スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←「009-1」 →フレイアは笑わない(11)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



【「009-1」】へ  【フレイアは笑わない(11)】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

フレイアは笑わない

フレイアは笑わない(10)

 ←「009-1」 →フレイアは笑わない(11)
 フレイアを先に逃がすため、影山はワームを引き付けて診察室に駆け込んだ。
 棍棒のような重い一撃をぎりぎりでかわし、デスクの上にあった大きめのハサミを手に取る。

「くらえ!」

 床で体を反転させ、ドア近くにいるワームの足にハサミを突き立て、外へ滑り出た。
 しかし、固い殻に覆われた体にはさほど効き目がない。

(くそ、変身できれば……)

 ライダーベルトを部屋に置いてきてしまったことが悔やまれた。
 ワームは五体。待合室に他の人間の姿はなく、必然的に影山がターゲットになる。

(なんとか、兄貴に知らせなきゃ)

 じりじりと後退し、数メートル先の自動ドアに目をやる。一か八かでワームの横をすり抜けた先には、運悪くシーツを乗せたワゴンが放置されていた。

「ってー!」

 派手にワゴンとぶつかり転倒した影山の真横に、避けようもない間合いでワームの太い腕が迫っていた。

(ダメだ……!)

 反射的に固く瞼を閉じた時、聞き慣れた声が耳に届いた。

「目を閉じるな、相棒」

 次いで何かが壁に激突する音が続き、声の主にぐいと腕を引き上げられる。
 影山を立たせたのは、いつも必ず助けてくれる、力強い手だ。

「怪我はないか」
「平気だよ。ちょっと擦りむいただけ」

 打ちつけた腕をさすりながら、影山は照れくさそうに笑った。その背を軽く叩き、矢車も安堵の笑みを浮かべる。

「オリジナルワームだな」
「うん。遠慮はいらないよ」

 矢車と影山は背中合わせになり、取り囲むワームを見据えた。押し付けるように渡されたライダーベルトを、影山は素早く腰に付ける。
 互いに振り向き、顔を見合せると、二人それぞれがホッパーゼクターを掴んだ。

「変身――」

 ホッパーの装甲に体が覆われ、気持ちが高揚していく。
 ライダーベルトを加賀美陸に突き返して以来、久しぶりの感覚に矢車は目を細めた。

 ラボに配備された監視カメラが、ホッパーの戦闘の様子をボーヒネン博士に伝えているのだろう。
 ワームも矢車たちも、博士にすれば実験サンプルの一つでしかない。

 カメラ越しに注がれているに違いない、好奇と狂気の視線。
 けれどそれさえどうでもいい程に、矢車の全身を言い知れぬ充足感が満たしていた。

「面倒だ。一気に片を付けるぞ」

 矢車の言葉に、パンチホッパーに変わった影山が頷く。
 二人は同時にアンカージャッキを入れた。矢車は左足に、影山は右腕に。

(俺の相棒は、やっぱりお前だけだ)

 長らく忘れていた、ホッパーとしての影山との共闘。
 ワームを葬り、ようやく取り戻したものに矢車は思いを馳せた。





 おざなりのノックの後、最上階の部屋のドアが荒々しく開かれた。
 咎める代わりに、ボーヒネン博士は入って来た二人の日本人に数枚の書類を差し出す。

「ライダーシステムはなかなかいい。ラボに移籍する気はないかね」
「お断りだ。そもそも、そんな話をしに来たんじゃない」

 矢車が目もくれず破り捨てた紙切れを、影山は少しばかり名残惜しそうな眼差しで見つめる。
 書面には、ラボでの就労契約が記載されていた。

 医療棟に突如ワームが現れたことで、ラボはパニックに陥った。ZECTと違い、ラボのスタッフは戦闘員ではない。今後の襲撃を懸念し、窮地を救った矢車と影山に引き抜きが打診されたのは当然とも言える。

 博士の下でなければ、おそらく喜んでオファーを受けていた。
 だが、ZECTと同じくラボも黒い過去を持つと知った今、ラボに留まるつもりはない。

「あんたが定期的にラボに来るのは、レミングを試すためか。フレイアがいれば、レミングシステムの欠陥は補えるからな」

 矢車の厳しい眼光が博士を射抜く。
 シェランの事件と今回のワームの出現、そしてフレイアの存在。すべて、博士が裏で糸を引いている。

 “黒歴史” となったレミングシステムが今なお執り行われていることを、ラボの人々は知らない。
 フレイアの治療のおかげで、レミングによる人間への影響は回避された。それをいいことに、博士は実験を続けている。

「生き残りのワームを潰してやっているのだ。何の問題がある」
「やり方が気に食わない」

 はらはらと見守る相棒をよそに、矢車は博士のローブの襟を掴んだ。
 剣呑な振舞いに影山は息を飲むが、すぐに博士から離れた矢車の手は、襟に付いた糸くずをつまんでいた。

「ラグナロクで、オーディンは滅びる」

 糸くずを払い、矢車は低く静かな声で宣告する。
 影山には意味が分からずとも、博士は理解したらしい。

「エッダではその通りだ。しかし知略に長けた神が、簡単に死ぬと思うか」

 表情のない博士が初めて唇を歪めた。自身の研究欲のため、娘を利用することに罪悪感などない。
 悪魔のような薄ら笑いに、矢車の背筋が凍る。

 やり方は、気に入らない。
 けれどだからと言って、止める権利は矢車にはなかった。

 その時、アラームの電子音が鳴り渡り、博士が置時計に目をやった。

「さて、もう時間だ。私はトロムソへ戻る。きみたちは、この先どうするね」
「俺たちは……」
「兄貴、もう行こう」

 迷いのない瞳で、影山が矢車のコートを引く。今後のことは、これから考えればいい。
 口角を歪につり上げた博士の視線から逃れるように、矢車たちは無言で部屋を出た。

 いつか、博士とは敵同士になるかもしれない。そんな漠然とした予感を覚えながら。
関連記事



【「009-1」】へ  【フレイアは笑わない(11)】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【「009-1」】へ
  • 【フレイアは笑わない(11)】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。