鬼殺し

鬼殺し(6)

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 俺の弱さが、すべての良くない結果を招いた。

 俺の中で、『お前』はのさばり、再び現れる機を狙い。
 兄貴には、兄弟殺しという十字架を背負わせて。





「……遅かったな、兄弟」

 埠頭で暗い海を眺めながら、矢車は静かに言った。
 かろうじて元の姿に戻っているものの、歩くのも辛そうな影山の状態がいかに酷いか見て取れる。

「頼みがあるんだ、兄貴……」

 矢車の隣に並び立ち、影山は声にならない声で呟く。唇の動きが、死を望む言葉を形作った。
 強い懇願の眼差しに一瞬顔を歪めた矢車は、無情に言い放つ。

「……駄目だ。生きろ」
「俺は、もう俺じゃない。俺の中に……、ワームがいる」
「だったら、お前が自分で倒せ」
「できっこないだろ! 俺自身だ!」

 できないことを承知で要求を突きつけてくる矢車に、影山は腹が立った。

(今になって優しくするなんて、兄貴は自分勝手だ)
『――そう、自分勝手だ』 

(俺は、兄貴ほど強くないのに)
『――そう、俺は弱いんだよ』

 影山の感情に、影山の内なるワームが同意を示す。

「お前の中のワームは、お前にしか殺せない」
「無茶、言うなよ」

 ワームに屈するな、と矢車は告げる。しかし影山は自嘲気味に笑って、首を横に振った。
 闇に飲み込まれそうになる意識を必死に保ち、ホッパーゼクターを握り締める。

「兄貴、一生のお願いだ。だから……」

 せめて、最期は人間として死にたい。

 励ましも慰めも、影山には意味をなさなかった。
 ライダースーツに身を包まれる影山を、矢車は直視できずに顔をそらす。矢車と対になる、同じ姿。それはまさに、己の半身だ。

「さよならだ、兄貴……」

 矢車がゼクターをベルトに装着するのを目の端に映し、影山は別れを口に乗せた。





『さ、おさらいはここまで』

 ワームの “影山” が愉快そうな顔で、影山を振り向く。
 “二人” は、まるで仮想現実のように当時の出来事が再現されるのを、過去の影山の内側から見ていた。

『結局、兄貴は俺を殺せなかった。そして、俺も “俺” を殺せない』

 けらけらと笑う “影山” の声が、頭の中にこだまする。

『ゲームは、“俺” の勝ちだな』
『な……、こんなゲーム俺が勝てるわけないだろっ!』

 驚きと怒りで、影山は言葉が継げなかった。

 あの時、矢車に引導を渡されたはずの影山の体は、トクン、トクンと、まだ鼓動を打っている。
 埠頭で影山は命を取り留め、ワームは影山の身の内に残った。

 ワームの自分自身を消せなければ、負け。
 すなわち、ここで倒せなければ、影山はワームに取って代わられる。

『そろそろ兄貴が帰ってくる時間だ。じゃーな』
『行かせるかよ!』

 影山は、歩き去ろうとする “影山” に飛び掛かると、その体を押し倒し馬乗りになった。
 けれど組み敷かれた側の “影山” は、勝ち誇った口調で告げる。

『実体の意識は、“俺” が支配してるよ。植物状態になってもいいの?』

 自分を殺しても、もう遅い、というワームの警告。
 影山は馬乗りになったまま、ワームの首に回した両手を緩慢な動きで離した。

 周囲の光景が混じり合い、過去と現在が溶け込んでいくのを、影山は呆然と眺める。
 やがて現実に引き戻された時、本来の影山は最初から存在しなかったものとなるのだろうか。

 己の中のワームは、己で払うしかない。

「生きろ」と言った矢車の言葉が、影山の背を後押しした。このままどうせ消えるなら、たとえ無駄でも反撃を試みるまでだ。
 影山は意を決し、折りたたんだナイフを開いた。

『……消えろ……!』

 ワームではなく、自らの首に当てたナイフの切っ先を、影山は思い切り横に滑らせた。
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~ Comment ~

>I様 

そんなことないですよ~(^^)
コメントありがとうございます。

本編見てて、私が思ったのが「急に優しくなるなよ兄貴。何か悪いものでも食べ(自主規制)」・・・だったので、そこをツッコミたかったのでした(^^;
あと2~3回で終わり・・・かな。ハッピーエンド(?)に向けて、ゴーゴー(笑)!

>春巻様 

もったいないお言葉です~、ありがとうございます。
本編の結末がああいう形だったので、妄想しがいがあるといえばあるんですよね。影山視点にすると、ほんと、兄貴が何もできなくなっちゃうので、矢車さんファンとしては、ちょっと書いてて物足りないところもあったりします(^^;

そうですね、鬼といえば『響鬼』v
余談ですが、『響鬼』は毎回すごくテーマ性があって考えさせられて、当時『響鬼』の感想のブログを立ち上げようかと思ったぐらいです。結局やれずじまいでしたが・・・(^^;

『早咲きの花』・・・そっか、先生役ですもんね。
徳山兄貴は、本当に芸達者だと思います(^^)

コメント付けがのびのびになったそのわけは 

更新されるたびに様々な思いが心に渦巻き、文章にまとめるのが難しくなったからです。それほど、このお話は私が引っかかって気になってしょうがなかった事柄をていねいに掬い上げ、展開して見せてくれています。PCの前でひれ伏してるの、見えますか?
「響鬼」の朱鬼のエピソードで語られた、「鬼になるものは心に鬼を住まわせてはならない」がまざまざと蘇りました。
また、非常に珍しいことですが「無力な矢車」が登場しましたね。それでも心を尽くして語りかけ、体を投げ出すその姿に胸が熱くなりました。
ちょうど今日「早咲きの花」を見たものですから、前田先生と兄貴が重なっちゃって・・・年取ると涙もろくなって・・・
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