完全調和な不協和音

完全調和な不協和音(3)

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vol.3 ホ短調の告白


「――田所さん! 一体どういうことですか、ファンクラブって何なんです!?」

 どうぞ、という声が聞こえてくる前に、俺はドアを開け、中にいる人物のもとに走り寄った。

 田所さんは、デスクで何やら作業中。よく見ると、それは先程見かけた「廊下は走るな」の張り紙だ。
 机の上には、マジックだのマーカーだのスクリーントーンだの。まるで、どこかの漫画家か同人作家ような具材が、机の上に散乱している。

 張り紙の製作者は、この人らしい。

「ま、まあ、落ち着け。矢車」

 俺の肩を抑えて、田所さんはなだめようとする。
 とりあえず、その手に持ったトーンとカッターナイフは机に置いてほしいんだが。

「……実はな、ZECTでも『社員の意識改革』の見直しが提案され、俺が実行リーダーになったわけだ。それにはやはり、『コンプライアンスの徹底』と『福利厚生の充実』だ。分かるな?」

 やたらと小難しくもっともらしい言葉を並べる田所さんは、俺を煙に巻くつもりなんだろう。
 しかし、俺にその手は通じない。

「コンプライアンス……『法令遵守』ですね。で、手始めに、廊下を走ることを取り締まろうと」
「そ、そうだ」

 旗色が悪いことを悟り、田所さんはギクッと固まった。

「福利厚生については、レクリエーションの一環として、ファンクラブを作ったわけですか。隊員たちの士気を高めるために」
「そ、そ、そうだ」

 さすが矢車だ、と田所さんは誤魔化すようにハハハと笑う。冷や汗を額に浮かべて。

「……それで、徴収した会費は? ポケットマネーにしたんですか?」
「まさか!  俺が、そんな事をするか」

 そこだけ妙に毅然と主張する。

「ファンクラブの売り上げ金は、ちゃんとZECTの収支報告に計上した。1円だって、誤魔化しちゃいない!」

 田所さんのZECTへの忠信ぶりは立派だ。ただ内容が内容なだけに、情けない。
 俺はふうと息をついて、肩を落とした。

「とにかく、俺の写真を隠し撮りするのは、やめてください」
「わ、悪かった。すまない」

 汗を拭き拭き、田所さんは謝罪する。

「2割、でいいですから」

 ドアに向かった俺は、振り向きざまにこりと笑いかけた。

「俺の肖像権の取り分は」

 特に見返りが欲しいわけじゃないが、ささやかな復讐だ。
 サーッと青ざめる田所さんを顧みることなく、俺は機嫌よくオフィスを後にした。



※矢車さん、黒過ぎます・・・。
おかしいな、なんでこんな話になるのやら(--;
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~ Comment ~

>春巻様 

染み入るようなお言葉、ありがとうございます。
別サイトも読んでいただけたようで、お恥ずかしい限りです(^^;
お気に入りの香水・・・もったいないお言葉です。
せっかくのお言葉を汚さないよう、がんばります(^^)

 

読み終えた瞬間に香り立つ気品、これが本サイトだけでなく別サイト作品からも感じられます。
お気に入りの香水に出会えたときのうれしさにも似て。毎日、纏います。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

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