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フレイアは笑わない

フレイアは笑わない(9)

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(手詰まりだ……)

 資料室に陣取り、矢車は虚ろな瞳で本をめくっていた。
 ボーヒネン博士の滞在は明日まで。博士がラボを去れば、真相を逃してしまう。

 加賀美からメールで送られたアレシボ・メッセージに手掛かりを求め、北欧神話を紐解くことにしたものの、じっとしているとどうしても眠気に襲われる。
 不眠を引きずる矢車は、だるい体を奮い立たせ、本に意識を集中させた。

「北欧神話? こんなのに興味あるの、兄貴」

 机の上に置かれた一冊を、影山が横からひょいと取り上げた。
 アルファベットで埋め尽くされた分厚い本は、影山にはとても読む気になれない。

「オーディンのことが気になってな」
「『ラグナロクはオーディンが導く』ってやつ?」

 影山はメールにあった解読の文言を思い返す。

「もしかして、兄貴は――」

 ボーヒネン博士をオーディンだと考えているのか。
 そう尋ねようとしたけれど、肘掛けに寄り掛かった矢車が微睡んでいるのを見て、口をつぐんだ。
 眠れない日が何日も続けば、さすがに限界だろう。

「俺、治療に行って来るから。兄貴はゆっくりしててよ」
「ん……」

 矢車は目を閉じたまま、影山の声が聞こえているのか定かではなかった。





 通い慣れた医療棟の待合室には、いつもより多くの人の姿があった。
 何度か顔を合わせた患者の他、初めて見る男女が五、六人。ソファに座ることもなく、落ち着かなげに視線を彷徨わせている。
 どこかピリピリとした雰囲気を漂わせる彼らに、影山は違和感を覚えた。

 その中の一人が診察室に入った直後、異変が起こった。

「皆さん、逃げて! 逃げてください!」

 悲鳴と共に、必死の形相で診察室から出てきたフレイアに、待合室は騒然とした。
 彼女を追って、緑色のワームが待合室のソファやテーブルを薙ぎ倒し向かって来る。同時に、別の場所でも叫びが次々上がった。ワームは一体ではない。

 恐怖に青ざめた患者やスタッフが、我先にと建物の外へ逃げ出す中で、影山とフレイアは残っている人々に避難を呼びかけて回った。

「フレイアさんも、早く逃げて!」
「でも、まだ他の人が」

 フレイアは足を挫いた女の子の側にしゃがみ込み、腫れた患部に手を当てている。

「さ、外へ出るのよ」

 優しく背を押され、少女は痛みを忘れたように駆け出した。
 しかし一瞬遅れて立ち上がったフレイアに、ワームが襲い掛かる。

「このっ!」

 影山は手近にあったパイプ椅子を咄嗟にワーム目掛けて投げつけた。
 腕の一振りでばらばらに壊れた残骸を目の端に映しながら、フレイアの腕を引き、駆け出す。

「あいつら、なんとか人間に戻せない?」
「無理だわ。もともと人間じゃないもの」

(オリジナルワームか)

 人間が変貌した姿ではない。そのことにほっとしつつ、影山は背後に迫るワームを顧みた。
 ワーム化治療の外来患者を装って紛れ込んだにしても、敵の本拠にのこのこ現れるとは無謀すぎる。倒されに来たようなものだ。

(まさか……ね)

 レミングシステムではないかという疑惑が、不意に影山の頭に浮かんだ。
 

 

 窓から吹き込む風が、パラパラと本のページをめくる。
 それにも気づかず、矢車は椅子に腰かけた状態でうとうと眠りかけていた。時折目を開けても、すぐまた瞼が重くなり、意識は深みに落ちていく。

 浅い眠りは、北欧神話の夢となって現れた。

 美しい女神フレイアが、哀しみに沈んで、戦死者を迎え入れる。その横にいるのは、白髭を長く伸ばした老人。
 老人は、死者たちの半分を女神と分け合っている。

(オーディン……)

 ふと目を開けた矢車の前に、いつの間にかボーヒネン博士が立っていた。
 博士の右手には、薄い赤色の液体の入った注射器が握られている。

 動こうとしても、矢車の体は鉛のように重く、自由にならない。自分のむき出しの右腕に注射針が当てられるのを、ただ呆然と眺めることしかできなかった。

(もし、博士がオーディンなら)

 ちくりとした痛みを伴い、上腕に液体が流し込まれる。
 今度は永遠の眠りに落ちるのだろうと、諦めの気持ちで再び目を閉じたのだが。
 予想に反し、朦朧とした矢車の意識は徐々に冴えてきた。だるく重かった身体も、今は不思議と軽い。

「心配いらん。ただの気付け薬だ」
「どう、して……」

 掠れた声で問う矢車に、博士は事務的に告げた。

「ZECTのライダーシステムとやらの性能を見たいのだよ。きみらの手に余るようであれば、これまで通りレミングで対処する」
「……あんたにとっては、すべてただの実験、か」

(イカれてやがる)

 矢車は博士の本質を理解した。
 この老人は善意で矢車を正気づけたわけではない。ライダーシステムを実地で見極めたいという欲求にかられているだけだ。

「オリジナルワームが医療棟で暴れている。きみの友人もいるのだろう。行かなくていいのかね」
「あんたは……!」

 博士を掴み上げそうになる自らの手をなんとか押しとどめる。問い詰めるのは後でいい。

「終わったら、きっちり説明してもらう」

 怒りを耐えながら博士を鋭く睨みつけ、矢車は資料室を飛び出した。
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