トライアングルハーフ

トライアングルハーフ(4)

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 ZECT総帥であり加賀美新の父親でもある加賀美陸や、三島さん、他の幹部たち、そして大和さんや、織田、俺といった実働部隊の指揮官が一堂に会していた。
 ワームへの対策だけでなく、高まる政情不安をどう解消していくか、が課題だ。

「ワーム壊滅より、水不足の解消の方が重要でしょう。今は、『天空の梯子計画』の早期実現に尽力すべきです」

 俺の提唱する折衷案は、総帥はもとより、ZECTの大方の支持を得ていた。けれど、織田が頑として反対を示す。

「ZECTの使命は、ワームを倒す事だ。水不足の件は、本来の政府に任せるべきじゃないのか? 民衆からは、軍国主義の再来だと批判も強まっている。独裁政治に突き進む気か!」

 熱弁をふるう織田を見ながら、俺は心の内でほくそ笑む。

 そうやって、咆えていればいい。
 正義をふりかざせばふりかざすほど、ZECTのお偉方は眉を顰めるだけなのだから。

「落ち着け、織田。何もワームに対して、手を打たないわけじゃない。ワームは俺たち実働部隊が全力を賭して……」
「それで? そう言いながら、七年間何も変わっちゃいない」

 本来は戦友同士の、大和さんと織田。しかし大和さんの説得にも、織田は耳を貸さない。

「……腐ってる! 結局あんたたちは、自分たちの権力を強めることしか考えてないんだろう」

 織田は、机を拳で叩いた。大きく足音を響かせて退出する織田を止める者は、誰もいない。
 修羅の情報通り、織田の離反は確定だろう。

「申し訳ありません。私がもっと計画において、確定要素を提示できればよかったんですが……」

 毛ほども思っていない口先だけの謝罪を、俺は述べる。

「いや……、直情過ぎるんだ、あいつは」

 ふぅと息をついて、大和さんは額を押さえた。
 俺は同情を示す素振りで、悟られない程度に口の端に笑みを浮かべていた。

 こうして、正論を唱える者がいなくなった後、ようやく、『天空の梯子計画』の正式な発令が決定した。

 この地球に彗星を引き寄せる、『天空の梯子計画』。
 氷と塵でできた彗星は、干上がった地表に海を戻し、同時に、別種の生命体が、誤った方向へ突き進む人類を新たな道へと導いてくれる。

 それこそが、俺の真なる望みだ。





「会議、どうだった?」
「ん? 順調さ」

 マンションに戻った俺を、瞬は明るい笑顔で出迎える。
 俺はわずらわしいマントを取り去り、白い手袋をはずした。

「夕食作っておいたよ。この前、矢車さんが作ってくれた麻婆豆腐、俺もやってみたんだ」
「お前が?」

 心配になってキッチンに向かうと、シンクには焦げた鍋や割れた皿、汚れたままの食器類が山と置かれていた。

「初めて作ったからさ。で、でも味はおいしいよっ」

 慌てて言い訳する瞬に、俺は「後で片付けろよ」と苦笑する。

「どれ、じゃあ、味見……」
「あ、まだダメだってば!」

 小皿に少し取って、口に運ぶ。
 見た目は普通の麻婆豆腐で、豆腐の大きさもまあ問題ない。多少なら味の調整もできると思ったのだが。

「……砂糖、何杯入れた?」
「え、5杯かな」

 大さじ山盛りで、と付け加えられては、もう頭を抱えるしかなかった。

「味見は、したんだよな?」
「うん、もちろん」

 その様子から察するに、瞬にとっては好みの味付けらしい。菓子やら何やら、甘いものが好きだとは知っていたものの、これはさすがに。

「だって、矢車さんが作ってくれたのも美味しかったけど、ちょっと辛かったもん」

 辛いのが当たり前だという言い分は、こちらの勝手な基準。味覚が異なっていれば、それを押し付ける権利などない。

「……これからは、遅くなっても俺が料理するから。お前は何もするな」

 夕食を食卓に運びながら、俺は瞬に釘を刺す。

「どうしてさ」
「慣れない手付きで、怪我でもされたら困る」

 瞬の指に巻かれた絆創膏。麻婆豆腐を匙ですくったまま、俺はその匙で瞬の苦戦の証を指し示した。

「こ、これは、その……」

 さっと指を後ろに隠すが、もう遅い。

「少しの傷でも、破傷風という恐ろしい病気になることもあるんだぞ」
「わ、分かった……」

 このぐらい脅しておけば、二度と包丁には触るまい。
 ひとまず納得して、俺は最初で最後の瞬の手料理をなんとか胃に収めた。
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