完全調和な不協和音

完全調和な不協和音(19)

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vol.20 嬰イ短調の結末


『目標ポイントに到達した。我々の真下に、ゼクターたちと岬が見える。どうぞ』

 田所さんの声がインカムから響いた。

「部屋の中の様子は、分かりますか?」
『ああ、あちこち天井に穴が開いてるからな。ネズミがかじったのか。どうぞ』
「そうですね。大アゴのあるネズミが体当たりをかましたんでしょう」
『何、そんな珍しいネズミがいるのか? どうぞ』
「……ガタックゼクターのことですよ。それより、いちいち “どうぞ” と付けるのは止めてください」

 細かい事を気にする男だ、と田所さんはブツブツ言っているが、それはあえて無視する。

『お、何か、ゼクター同士がもめ始めたぞ。矢車、カブトゼクターに盗聴器は付けただろうな』
「付けていませんよ」
『なんだと? お前らしからぬミスだな』
『そうですよ。どうしちゃったんですか』

 田所さんだけでなく、影山まで一緒になってそんな事を言う。
 俺は頭が痛くなってきた。盗聴器が、何の役に立つというのか。仮に、百歩譲って、ゼクターが話せたとして、どうやってそれを理解しろと。

 そのうちようやく、ガンガンと扉を2度叩く音が部屋の中から聞こえた。
 交渉がまとまった合図だ。

(ガタックゼクターが応じたな)

 俺がほっと息をついたのも束の間。

『うわっ、カブトゼクターが扉を破ろうとしてますよっ!』

 と、影山が勘違いをして。

『マズイ! 強行作戦に移るぞ』

 などと、さらにとんでもない田所さんの掛け声が掛かる。

「ちょ、ちょっと待ってください! 今のはゼクターの合図で……」

 慌てて止めようとした俺の声は、天井を破る大音響にかき消された。
 その後に続いたのは、マシンガンブレードを乱射する音。ガタックゼクターが、壁もしくは田所さん以下二名にぶつかる音。
 男たちはともかく、岬さんに何かあったら申し訳が立たない。

『や、矢車さん! 大変です、ガタックが逃げますっ』

 悲鳴のような影山の声が上がる。
 ゼクターは時空を超えてジョウント移動ができる。だから、ガタックゼクターを刺激するなと忠告しておいたのに。

「……やれやれ」

 俺は溜息をついて、最終手段のスイッチを入れた。





 実験室内は、すっかり静まり返っている。
 数分経って、中から扉が開かれ、岬さん、影山、最後に田所さんが出てきた。

「大丈夫ですか、怪我はありませんか?」
「……ええ」

 少し疲れた顔をしていたものの、笑顔を見せる岬さんに俺はひとまず安心する。
 トルーパーのメットをかぶっていた影山は無傷だったが、田所さんの方は田所――いや、多々所々、青アザや傷があるけれど名誉の負傷だ。
 この人は、殺しても死なないだろう多分。

「……これはどういうことだ、矢車。何が起こったんだ?」

 田所さんの手には、動かなくなったカブトゼクターとガタックゼクターが乗っていた。
 二つのゼクターは完全に機能を停止した状態。不思議そうな顔の田所さんに、俺は苦笑した。

「ターディオンです」
「ターディオン?」
「タキオン粒子に相反する粒子です。ジョウント移動時のタキオンとぶつかって、エネルギーゼロになったんですよ」

 田所さんはますます訳の分からない顔をするが、俺もそれ以上は説明できない。科学班の受け売りだから。
 万が一のためにと、カブトゼクターに取り付けたターディオン発生装置は、ダメージが計り知れないので、できれば使うなと言われていた。

 予想以上の効果で、ゼクターは完璧にノックアウト。もしゼクターがこのまま回復しなければ、俺のクビも、危ないかもしれない。

「えへへ。矢車さん、実は三枚取ってきちゃいました」

 能天気な影山のポケットには、三枚の福沢諭吉が覗いている。

「……返して来い」

 この上、部下の横領の責任まで負わされるのは、勘弁して欲しい。
 俺は自分の暗雲垂れ込める未来に、がくりと肩を落とした。



vol.21 変ハ長調の記念日


 仕方ない事だったにせよ、ゼクター二体をしばらく再起不能にしてしまった今回の件で、俺はザビーの資格者候補から外された。つまり、ザビーは日下部に決定した、ということ。
 もともと気乗りしなかったこともあり、むしろ懲罰がそれだけで済んで幸いと言える。

 田所さんは、現在入院治療中の為、ZECTにいない。実に、平和だ。

 清々しい気持ちで出勤した朝に、

「……矢車さん、お金、ないですっ!」

 と影山が切羽詰った形相で迫ってきても、俺はすこぶる寛容だった。

「給料日までだぞ。で、いくら要るんだ?」
「違いますよ! お金、天井裏に返しに行ったら、もう札束なくなってたんです!」
「天井裏……」

 既に記憶の隅に追いやっていた出来事なのだが。律儀にも、影山はネコババした分を戻しに行ったらしい。
 いや、あるいは、さらにくすねるつもりだったのかもしれない。

「だって、矢車さんが返しに行けって……」
「ああ、そうだったな」

 三島さんからどういう命令を受けているのか、基本的に影山は俺の言うことには素直に応じる。
 あの騒ぎで、天井裏が破壊された後だ。金は、持ち主が隠し場所を変えたに違いない。

「あそこで札束を見つけた事、誰かに話したか?」
「え、いえ……。ネットの掲示板に書き込みしたなんて、そんなことは」

 モゴモゴと口ごもる影山。

「……書き込みしたんだな」
「でも、その、匿名だし。俺だってこと、誰も分からないですよ」

 影山の言葉に、俺は大きく溜息をついた。こいつは、ネット社会の怖さを知らない。

「まあいい。返せないんだったら、もらっとけ」

 情けない顔をして1万円札を握っている影山の手を、俺はぐいと押し返す。
 どうせ、あんなところに隠すなんて、まともな金じゃあるまい。一千万もあったなら、その中から数枚減っても、気に留めないだろう。

「ただし、持ち主が分かったら、ちゃんと返せよ」

 一応、釘は刺しておく。
 仮にも善良な一市民として、どこかの政治家のように横領だのゴルフ接待だのを推奨するわけにはいかないので。

「矢車さんが『もらっとけ』と言ったから、今日はネコババ記念日ですね」

 にこりと笑う影山は、また古いパロディを持ち出してきた。
 ――まったくもって、嫌な記念日だ。



※タキオンは公式サイトに載ってますが、ターディオンとぶつかるとどうなるかは「?」です(←いい加減)。興味がある方は調べてみてください(^^;
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