完全調和な不協和音

完全調和な不協和音(18)

 ←完全調和な不協和音(17) →完全調和な不協和音(19)
vol.19 嬰ハ長調の陽動


 中に入ったカブトゼクターからの合図は、まだない。交渉は、思ったよりも難航しているらしい。
 やがて、耳に付けたインカムから、ガガガッという雑音に続いて田所さんの声が聞こえてきた。

『あー、ただ今マイクのテスト中……』
「聞こえてますよ。そっちの様子はどうですか?」
『現在、第1ポイント通過。途中、影山がトラップに掛かって、指を負傷した』
「トラップ?」

 俺は不思議に思って問い返す。天井裏に、防犯装置の類でもあったのだろうか。

『ネズミ捕りだ』
「……チーズでも拾い食いしようとしたんですか、あいつは」

 俺の脳裏に、ネコとネズミが追いかけっこを繰り広げるあの有名なアメリカのカートゥーンの一場面が思い浮かんだ。

『いや。思うに、人を近づけないようにするための、巧妙な罠だ』

 深刻そうな田所さんの声が返ってくる。

 エアダクトから階と階の隙間に忍び込む人間なんて、ハリウッド映画くらいのもので、そうそういない。そもそも、ネズミ捕りにどんな防犯効果があるのか、ぜひ教えてもらいたい。

『まあ聞け、矢車。実は、俺たちはガタックゼクターを追っていて、とんでもないものを見つけてしまった』
『お札ですよ、札束!』

 いきなり影山の声が飛び込んでくる。

「札束……?」

 ゴート札でもあったのか、と俺は首をひねる。

『これ、みんな万札……スゲーっ!』

 影山の浮かれようから察するに、嘘偽りではなく、相当の金額があったらしい。この部下は、金と地位に弱いタイプに違いない。

「なぜ、天井裏に札束なんて……」
『誰かが隠しておいたんだろうな、ZECTの誰かが』
「幾らぐらいあるんです?」
『1千万は下るまい』

 会話はすべて、俺と田所さんで行われていた。影山は狂喜乱舞していて、話にならない。

 それだけの大金を、こんなところに隠しておくとすれば、一般隊員ではあり得ない。何の金なのか知らないが、持ち主として考えられるのは、ZECTの幹部クラスだろう。

 しかしそれはそれとして、今は別の目的がある。
 田所さんが第2ポイントへと促しても、影山は札束の前からテコでも動かないらしい。
 俺はマイク越しに、影山に活を入れた。

「影山、俺の部下だということを忘れるなよ。俺に恥をかかせるようなマネはするな」
『あ……』

 その言葉に動揺する影山の様子が、伝わってくる。

『そ、そうですね……。俺、どうかしてました。つい誘惑に負けて、ネコババしようだなんて……』

 ネコババする気だったのか、と俺は溜息をつく。それは、しっかり犯罪なんだが。
 ともあれ、田所さんと影山が再び進み出したことを確認し、俺はいったん通信を切った。

 ZECT内部に隠された、多額の現金。
 関わりたくもない、秘密と陰謀の匂いがプンプンする。
関連記事



【完全調和な不協和音(17)】へ  【完全調和な不協和音(19)】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【完全調和な不協和音(17)】へ
  • 【完全調和な不協和音(19)】へ