ハロウィン・カーニバル

ハロウィン・カーニバル(4)

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 ハアハアと肩で息をしながら、影山は数歩後ずさる。
 洋包丁が刺さったままの矢車の体から、血は流れていない。砂と化し、崩れていく矢車のさまを、影山は呆然と見守った。
 重力に従って、刃物がストンと音もなく落ちる。

「兄、貴……」

 震える手をごしごしとコートにこすり付け、影山はいなくなった存在に向かい、ただ呼び続けた。
 魔物の瞳のように、細く赤い月が笑っている。

 殺した、殺した、兄貴は死んだ。お前が、その手で、殺した。
 ケタケタという哄笑とともに、そんな囁きが聞こえてくる。

「死んでないっ、あいつは兄貴じゃなかった!」

 姿の見えない相手に向かって、影山は叫ぶ。が、止まない笑い声にたまらなくなり、耳を塞いでうずくまる。

「……本当にバカだな。だから言ったのに」
「兄貴!?」

 聞き慣れた声に、跳ねるように顔を上げて見れば、そこにいたのは確かに矢車で。
 腕組みをして影山を見下ろす様子は、いつもと何も変わらなかった。魔物でもない、普段通りの姿。

「よかった。俺、てっきり・・・」

 ほっとして、影山は矢車に駆け寄った。その安堵の笑顔が、途中で凍りつく。

「兄貴……体、透けてる」

 矢車の半透明な体の背後には、依然として、かがり火が火の粉を散らして燃えているのが見える。

「仕方ない。さっき、俺はお前に殺されたんだ」
「さっき……って」
「お前が刺したろ? 俺を、そいつで」

 矢車は、地に落ちたままの洋包丁を指差した。

「今夜はハロウィンだ。本当の俺が自由になれる日だったのに、お前のせいでパアになっちまった」
「本当の……兄貴……」
「そう。今まで一緒にいて、分からなかったのか?」

 自らの犬歯を見せ付けるように、矢車はニッと笑う。

「俺の言うことを聞いていれば、ずっと一緒にいられたのに」
「え」

 矢車の体がどんどん薄くなっていくことに気づいて、影山はギクリとした。
 兄貴は魔物だった? 今まで騙されていた? 受け入れがたい言葉が次々と影山を襲う。

 何より衝撃を受けたのは――。

「どういうことさ。もう、一緒にはいられない、ってこと?」
「そりゃ、そうだろ。俺はもう、死んでしまったんだから」

 かすれた声をなんとか絞り出す影山に、矢車は妙に優しげに微笑んだ。
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