ハロウィン・カーニバル

ハロウィン・カーニバル(6)

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 かがり火の真上に手をかざした影山は、思った通りだ、と確信する。熱さを感じない。

「俺はまだ、お前たちの仲間にはなりたくない」

 くるりと振り返って悪霊たちを見据えると、影山は燃え盛る炎の中に腕を突き入れた。

(兄貴が、俺を、呼んでくれるから……)





 パチパチと炎がはぜる音が、すぐ近くで聞こえる。

 かがり火の側で横たわっているらしい自分と、その隣に座る矢車の姿があった。
 家々の明かりと、ススキを揺らす少し冷たい風。

「……兄貴」

 うまく体を動かせず、顔だけ矢車の方に向けて、影山は掠れた声を出した。喉がカラカラに渇き、手足の先はしびれたように痙攣している。

「水だ。飲めるか?」
「うん……」

 背中を支えてもらいながら、矢車が差し出すペットボトルを、影山はゆっくり口元に運ぶ。

「俺、どのくらい寝てたの」
「6時間程度か。まだ31日だ」

 かがり火は、いまだ小さな火の粉を上げながら、得体の知れない異臭を周囲に漂わせていた。

「ひどい匂いだね」

 影山が鼻をつまんで言うと、矢車は苦笑した。

「だが、役に立っただろ」
「……うん」

 平常と変わらない、静かな夜。空の星たちが、ここが先ほどの暗闇ではないことを教えてくれている。

「俺、何かに取りつかれてた、のかな」
「かもな」

 互いに曖昧な言い方をする。

 昨日、ふらふらとした足取りで戻ってきた影山の様子が尋常でないことは、明らかだった。
 影山を一瞥して、「悪霊に憑かれている」と告げたのは、骨董品を扱う露天の老婆だ。
 「かわいそうに。明晩に魂を取られちまうよ」と、付け加えて。

 ハロウィンの品々を買わせるための口上だろうとは思ったが、矢車は影山の異変が妙に気に掛かっていた。
 そして、老婆に教えられた通りにかがり火を焚いた。

 かがり火が、魂をあるべき場所に呼び戻す――そう教えられたから。

 影山の身に何が起こったのか。老婆は何者なのか。これらの出来事が何だったのか。
 考えても、きっと答えは出ない。

「ハロウィンの悪夢ってことにしとけ」

 悪夢は終わり、影山は無事に元に戻った。それだけでいい、と矢車は思う。

「……あ、待って兄貴」

 火を消そうと立ち上がる矢車を、影山が押し留めた。

「かがり火、もう少し焚いてようよ」

 この明かりが、影山を現世に連れ戻してくれた。消してしまうのは、なんだかもったいない気がする。

「ひどい匂いだろうが」
「あの粉末を入れなきゃ、大丈夫だよ」
「まあ……、ハロウィンだしな」

 笑顔を見せる影山に、矢車も表情を和らげた。
 さまよう悪霊がいるのなら、かがり火で、それぞれのあるべき場所へ導いてやるのも悪くない。

 生者は生者のもとへ、死者は死者のもとへ。

 長いハロウィンの夜も、あと数時間で終わろうとしていた。


 END



※初めに考えていたものと違う方向に行ってしまいました(--;
矢車さんの吸血鬼コスプレが書きたかっただけだったり(笑)。
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~ Comment ~

コメントありがとうございました 

>磯野瞳様

ハッピーエンドに持って行くつもりではあったんですが、途中兄貴が変な方向に行ってしまい、どうオチをつけるか悩みました(^^;
やっぱり兄貴は吸血鬼のコスプレをv 黒いタイにスーツで・・・あれ、あんまり隊長の頃と変わらないかも(笑)。
ハロウィン祭り、おそまつさまでした~m(__)m

>えんが様

二人とも死んでた・・・ってオチも、実は考えなかったわけじゃないんですが、なんとかほのぼのハッピーにしたかったので、こうなりました。
怖かった、と思っていただければ、しめたものです(笑)。

>春巻様

奥深い考察、ありがとうございます。
あやかしのモノって、概して美しいんですよね。矢車さんにそんな雰囲気を持たせたかったので、その片鱗を感じていただけたら幸いです(^^)
影山に「兄貴が怖い」って意識させちゃっていいものか、書いてて迷いました。二人の絆を壊してしまう気がして・・・。
でも、そうですね。これを乗り越えて強くなってくれ、影山(笑)!

深淵を覗き込むものは・・・ 

吸血兄貴、スケスケ兄貴、どれもコワイよ今度はお茶が怖い、という感じです。特に私がコワかったのは、砂になって崩れ落ちる兄貴!影山が見せられた様々なヴィジョンは、実は彼が意識下に封じている恐怖が形を成したものだったのではないかと思いました。古来より魔物は、人間の暗部に付け入って支配する、そのため美しい外見と甘言をもって近づき、恐怖で束縛するといわれています。影山は、矢車の容貌と優しい言動にひかれつつも、心の底では恐怖を感じていて、このエピソードでそうしたこわばりが解けて兄弟の絆がより強くなるといいなあ、なんて思いました。

 

やっぱり怖かったですが、バットENDにならず安心です・・・。
考え落ちとかで、二人とも霊とかだったら本当に怖いですもん(笑)

 

あーん!ハッピーエンドで良かったです(´Д⊂グスン
兄貴が怖すぎてどーなる事かとw
相棒の世話を焼く兄貴で良かった!二人でかぼちゃあんぱん食べて下さい!

兄貴に血ぃ吸われた…い(*^ω^*)
ハロウィン祭りごちそうさまでした!!
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