完全調和な不協和音

完全調和な不協和音(10)

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vol.10 変ロ短調の試練


 いくら馬鹿馬鹿しいとは思っても、集団リンチはいただけない。しかもZECT内で起こった不祥事となれば、責任は管理者に降りかかってくる。
 おまけに、最近は世評やPTAがうるさい。

 俺は仕方なく、ずいと連中の前に出て行った。

「がんばれよ、矢車!」

 背後から、ありがたくもない田所さんの声援を受けながら。

「その辺で止めておけ。上に報告は、しないでおいてやるから」

 いきなり現れた俺に、トルーパーたちが一斉に振り向いた。

「矢車さん!」

 影山はうるうるした目で俺を見ている。

「どこの隊の者だ? ヘルメットを取って顔を見せろ」

 俺が睨みつけると、トルーパーたちは定番中の定番の反応を返した。
 「相手はひとりだ、やっちまえ」だの、「いいカッコすると痛い目見るぞ」だの。

 一体何の青春学園ものだ、これは。今度の月9ドラマか。
 俺はアルマーニのスーツの上着を脱いで、バサッと田所さんに放った。

「持っててください」

 上まで締めたラルフローレンのネクタイも、指でくいと緩めて。

「OK。いつでもどうぞ」

 その言葉を挑発と受け取ったのか、トルーパーたちが俺に襲いかかってきた。
 戦闘スーツを身に着けてはいたが、ボディアーマーもなく、丸腰で武装はしていない。頭数は5人。
 俺はボクシングスタイルのアウトボクスで、打って出た。





「……やり過ぎじゃないのか?」
「正当防衛です。致し方ありません」

 人を焚き付けておきながらそんな事を言う田所さんに、俺は冷静に返す。
 死なない程度に、手加減はしておいた。

 へたばっている連中の一人に近づき、俺はメットに手をかける。所属する隊の隊長に管理責任を問わなければならない。そう考えていたのだが。

「こいつ……」

 顔を確認するや、俺は反射的にすぐまたヘルメットをかぶせ直した。そして、影山に向き直る。

「影山、こいつらは……」
「会員番号1~5番の先輩ですよ。事実上、ファンクラブの実権は彼らが握ってたんです。俺がこの前矢車さんと出掛けたのを知って、抜け駆けだ、って怒って……」

 影山は倒れたトルーパーたちに哀れみの目を向けた。
 しかし、俺が問題にしているのはそこでなく。この連中は、俺の隊の隊員だということだ。

「……矢車、これは覚悟しておいた方がいいな」

 大元の元凶である田所さんが、眉を寄せながら俺の肩をぽんと叩く。
 “覚悟” とは、何らかのZECTの処分ということだろうか。

 そもそも、こうなったのは、ロクでもないファンクラブをこの人が発足したせいであり、今回の事にしてもそうだ。
 だが、喉まで出掛かったその言葉を、俺はぐっと飲み込む。他人のせいにしても、始まらない。

「分かってます。どんな処分も、謹んで受けます」

 笑顔を作る俺に、田所さんは「じゃあな」とそそくさとどこかへ行ってしまった。
 影山は影山で、訳が分からないという風に、きょとんと俺を見る。

 何だって、こんな事になったのか。
 良き上司と良き部下に恵まれなかった我が身の不運に、俺は深い溜息をついた。
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