完全調和な不協和音

完全調和な不協和音(2)

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vol.2 変ニ長調の出会い


「影山瞬です。よろしくお願いします!」

 その新しい部下は、緊張した面持ちで俺に自己紹介すると、ペコリと頭を下げた。

 どことなく懐かしい風貌だと思ったら、ちゃんちゃんこを着た某妖怪に似ている気がする。
 こいつだったら、ウエ●ツのようにヅラなしでも、その役はイケるだろうに。

「カゲヤマシュン、だったな。シュンは、どんな字だ」
「えっ……と、日を左に書いて、右にカタカナのノを書いて、ツを書いて……」

 一生懸命説明する影山の言葉通りに、俺は頭の中で字を書いてみる。

「ああ、瞬間湯沸かし器の “瞬” か」

 もっといい例えを使いたかったが、あいにく思いつかなかったので。
 まさか、19の男に「アンド●メダの瞬だな」と言っても、どうせ分かるまい。

「影山、ひとつ言っておくが」
「はい?」
「“瞬” の字の『へん』は、日ではなく、目だ」

 あれ? と影山は首をひねっている。後で、漢和辞典を見せてやらないと。

 もし漢字検定を受けることがあれば、覚えておくといい。この字は、間違う奴が必ず数人いるため、出題者が好んで出す引っ掛け問題のひとつだから。

「それから、ここは実戦部隊だ。ワームが現れたらすぐ出動命令が来る。覚悟はできてるか?」
「はいっ!」

 上司らしく毅然とした態度の俺に、影山は元気よく答える。

「俺は、矢車想。趣味は料理だ。何か、他に質問は?」

 握手の手を差し出し、俺は最上の笑顔を向けた。
 管理職として、『親しみやすい上司』をアピールしつつ、部下の自主的なやる気を引き出してやらねばならない。

「あ、ひとつ、矢車さんにお願いしたいことがあるんです」
「なんだ?」
「実は、今月給料がピンチで……」

 言いにくそうな影山の様子に、俺はピンと来た。

「前借りか? だったら、俺が経理課の方に頼んで……」
「いえっ、そうじゃなくて。その……1セット5000円は、ちょっと高いんで、できれば給料引きにしてもらえないかと」

(……1セット5000円?)

 影山の意味するものが何か分からず、俺は首をかしげた。

「あ、俺、会員番号26番で。ちょうど矢車さんの歳と同じですよね」

 そう言われて、ますます分からない。何の事かと尋ねると、影山はあっけらかんと言い放った。

「え、矢車さんの公認じゃないんですか?」

 唖然としている俺に影山が見せたものは、いつの間に撮られたのか、12枚もの俺の写真と、『矢車さんファンクラブ No.26』と書かれた会員証。

「タオルやパスケースもありますよ」

 パスケースは限定10個のレアものです、と影山は大事そうに俺に見せる。

 物好きにそんなもの買うな、入会するな。だから、金がなくなるんだ。
 というより、俺本人が全然知らないうちに、ファンクラブなんて、いつ誰が発足したのか。
 写真画像の無断流用は、肖像権の侵害に他ならない。

 手にしたペンを親指でボキリと折りそうになったが、これはZECTの備品なので、それもできない。
 怒りで引きつりそうになる顔を必死で抑え、俺は影山に尋ねた。

「そのクラブの、会長は誰だ?」
「えっと、確か――」

 影山の言葉を聞いた俺は、修羅のような形相をして、ZECTの廊下をズカズカと大股で歩いていく。
 修羅といっても、北斗修羅とは無関係だ、念のため。

 本当は走って行きたかったが、ところどころに貼られた「廊下は走るな」の張り紙が俺を押しとどめる。
 小学校か、ここは。

 苛立ちを隠し切れず、俺は目的の部屋のドアを、ぶち壊すほどの勢いで荒々しく叩いた。
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