完全調和な不協和音

完全調和な不協和音(7)

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vol.7 へ長調の食卓


 豆腐を図らずも2丁持って、俺は自分のマンションに影山を招いた。

「へー、いいとこですね」

 周辺を見回しながら、影山が感嘆する。
 駅から徒歩4分、近所には深夜営業のスーパーもあり、小学校も近いから良いですよ、と勧められた物件だ。
 俺としては、バイク通勤だし、安売りスーパーには興味がないし、子供どころか結婚もしていないので小学校もどうでもよかったんだが。

 「お邪魔します」と言って部屋へ入ってくる部下に、紅茶でも入れてやろうと俺はキッチンへと立った。
 その後を、影山がとことこ付いてくる。

「なんだ? 気にしないで、TVでも見てればいい」
「でも、隊長にそんなことさせちゃ……」

 影山は落ち着かなげに視線を泳がす。

「矢車さん、ワイシャツ着たままなんですか」
「仕事から帰ってきて、料理する癖がついてるからな」

 ネクタイを外し腕まくりするのが、いつもの調理スタイルだった。

 熱湯で温めたティーポットに二人分の茶葉を入れた後、沸騰させた熱湯を入れ、よく蒸らす。
 これが、紅茶の入れ方のパーフェクトルール。

「おいしいですね、このほうじ茶!」
「紅茶だ」

 ボケまくる影山に俺は淡々と答えた。
 ひと息ついたところで、リクエストに取り掛かろうとしたところ。

「あ、待ってください! やっぱりワイシャツじゃ、汚れちゃいますよ。 味噌とかケチャップとか、シミになっちゃうし」

 と、影山がやけに絡む。
 味噌だのケチャップだの、麻婆豆腐にそんなもの使うか、と思ったものの、影山にとってのポイントは、そこではなかった。

「俺、エプロン用意してきましたんで。使ってください!」

 その一言が言いたかったらしい。しかし、なぜそんな物を持っているんだか。

「そりゃ、俺、会員番号26番ですから」

 矢車さんの生年月日はもちろん、趣味、特技、スケジュールや出演作もすべて把握してます、と誇らしげな影山。
 「出演作」というのは意味不明だが、俺のプライバシーはどこへ行ったのだろう。守秘義務――、個人情報の保護は、一体どこへ。

 影山は、なぜか期待に満ちた目を向ける。その様が、あからさまに怪しい。

「……念の為に言っておくが、裸エプロンなどやらないぞ」
「やだな。そんな事思ってないですよ」

 心外そうな影山の顔を見て、考え過ぎだったようだ、と俺は自戒した。無闇に部下を疑ってしまうとは。

「はい、これどうぞ!」

 無邪気な笑顔で、影山は自分のバックパックから取り出したものを俺に渡す。
 しかし、それは、ある意味裸エプロンと同レベルの羞恥で。せっかくの部下の厚意を無下にするのも気が引けたが、俺は自分のプライドを取ることにした。

「……影山、これはエプロンじゃない」
「え?」
「“かっぽう着” だ……」
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~ Comment ~

>磯野瞳様 

割烹着は、ウエストを締めないところがポイントですねv オプションに帽子とマスクも付けて、イメージは小学校の給食当番で(笑)。

えー、ふんどしの方が萌えますって!
露出高くて良し!

コメント、ありがとうございました~v

 

はわわわわ!!!
どうしましょう、マーリン様!

割烹着に
激しく燃えてしまいましたっっ(●д●)

割烹着の矢車さん…!割烹着の!!
ふんどしよりふりふり裸エプロンより割烹着に燃えていいのでしょうか?(コワイ…)
ものすごいツボです!!
やさぐれ前の矢車さんなら割烹着もスマートに着こなしますよ、ね…っ!

影たんグッジョブ(`・ω・´)
ほうじ茶にもめっちゃ笑いましたw
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