聖夜は静かにふけて

聖夜は静かにふけて(1)

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 クリスマスよりも数日早く、兄貴はそのプレゼントを俺にくれた。

「え、ほんと? マジで? お金、大丈夫なの」
「そのために、仕事してただろうが」
「そりゃ、そうだけど……」

 俺はあまりの事に、びっくりして息が止まりそうになってしまった。

 フィヨルドに連れて行ってくれる、と以前から約束してた兄貴。
 ノルウェー最大のソグネフィヨルドはオスロからそれほど遠くはないとはいえ、観光名所なわけで。費用もそれなりに掛かるのに、兄貴はその手配をしてくれたらしい。

 列車でフロムというところまで行き、そこから船でフィヨルドを巡る。
 旅行会社のパンフレットの景観写真は、さすがに壮大で美しい。真冬は、雪や氷河がひどく寒そうではあるけれど。

「迷子になったら、間違いなく凍死だからな。気をつけろよ」
「そんなバカ、いないよ」

 兄貴のからかいを、余裕で受け流す。俺にとっては、とにかく楽しみだった。

 オスロからミュルダールまで鉄道で行き、そこからフロム鉄道に乗り換えて、と、兄貴は旅行の手順を細かく教えてくれるが、ほとんど覚えちゃいない。
 兄貴に付いていけばいいだろうと、気楽な気持ちでいた。

 あの時に、もっとちゃんと聞いておけばよかった。
 後悔は、いつも後でやってくるものなのだ。





 純白の雪景色を車窓から眺めながら、ミュルダールの駅に着いて。そこから、フロム行きの列車に乗り換える。
 観光客で混雑するホームで、兄貴とはぐれてしまったことが、悪運の始まり。
 飛び乗った列車に兄貴の姿はなく。その列車が、どうやらフロム行きではないらしいと気付いた時には、すでに列車は出発した後だった。

『この列車、どこ行きですか?』
『ベルゲンだよ』

 カタコトのノルウェー語を駆使して乗客に聞いてみると、不思議そうな顔をされた。
 すでに乗り込んでから問うのも、我ながら間抜けだったと思う。

 一泊旅行の予定だった為、荷物はもともとそんなに持ってきてはいなかった。
 所持品は、衣服と地図とわずかなお金だけ。兄貴と連絡を取る方法が、ない。

 通り過ぎる山々や湖を、俺はひどく焦心して目に映していた。今や、自然を楽しむどころではない。
 途中いくつかの駅に停まったものの、どれも小さく寂しい駅で、周りは山と雪の氷雪地帯。こんなところで降りたら、それこそ氷山のマンモスみたいに氷漬けになってしまう。

 約二時間の旅を終え、俺はぽつんとベルゲンに降り立った。駅舎もわりと大きな、ベルゲン駅。

「……どうしよう」

 ここなら最悪、夜明かしができるかもしれないと思いつつ、俺は駅舎の隅に腰を下ろした。

 きっと、兄貴も俺がいないことに気付いて、探してくれているはず。
 フロム鉄道に俺が乗っていないと分かれば、恐らくこのベルゲン行きの列車だと見当を付けるだろう。

「兄貴、追っかけてきてくれるかな……」

 腕組みをしながら、俺は思案する。問題は、そこだ。

 兄貴がこちらに向かっているのなら、俺が戻ればすれ違いになってしまう。ここで待っている方がいい。
 とはいえ、もし兄貴もそう考えて、向こうで待っていたら。

 予想は、五分五分。
 午後三時過ぎには、日が沈む。昼の時間が短いこの季節、ぐずぐずしている暇はない。

「表なら戻る、裏なら残る!」

 俺はポケットから50オーレの硬貨を取り出すと、指でピンと上に弾いた。
 くるくる回って落ちるコインを左手の甲で受けて、右の掌で蓋をする。手を開いて見ると、コインは表だった。

「……まあ、あの兄貴が、追いかけてくるはずないよね」

 自分自身を納得させるように、呟く。

 俺たちの行き先はフロムなわけだし、兄貴がわざわざベルゲンに来るのは合理的じゃない。
 きっと怒りのオーラを発して、ミュルダールかフロムでじっと俺を待ってる。考えるのも恐ろしいけれど。

「よし! 戻ろう」

 ミュルダールに向かう反対列車に、俺は発車時刻ギリギリで乗り込んだ。




※あれ、これって「ホーム・アローン」じゃ・・・(笑)。
イベントものは時期をはずすと悲しいので、取り急ぎこちらを先に書きます。シリアス続きだったので、ちょっとバカっぽく甘めになるかと(^^;
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