地獄兄弟は今日も平和

□ 楽園依存症候群 □

楽園依存症候群(17)

 たとえ、永遠でなくても
 たとえ、明日にはすべてが終わってしまうとしても
 今、この瞬間が、楽園ならば





「あー、やっぱり影山さん、ここでしたか!」

 白い建物の持つ独特の静寂を破り、勢いよく病室のドアが開かれた。
 外からの爽やかな風とともに、姿を見せた加賀美の後ろには、天道の姿もある。

「ほへひ、はんはほうは?」

 加賀美陸から見舞いで差し入れられた高級和菓子をほおばりながら、影山はもごもごと口を動かす。
 一足先に病院を出された影山は、頻繁に矢車の病室を訪れていた。

「何か、用か」

 不明瞭なその言葉を、矢車が通訳した。

「矢車さんの怪我が治ったら、すぐ出発です。二人とも荷物をまとめておいてくださいね!」
「こいつらに、何も荷物はないんじゃないか」

 明るい笑顔で告げる加賀美に、天道が横槍を入れる。
 矢車と影山には、話の内容がさっぱり掴めない。

「順を追って話せ。何の事だ」

 矢車に不機嫌そうな顔を向けられても、加賀美はにこやかだ。

「実はですね。ノルウェーのワームの研究機関の件なんですが」
「ZECT総帥からのお達しだ。お前らに、ノルウェーへ赴いて調査して欲しいそうだ。報酬として、現地でワーム化抑制治療を受けられる」

 まどろこしいとばかりに加賀美を遮り、天道が告げた。

「これは正式な依頼だ。渡航や滞在費用はすべてZECTが持つ」
「……ノルウェー?」

 唐突な知らせに、矢車は目を見張る。
 それは、願ってもない提案だった。

「スゲー! やったじゃん、兄貴!」

 影山は手放しで喜ぶが、矢車は不審の色をありありと浮かべている。
 あの狸親父が、調査というだけでそこまで好条件を出してくるはずがない。

「で、俺たちに何をさせる気だ」
「あとは、加賀美が説明する」
「って、おい、天道!」

 さっさと部屋を出て行ってしまった天道の分も合わせ、残された加賀美に矢車の鋭い視線が突き刺さった。
 おいしい所だけを話して、込み入った部分の話は押し付けられてしまった。
 天道の奴、と加賀美は心の中でぎりぎりと歯噛みする。

(仕方ないよな)

 後ろ手に隠し持った二本のライダーベルトを握り直し、加賀美は大きく息を吐いた。
 これを見せたら、矢車は察してくれるだろうか。

 今回の派遣は、ZECTが誇るマスクド・ライダーシステムをノルウェーで誇示しようという狙いがあった。
 要は、レミングシステムの騒動のお礼参りであり、ノルウェーに対する牽制だ。
 表向きは、互いの理解と協力体制の強化を図るため、という名目になっている。

 正直なところ、おそらくノルウェーでの調査は危険を伴う。
 研究機関全体がレミングシステムの悪用に携わったとは思えないが、幼い子供を捨て駒にした誰かが、そこにいるのは間違いない。
 高い技術力を持つ敵と戦闘になった時、果たしてライダーシステムが勝利できるかどうか。

「早く話せって、加賀美!」
「浮かれ過ぎだ」

 急かす影山の表情は、ひどく嬉しそうで。ベッドに入ったまま、矢車はたしなめるように影山の額を小突く。
 何にせよ、この二人なら大丈夫だろう。そう確信し、加賀美の表情に晴れやかさが戻った。

「じゃあ、説明しますから。よく聞いてくださいね」





 いつでも、どんな場所でも、大切な誰かが傍にいれば。
 きっと、そこは、楽園。



 END



※長らくのお付き合い、ありがとうございました。
えー・・・この後二人はノルウェーに旅立ちます。某所で、フィンランドに行った二人の素敵小説を拝見したので、こちらはノルウェーにしました(^^;
次回シリアス、『フレイアは笑わない』へ続きます。
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Information

Date:2007/09/08
Trackback:0
Comment:2
Thema:二次創作
Janre:小説・文学

Comment

* >春巻様

永遠と刹那・・・私も、春巻さんと同じように思います。思ってはいても、なかなかうまくはいかないんですが。
生きていれば辛いことも多いけど、生きててよかった、って思える「瞬間」も必ずあるんですよね。
だから兄弟には、何があっても生きててほしいです。

頂いた感想に、私もまた色んなこと考えました。ありがとうございますm(__)m
2007/09/09 【マーリン】 URL #- 

* 兄貴のかっこよさに眼が眩んで

兄弟の関係性にばかり関心が向いていたので、エピローグにて提示された「永遠と刹那」について考えてみました。
「不確実性の時代」との指摘を待つまでもなく、未来のことなんて誰にもわからないし、どのような誓いも来たるべき未来の保険にはなりえない。
それでも私は、今この刹那の幸せが永遠に続くようにと祈る。この願いを実現させるには、刹那を積み重ねて繋げてゆく、気の遠くなるような作業を続けてゆくしかないという思いに至る。
昨年急死した実母の一周忌を控えた今、改めて思うのは、限りある命の時間に無駄な一瞬は存在せず、一生を輝いたものにするもしないも自分次第だということ。
すんません感動で昂ってまとまらないんですが、つまりは二人とも生きててよかった、これから一緒の時間を重ねてゆける、と喜んでいるんです。続編、楽しみにしています。
2007/09/08 【春巻】 URL #- 

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