楽園依存症候群

楽園依存症候群(9)

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 縦穴を降りると、淡い光を放つ床と壁が目についた。壁自体が発光しているため、採光は特に必要ない。
 材質や構造から察するに、ZECT所有の建造物でないことは明らかだ。

「……まるで、宇宙船の中だな」

 後から降りてきた天道が、周囲を見回して息をついた。

 ドームのように丸みを帯びた壁面と天井。通路は狭いが、並んで歩ける程度の広さはある。
 一本道の通路の側壁にはハッチらしき開口部が幾つかあった。部屋か別の通路が続いているのだろう。
 足音だけが響く通路を、二人は気後れした様子もなく歩を進める。必要な時以外、口を利かずに。

「何か来るぞ」

 天道の方がわずかに早く、駆けてくる足音に気づいた。

「……兄貴!」

 耳に飛び込んできたのは、馴染みのある声。唐突に、まさに探していたその相手が通路の角からひょっこり顔を覗かせた。
 いなくなった時と同じく赤いタンクトップを身に着け、満面の笑みを浮かべて。嬉しそうに駆け寄ってくる姿は、紛れもなく影山だった。
 しかし矢車も天道も、険しい表情のまま口元を引き締めている。

「どうしたのさ、兄貴」
「離れろ。俺に触れるな」

 伸ばされた影山の手を振り払い、矢車は低い声を出す。

「怒ってるの? その、ごめん。勝手に出てきちゃってさ」

 おろおろと影山は身振り手振りで謝罪を繰り返した。普段であれば、影山に対し、これ程冷たい視線を向けることはない。
 兄貴、と悲し気に呼びかける相棒から目を逸らし、矢車は感情を抑えて告げる。

「偽者に用はない。俺が探してるのは本物だけだ」
「どうして……」

 影山の瞳が大きく見開かれた。
 途端に、影山の体は緑色に膨れ上がり、硬い皮膚に覆われたワームへと変貌していった。
 襲い掛かって来るワームを素早くかわし、二人は左右に飛びのく。

 初めから、現れた人物が人間でないことは気配で分かっていた。
 それでも、変化を目の当たりにすれば、やりきれない気持ちになってしまう。

 カブトゼクターを掴んだ天道は、今一度矢車に確認した。

「いいんだな?」
「ああ」

 矢車の頷きを合図に、天道はゼクターをライダーベルトに装着する。
 これは影山ではない、と矢車の感覚が告げていた。
 天道は懸念を捨てきれなかったが、矢車が偽物と言うなら、その判断を信じるまでだ。

 決着は一瞬で付いた。
 天道は変身を解除し、周囲に再び静けさが戻る。
 先ほど影山の姿を模していた異形のものを見下ろし、矢車は深く息を吐いた。

「擬態がいるということは、本物もここにいるわけだ」
「らしいな。急ごう」

 矢車は、代わりに戦いを引き受けてくれたライバルの背を、感謝を込めてぽんと叩く。
 たとえ擬態であれ、影山の姿をしたものを自らの手で葬ることは矢車にはできなかっただろう。





(兄貴……?)

 ふと矢車の声が聞こえた気がして、影山は思わず後ろを振り向いた。
 誰もいないことなど、分かっているのに。

『兄貴って、誰?』

 青い眼と、日本人よりも色素の薄い淡い色の髪を持った、小さな少年が尋ねる。

『んー、俺の大事な人。ほんとの兄貴じゃないけどね』

 影山は、その子の頭を撫でてやりがら答えた。

『コイビトなの?』

 今度は別の女の子が、大きな碧眼をクリクリさせて聞いてくる。
 ませた物言いに困ったように笑って、影山はその子の頭も撫でてやった。

『恋人じゃないけど……恋人よりも、きっと俺の心に一番近いところにいるよ』

 会話はすべて心で行われ、誰も声を発していない。もとより、日本語が通じる相手ではないのだから。
 ふーん、と、子供たちはよく分からないと言いたげに首をかしげる。

『まだ、殺してないの?』

 無邪気な瞳で問いながら、その口調には影山を咎める含みがあった。
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~ Comment ~

>ゆうひ様 

コメント、ありがとうございます。
今さら兄弟への愛だけで突っ走っている拙い小説ですが、少しでもお気に召していただけたら嬉しいです(^^)
「楽園」は、いつものシリアスよりちょっと長くなるかも・・・なのですが、よろしければ最後までお付き合いくださいませv
励まされるお言葉、ありがとうございました。

 

はじめまして。
いつもマーリンさんの小説楽しく拝見させて頂いています。

どの作品も、兄弟の心の繋がりを大切にされていらして、大好きです!

「楽園依存症候群」、今回は兄貴の影山を想う気持ちにホロリとなりました。
どんな展開をしていくのか本当に楽しみです。

これからも素敵な小説をお書きになって下さいね。
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