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フレイアは笑わない

フレイアは笑わない(6)

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 ラボでの電話会議はインターネットを使って行われ、出席者はインカムで話す。
 ZECTのライダーシステムとラボのレミングシステムの情報交換という主旨のため、不本意ながらも矢車はZECT代表として参加した。

 インカムを通して聞こえてくる発言内容はどれも当たり障りなく、表層でしかない。
 矢車は欠伸をかみ殺しつつ、医療チームの主任と共にパソコンの前に座っていた。
 形だけの会議の最後は、両者の対ワームシステムについての質疑応答で締めくくられる。その時が矢車の狙いだった。

『レミングシステムは、ワームを意識操作するとのことですが。人間に対して影響はあるのですか?』

 まるで爆弾を投下するように、矢車は一気に核心に触れた。
 会議室に戸惑うような空気が流れるも、すぐに想定内の答えが返される。

『人間に影響はありません。あくまで、ワームのみです』
『ですが、オスロでも市民のワーム化が深刻だったのでしょう。ワーム化治療中の人間に、何らかの影響を与えた可能性もあるのでは?』

 あり得ない、という反論が飛び交う中、怯むことなく続ける。

『オスロで発生した例の事件は、自我が未発達の幼い子供が影響を受けた結果じゃないのか。世間で騒がれたのを、知らないわけじゃないだろう』

 矢車は敬語すら面倒になり、普段の口調で言い放った。どんな言葉を使おうと、自動翻訳の変換はそれ程変わりあるまい。
 子供らによる親殺しの事件との関連を、ラボ側はどう捉えているのか。重苦しい雰囲気がインカム越しに伝わってくる。

『人間に影響は及ぼしません。その点については、ボーヒネン博士が検証を終えています』

 少しの沈黙の後、研究チームの一人が設立者の名前を出し弁明した。と同時に、会議はお開きとなる。
 ラルス・ボーヒネンの名のもとであれば、疑いを差し挟む余地はない。そんなラボの妄信的な不文律に、矢車は眉を顰めた。

(お墨付きってわけだ)

 会議終了と同時に、インカムを外し長い息を吐き出す。
 すると隣に座っていた主任が、気遣わしげに矢車に声を掛けてきた。

「あんた、余計な事をほじくり返さない方がいい。ここに居づらくなるぞ」
「どうして?」

 40がらみの主任は、人の良さそうな男だった。
 矢車はラボを探っていることなどおくびにも出さず、何も知らないといった顔で聞き返す。

「レミングシステムは、ラボの黒歴史なんだよ。あんたが言ったような悪い風評もあるしな。今のラボは、ワーム化抑制治療に力を入れてる」
「罪滅ぼしに、ですか」
「手厳しいな、あんた」

 遠慮なく物を言う態度が気に入ったとばかりに、主任は豪快に笑った。
 その顔にZECTにいる誰かの姿が重なり、矢車は一瞬嫌そうな表情を浮かべた。

「それより、シェランさんの落とし物を預かっているんです。渡したいので、どの部署か教えてもらえませんか」

 拾ったIDカードをポケットから取り出して見せ、白々しく嘘を並べ立てる。上司なら、コンラード・シェランのことを知っているだろう。

「いや、彼はひと月前、事故で……」
「ワームに、殺された?」
「まさか! とんでもない」

 言い淀む主任は、その点だけははっきり「違う」と断言した。
 矢車が追及すると、言葉を詰まらせながらも、コンラードはラボの屋上から自ら身を投げたのだと話す。

「自殺に偽装された殺人では」
「それはない。彼が飛び降りるのを大勢が目にしている」

 自分も居合わせた、と主任は付け加え目頭を押さえた。

(変だ。IDカードなしで、どうやってラボに入った)

 提示された矛盾に矢車は思考を巡らす。
 スタッフが外部でカードを落とした場合、必ず記録が残る。IDカードの再発行記録を調べたが、半年以内に発行履歴はなかった。

(記録が、もみ消されたのか……?)

 セキュリティの厳しいラボで、監査をすり抜けられるとは思えない。
 考えれば考える程、ますます謎が深まっていく。





 夜になり、部屋でメールチェックをしていた矢車の横から、影山がコーヒーを差し出した。

「あんまり根詰めない方がいいよ、兄貴」

 自分用にはミルクと砂糖たっぷりのコーヒーを手に持ち、ベッド脇に腰掛ける。
 矢車はパソコンのモニターを消し、眉間をほぐすように指を押し当てた。

「……治療、どうだった?」
「うん。今日はMRIとCTで検査した。あとは、フレイアさんのヒーリング」
「ヒーリング?」

 問い返す矢車に、影山はカップの中身をコクンと飲みながら答えた。

「ハンドパワーみたいな感じかな。体の上に手をかざして、治療するんだって」
「怪しすぎだろ」

 どこが最先端の治療なのか、と呆れるものの、相棒は体調がいいらしく上機嫌だ。

「今日は、早く寝なよね」
「そうだな」
「ここで寝てもいいよ。俺、運んであげるから」
「そりゃ、ありがたい」

 おかしそうに矢車は口元を緩めた。影山では、矢車を担ぐことも、背負って歩くことさえ無理だろうに。
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