想が瞬を駆け抜けて

想が瞬を駆け抜けて(2)

 ←デ・ジャ・ブ →おにはそと
3.任命

 ザビーの資格者で破滅の道をたどらなかった者は、俺が知る限り、たったひとりしかいない
 ザビーを自ら捨てたあいつの選択は、正しかった、と今思う





 昨日未明、日下部がワームに襲われて殉職した。

 その知らせは、シャドウ内部に電光のような衝撃を与えた。
 特に影山にとっては、ついこの間矢車と日下部の話をしていたばかりなため、ショックもひとしおだった。

 矢車はその訃報を隊員たちに告げると、沈痛な面持ちで部屋を出て行った。
 これから、三島のところに行かねばならない。

 自分が呼ばれる理由は分かっていた。
 ザビーの資格者である日下部がいなくなった以上、次の資格者を決めるために動く。感傷にひたる余地もない。それが、ZECTという組織だ。

『矢車。もし俺に何かあったとしても、ザビーにだけはなるな。……あれは魔物だ』

 ザビーに選ばれた直後、日下部はそんなことを矢車に言った。
 祝いの言葉をかけようとしていた矢車は、その言葉の意味が分からずただ驚いた。

 日下部がZECT上層部にキナくさいものを感じて探りを入れていることは、矢車も知っていた。
 ZECTには何か秘密があると薄々気付いてはいる。
 しかし日下部と違い、矢車はあえてZECTを探るつもりはなかった。

(とりあえずワームを倒すという目的には、かなっている)

 だが日下部の死と、彼が残した忠告が、頭の中で警鐘を鳴らす。

(あいつは自分の身が危険なことを予感していたのか。まさか、ZECTが関わっている?)

 意識的に避けていた推測が、追い払っても心の中にしこりを残す。
 止まりそうになる足を、矢車は奮い立たせた。

 軽くノックをし、矢車は三島のオフィスのドアを開けた。
 部屋の中には、三島の他にもうひとつ人影があった。ZECTのトップでもある警視総監の加賀美陸、だ。
 意外な人物の姿に、矢車は動揺を隠せない。

(なぜ、トップがじきじきに……)

「矢車くん、だったね」

 三島ではなく、陸が声をかける。

「日下部くんが、あんなことになってしまったのでね。ザビーの件だが、君に頼めないだろうか」

 口調は柔らかいが、断ることなど許されない。
 陸の後ろに立つ三島が、ザビーブレスの入ったケースを見せた。

「蜂は刺すもの。そう、君にならできるだろう?」

 くっと陸が喉の奥で笑った。

『ザビーは魔物だ』

 日下部の警告が思い出される。
 意思とは無関係に、矢車は差し出されたザビーブレスに手を伸ばしていた。
 まるで、圧倒的な力にひきつけられるかのように。



4.任命

 日下部の死によって、大方の予想通り矢車がザビーの資格者となり、シャドウの本隊長に昇格した。

 ザビーブレスを手にした時から、矢車の体は不調を訴えていた。
 胸の辺りがムカムカしたり、妙に気持ちが落ち着かなかったり。

 やがて、それは自分の胸に浮き出たザビーの紋章のせいだと気が付いた。
 蜂の形を模したその紋は、まるで焼印を押されたように肌に張り付いている。

 ザビーの紋章は、ZECTの傀儡である証だった。
 ZECTへの疑惑や反感を抱くと、紋章はズキズキと痛み、そんな事を考えるな、と脳に指令を送るのだ。

(ていのいい操り人形だ)

 矢車は自嘲した。

 せっかくの昇進だというのに元気のない矢車を影山は不思議に思っていた。
 日下部の件からずっと、この上司は沈んだ顔をしている。

「矢車さん、カブトのこと聞きました?」

 ことさら明るい声で影山は切り出す。

「カブトに変身した奴って、ZECTの人間じゃないんですよね。ビックリですよ! どうして、ベルト持ってたんでしょうね」
「……さぁな」

 影山の話にも、矢車は心ここにあらずという感じだ。
 いつものように穏やかな優しい笑みを見せてはくれない。

(どうしたのかな、矢車さん)

 表情から何かを感じ取れないかと、影山は矢車の顔をじっと見つめる。
 その視線に気付いたのか、矢車がひょいと顔をあげた。

「影山、お前はZECTをどう思ってる?」
「は、え!?」

 いきなり問われて、影山はドギマギとした。

「ぜ、ZECTは人類をワームから救うためになくてはならない存在です。俺はその一員になれたこと、誇りに思ってます!」

 いささか気合が入りすぎのような気もしたが、上司に返すには妥当な返答だろう。
 矢車の意図が分からない影山は、そう自分を納得させた。

 ZECTに入る者は誰もが、影山と同じような志を持って入隊する。
 だがZECT内部に長くいると、組織の負の部分も見えてくる。

 影山はまだ、その負の部分に気付いていない。
 そんな初々しさが今の矢車にはうらやましく感じられた。

「カブトがZECTに入らないのなら抹殺するようにと、ZECTは『ザビー』に命じた」

 矢車は淡々と言葉を続ける。そこに感情は込められていない。

「お前がザビーなら、どうする?」
「ZECTの指令に従います」

 迷うことなく影山は答えた。
 疑いを持たない、ZECTへのまっすぐな忠誠心。ザビーの資格者に求められる最大の条件が、それだ。

 ザビーを拒絶することができないなら、受け入れるしかない。
 ザビーに自分をゆだねてしまえば、苦しむ必要はなくなる。

 真実は未だ分からないが、恐らく日下部もこんな葛藤と戦ったのだろうと容易に想像できる。

(日下部と同じ道を辿るのか)

 矢車は首を横に振った。

(いや、俺は……)

「影山、シャドウ出動だ。用意しろ!」
「はい! 矢車隊長!」

 何かを振りきったような矢車の笑みに、影山も満面の笑顔で答えた。
関連記事



【デ・ジャ・ブ】へ  【おにはそと】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【デ・ジャ・ブ】へ
  • 【おにはそと】へ