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フレイアは笑わない

フレイアは笑わない(8)

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 コンラード・シェランは、正義感の強い男で、融通の利かない堅物だった。
 彼は、上層部がうやむやにするレミングシステムの真相を暴こうと、たびたびフログネル公園の隕石跡地を訪れていたらしい。
 結果、跡地でワームに襲われた。

 ラボに戻ったシェランは、翌日自ら命を絶った。それはシェランではなく、擬態したワームだろう。
 突然の自殺も、レミングシステムによるものだとすれば、説明が付く。

(問題は、IDカードなしでどうやってラボで丸1日過ごせたか、だ)

 医療棟で影山を待ちながら、矢車は壁に背を預け、腕を組んで考えにふけっていた。

 スタッフの外出記録とカードの使用履歴を調べたが、隕石跡地から戻って以降、シェランのカードは使われていない。
 おそらく擬態がラボ内にいられるよう、取り計らった人物がいる。 

「今日も難しい顔してるな、あんた。寝不足か」
「それも、あります」

 気さくに声を掛けてくる主任に、矢車は心の中で溜息をついた。電話会議以来、この男は何かと世話を焼いてくる。

「来週、ボーヒネン博士がラボに来るからな。くれぐれも博士には噛みつくなよ」
「隠居した身で、来訪が多すぎませんか」
「まあ、そう言うな」

 あえて棘のある言い方をしても、主任はおおらかに笑う。
 博士の崇拝者ではなく、純粋に矢車の立場を案じての忠告だ。

 トロムソの邸宅に住まうボーヒネン博士は、ひと月に一度ラボへ視察に訪れる。滞在は、来週の週明けから三日間と伝えられていた。
 矢車はふと胸に浮かんだ疑惑を尋ねた。

「先月博士が来たのは、いつですか」
「確か、13日から17日だな」

 シェランが死んだのは、先月の15日。ボーヒネン博士の滞在中に起きたことになる。

「前に、シェランさんが飛び降りた瞬間を『大勢の人が見た』って言ってましたね。博士も、見てたんですか」
「ああ。ちょうど定例の報告会の最中で」

 悲運な部下の話になると、またも主任は涙声になり鼻をすすった。

(ラボも、こんな奴ばかりならいいんだが)

 面倒ではあるものの善人だ、と矢車は複雑な思いで涙もろい男を眺めた。

 



 ボーヒネン博士の来訪で、ラボの雰囲気は一気に張り詰めた。
 スタッフの表情から読み取れる感情は、設立者への敬意というより、怯えや恐れに近い。

 博士が頻繁にラボを訪れるのは、娘のフレイアの様子見などという和やかな目的ではなかった。
 己の娘も他人同然なのか、ラボにいる間、博士はフレイアと取り立てて接触を持たない。

『父は、私を道具としてしか見ていないの』

 そう言って、哀し気に笑ったフレイアの顔が影山の脳裏をよぎる。

 医療棟の最上階にある賓客用の宿泊施設が、滞在時の博士の部屋となっていた。
 スタッフ用のドミトリーも小綺麗ながら、最上階の部屋の豪華さはさらに上を行く。

「初めまして。ラルス・ボーヒネン博士」

 革張りのソファーでくつろぐ小柄な老人に、矢車は冷やかな視線を向け、形式的な挨拶をした。
 ボーヒネン博士は長く白い口髭をたくわえ、落ちくぼんだ眼窩の下の眼差しは鋭い光を放っている。

 面会のため矢車と影山は部屋に呼ばれたが、もとより愛想よく歓談するつもりはない。
 隣で聞いている影山が固唾を飲むほどに、矢車は端的だった。

「あんたが、日本でレミングを発症させた理由を聞かせろ。なぜ、ノルウェーの子供たちを利用した」
「何の話をしているのかね」

 矢車の言葉に眉ひとつ動かさず、博士は淡々と返す。
 狼狽する様子はなく、怒るわけでもない。品定めするかのごとく、目の前の日本人が次に何を言うか待っている。

「コンラード・シェランを覚えてるだろう。シェランが身を投げた前日、あんたはワームだと知りながらラボに招き入れた。許可証まで与えてな」

 断罪するような厳しい口調にも、博士の表情は変わらなかった。
 反応を示さない相手に、次第に矢車は苛立ちを募らせる。

「シェランはレミングシステムに疑念を抱いてた。大勢の目の前でシェランを殺したのは、見せしめのためか!」
「きみは、少々情緒不安定だな。不眠症を患っているのか」

 博士は、思い込みの戯言だと言いたげな目つきで、 “患者” を見据えた。
 その表情は冷たく、空恐ろしささえ感じる。我知らず威圧された矢車の掌に汗が滲んだ。

「兄貴……」
「チッ!」

 影山にコートの袖を引かれ、老人から視線を逸らして舌打ちする。
 矢車の言及は憶測にすぎず、ボーヒネン博士が黒幕だという証拠を提示できない。カマをかけても動じない以上、問いただすのは無駄だ。

 悔し気に唇を噛み、矢車は大股で部屋を出て行った。
 ただ状況を見守っていた影山も、矢車の後を追うしかない。

「面白い人間だ」

 二人が去った後、閉まったドアに目をやり、ボーヒネン博士は薄く笑った。
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