せ」
「でも、矢車さんは」
「俺が、行く」

 戸惑う友人の肩にぽんと手を乗せ、天道は店の裏口からガレージへと出た。

「バイクを借りていくと、ひよりに伝えておいてくれ」

 ガレージの隅に、シートを被った白と赤の塗装のバイクが置かれている。

「借りてく、って。もともとお前のだろ、それ」
「そうだな」

 加賀美の言葉を背で聞きながら、ハンドルに掛けてあったフルフェイスのヘルメットをかぶる。

 もう乗ることもなかったため、ひよりに頼んで店に置かせてもらっていた。
 持ち主が不在の間も、妹はバイクを丁寧に磨いていたらしい。シートを取り払い、埃一つ付いていない愛車に目を細めると、天道は久しぶりにエンジンをかけた。
 これなら、頭に血が上った矢車に簡単に追いつけるだろう。
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