楽園依存症候群

楽園依存症候群(12)

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 影山の消えた通路にワームの気配はなく、変身を解除して矢車は走った。
 直進するだけの短い通路は、やがて三メートル四方の空間に突き当たる。その床からは椅子やテーブルらしきものがせり出し、殺風景な小部屋という様相だ。

 追いついた矢車は、影山と共にいる小さな存在に目を見張る。
 淡い色の眼と髪を持つ、7人の幼い少年と少女たち。

「相棒、この子たちは何だ」

 子供ながらも敵意に満ちた瞳を一斉に向けられ、背筋がぞくりとする。

「俺の友だち。両親を殺して、ここにやって来たんだ。楽園を求めて」
「何言ってる……」

 矢車は影山の言葉の意味を掴みかね、眉を寄せた。

(レミングシステム、か)

 渋谷廃墟で天道と交わした話が思い起こされる。
 おそらく子供たちはノルウェー人。ワームを 集団自殺に追い込んだ技術の余波を食らい、自らの親を手にかける凶行に至ったのだろう。

「薬だ、とにかく飲め」

 矢車はポケットから錠剤を取り出し、影山に差し出した。
 サルで天道たちと別れた後、これを取りに戻ったために渋谷廃墟のゲートで天道より遅れてしまった。

 なのに、影山は勢いよくその手を払う。
 床に落ちた薬が、子供たちの小さな手で拾われるのを、矢車は黙ったまま目で追った。

「もういい。俺はもう、ワームなんだよ、兄貴」

 子供たちの頭を撫でてやりながら、影山は俯いたまま呟く。
 薬の代わりに、子供のひとりが影山の手に銀色にきらめくナイフを握らせた。

「邪魔するなら、殺す」

 通過儀礼を果たさなければ、楽園へ行けない。
 永遠を手に入れたければ、儚く移ろいやすい今を捨てねばならない。

 信じられない宣告を耳にしても、矢車は表情を変えず影山を見つめていた。

「ワームでも何でも、相棒には違いない」
「逃げないの、兄貴?」

 影山の表情が困惑に歪む。
 逃げてくれたら良かった。そうすれば、諦めることができたのに。

『逃げられないように、押さえちゃおっか』
『ダメだ』

 巻き毛の少年の提案に、影山は首を横に振った。
 声に出さない少年と影山の会話は、矢車には分からない。

「やっと見つけたのに、逃げると思うか」

 矢車は刺される覚悟を決めて、口角を上げる。
 ワームを操る程強力な精神操作なら、簡単に解くことはできまい。

 好きにしろ、と言わんばかりに無防備に広げられた矢車の両腕。
 いびつな笑みを口元に浮かべ、影山は鼻を鳴らした。

(……甘いよ、兄貴)

 再会した頃は触れれば切れそうな眼差しをしていたのに、矢車は変わった。
 生きている限り、人は変わる。良い方に向かうか悪い方に向かうか、先のことなど知る由もない。

「バイバイ」

 迷いはもう、なかった。
 学校帰りの友達同士のような軽い口調で別れを告げ、影山は大事な人の胸にナイフを突き立てた。
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~ Comment ~

>春巻様 

はい、こちらでも大丈夫ですよ~(^^)
春巻さんのコメントに、とっても感激&楽しませていただきましたv
お、畏れ多いですよっ。でも、ありがとうございます。

あの話は毛色が違って、自分でも書き終えた後、「なんじゃこら」と思いましたが(^^;
コメントを頂いて、妄想がふくらみました~! なんか、シリーズ化したくなった・・・(笑)。

美味しいよお! 

このフルコースは、絶品!
一皿一皿、工夫をこらした料理が積み重なって
味覚のタワーを構成する。
屋上に到達するまでワクワク感が止まない。
これは、SSの、東京タワーやーー!

ところで支店の方の感想はここに書いていいですか?
「スタートレック」にでてくる、あんな装置だったらもう部屋から出てこれないですね。
あのアンドロイドの冷たい皮膚感覚を隊長に重ねてみたら、うっわあ美しい!
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