トライアングルハーフ

トライアングルハーフ(5)

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 織田を筆頭に、風間や修羅、そしてZECTメンバーの約三分の一が、ZECTに反旗を翻した。
 ネオゼクトという組織を結成して。

「我々の敵は、ワームだろうが。分からずやどもが!」

 報告を受けた大和さんは、廊下の壁を思い切り拳で打った。壁にヒビが入りそうなその剣幕に、俺の後ろにいた瞬がビクリとする。

「ネオゼクトだと? この上、人間同士が戦って何になる」
「ええ。我々の敵は、ワームなのに」

 従順な部下を演じる俺は、大和さんに同意を示す。

「……どうして、織田さんたちはZECTを抜けたんですか?」

 おずおずと瞬が口を開いた。
 黙らせようとしたが、大和さんは瞬の質問に興味を持ったらしい。ほぉ、という顔で、瞬の正面に回る。

「そうだな。いつまで経ってもワームを倒せない、弱いZECTに嫌気が差したんだろうさ」
「ZECTは、ワームを倒すための組織なんですか?」
「もちろんだ」

 大和さんの表情は、何を当たり前なことを聞くのか、と言わんばかりだったが。
 俺としては、「かつては、そうだった」と訂正したい。

「織田たちは、ZECTがトップに立つのが気に入らないらしい」

 織田と懇意だった大和さんの手前、俺は言葉を選んで、やんわりと言う。
 実際のところ、彼らはただの反乱分子に過ぎない。人類を救うためのプランなど、何も持たないのだから。
 信念だけで、世界を変えられるはずはない。

「くそっ、ワームに壊滅的な打撃を与えることさえできれば!」

 大和さんはZECTへの強い忠誠心から、苛立たしさをあらわにした。瞬はといえば、その発言に衝撃を受けたらしい。

「ワームと共存はできないんですか? ワームだって、生きる場所が欲しいのに」

 瞳に強い光が灯る瞬に気づき、俺は、まずい、と思った。

「奴らは侵略者だぞ!? 殺るか殺られるかしか、あり得ない」
「そんなの……っ」
「すみません、大和さん。私たちは、これから訓練がありますので」

 険悪な雰囲気をかもし出す二人の間に割って入り、俺は瞬の腕を引く。何か言われる前に大和さんに一礼をすると、瞬を連れて足早に歩き去った。

「……った、矢車さん、痛いってば!」

 強引に引っ張られた瞬は、抗議の声を上げる。
 大和さんから見えない位置まで移動した後で、俺はその手を離してやった。

「ひどいや、手の跡、付いちゃってるよ」
「バカ言え」

 わざとらしく腕まくりをして、赤くなった腕を見せ付けるものだから。

「……悪かった」

 とりあえず謝っておいて、瞬の鼻先に指を突きつける。

「無事でいたかったら、事を荒立てるな。大和さんの言う事は聞き流していればいい」
「だけど……!」
「いきがるな。そのうち、全て上手くいく」

 言い聞かせるように、ゆっくりとそう告げた。
 瞬の気持ちは分かる。感情を隠せないのは、まだ幼い証拠だという事も。
 だが、謀り事は、黙っていてこそ、価値があるものだ。

「ZECTがワームを倒すための組織だなんて、矢車さん、言わなかったじゃないか!」
「治安を守る組織だと言ったはずだが」

 珍しく、瞬が俺に食ってかかる。

 今や立法も司法もZECTの影響下にあり、ワーム壊滅だけがZECTの役割ではない。
 腐った世界から膿を出し、完璧な新世界を創造すること。俺がZECTに身を置く目的は、そこにある。

「ワームと戦うとこだって知ってたら、俺……入らなかったよ」
「だろうな」
「じゃ、俺をだましたの?」
「……そうじゃない」
 
 どう説明したらいいものか、と俺は溜息をつく。
 もとより瞬を戦場に送り出すつもりはなかったし、『天空の梯子計画』が無事に終わるまでは、ZECTにいた方がかえって安全だと判断したからこそ、瞬を入隊させた。

 “灯台下暗し” を説明しても、理屈では割り切れないかもしれない。特に、瞬にとっては。

 『天空の梯子計画』の真の意図は、たとえ瞬にも明かすことはできなかった。ZECT総帥と限られた一部の者のみが知る、トップシークレット。
 真実が漏れれば、大和さんですら、ネオゼクトに寝返るかもしれない。

「警察だって、人間を倒すためにあるわけじゃないだろう。それでも、人間を捕まえる。それと同じことだ」
「どこが同じさ! 矢車さんのウソツキ!」

 叫んで、瞬は駆け出して行く。その後姿を目で追ったまま、俺は小さく呟いた。

「……早く帰っても、メシだけは作るなよ」
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