完全調和な不協和音

完全調和な不協和音(9)

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vol.9 ニ長調の相談


 翌日、日下部が言ったように、ザビーの事件がZECTのごく一部の者に伝えられた。
 ZECT総帥、三島さん、他の幹部たち、そして田所さんという面々。

「ゼクターのデザインもようやく決定したぞ。なんと、モリ●ナエの新作モデルだ」

 ザビーの周知が終わった後、「グッドニュースだ」と田所さんは俺に告げる。

「それは良かったですね」

 どうでもいいと思いつつ、いつも通り俺は愛想よく相槌を打った。
 万が一破損するようなことになったら、ZECTから恐ろしい金額の請求書が回って来そうな代物だが。

「じゃ、次は資格者探しですか」
「そうなんだ。矢車、お前カブトになってみないか?」

 『君、アイドルになってみない?』と、原宿辺りを歩いていると一昔前はよく声を掛けられたものだ。

「カブトは辞退しますよ。『天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ』なんて口上、俺にはできそうもありません」
「安心しろ。平成ライダーに口上はない」

 田所さんは執拗に俺に勧めるものの、何にせよカブトには違和感がある。俺には向いていない。

「なら、ドレイクはどうだ?」
「3番目のライダーでトンボでしょ。人気は出そうだけど、二番煎じじゃないですか」
「じゃ、サソードは」
「あの、ちょんまげみたいなのが嫌です」
「そう言われてもな」

 断わり続ける俺に、田所さんは考える素振りで顎に手をやる。
 あえてザビーの名前を出さないのは、田所さんの思いやりだろう。

 そんな話をしながら、俺たちの足は自然と人気のない方へ向かっていく。別に、変な下心など微塵もないし、そもそもあり得ないので、誤解しないで欲しい。

 ZECTの建物内でも、あまり人が立ち入らないエリアがある。知られたくない内々の話をするには、格好の場所だった。
 普段は電気も付けておらず、昼間でも薄暗い。

「これも田所さんが書いたんですか?」

 壁に貼られた『経費節減』の張り紙を俺は指差した。

「いや、それは別の者だ。俺は廊下担当になってる」

 つまり、まともな張り紙に関しては “田所さん作” ではないらしい。

「や、やめてくださいよっ!」

 ふいに聞き覚えのある声が、暗い廊下の突き当たりから聞こえた。

「影山……?」

 期待を裏切ることなく、数人のゼクトルーパーに取り囲まれている部下の姿を見て、俺は思わずげんなりする。

 ヘルメットをかぶっているため連中の顔は分からないという念の入れようで。不良たちに絡まれるなんて、学園ものにパーフェクトにありがちなシチュエーションだ。

 「カッコよく助けてやれ」と俺にひそひそ囁く田所さん。
 影山が困っていることは状況から見て取れたが、あまりにもバカバカしい。

 それでも、上司として助けるべきなんだろうと思うと、情けなさの余り頭を抱えたくなった。
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