完全調和な不協和音

完全調和な不協和音(20)

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vol.22 変イ短調の新年


 ガタックゼクターの人質籠城事件だの、天井裏の隠し金だの、いろいろとバタバタしているうちに、いつの間にか年が明けてしまった。

 早くも1月。あと少しで『響鬼』が終わって『カブト』が始まるというのに――いや、それはこちらの話。
 ギリギリまで情報は解禁されないのが、この業界だ。

 それはともかく、前後不覚に陥ったカブトゼクターとガタックゼクターは回復し、カブトの資格者は影山が言うところの「主役が務まるだけのイケメンではない男」に決まった。

 さすがにカブトゼクターも、ごねている時間はもうない。
 しぶしぶながらも、ZECTが決めた男を資格者として認めたらしい。

「……また、遅刻か」

 俺はZECTの壁に掛かった100円均一の時計を見て、溜息をついた。
 某100円ショップで田所さんがまとめ買いしたにしては、正確に時刻を示してくれて重宝している。

 部下たちから離れ、階段の踊り場に出ると、俺は携帯を取り出し影山に電話をかけた。
 12回目のコールでやっと出た影山は、あからさまに寝ぼけ声だった。

『あ、あはようございます。新年明けまして、謹賀新年で、ことよろです』

 何を言いたいかは分かるが、文章になっていない。しかし今は、正しい日本語について議論している場合ではなかった。

「影山、遅刻だ。早く出勤しろ」
『ふぇ? だって、正月じゃないですか』
「ZECTに、盆も正月もないんだよ」

 少々やさぐれて、俺は携帯越しに呟く。この仕事に、世間並みの長期休暇は期待するな。

『えっ! ま、まさか元旦から勤務なんですかっ?』

 ようやく目が覚めたらしい影山が慌てふためいて大声で叫ぶものだから、声割れがひどく、耳が痛い。

「ZECTの就業規定をよく読め」
『じ、じゃあ、忌引き休暇もないとか?』
「いや、忌引きはあるが……」

 反射的に答えてから、俺は眉を寄せた。正月早々、このタイミングで忌引きの話をする必要があるのか。

「とにかく、早く来い。1時間以内に出勤しなければ、上に報告する」
『うわ、そ……そんなっ!』

 影山が言い訳する間を与えず、プツリと携帯を切る。いつもアメばかりではなく、時としてムチも必要だろう。
 部屋に戻ろうとした俺は、もうひとり正月気分丸出しの人物に呼び止められた。

「矢車! あけおめ、ことよろだ!」
「田所さん……」

 この際、正月特有の略語は大目に見よう。だが、その格好は。

「なんで、羽織袴なんて着てるんです」
「なんでって、元日なんだし。どの正月番組でも、出演者は着物を着てるだろうが」
「ここは、芸能界じゃありません」

 黒紋付羽織袴姿の田所さんを見ていると、俺までヘンになりそうで。
 マスクド・ライダー計画の事を考えれば、正月で浮かれている現状じゃないはずなのに。誰も彼も、緊迫感がなさ過ぎる。

「それより、矢車。今年は戌年だよな?」

 ふいに田所さんが聞いてくる。

「え? そうですが」
「皆、子年だと言ってるぞ」
「それは勘違いです。今年は、戌年です」

 きっぱりと俺は告げた。
 もし、子年だと思っているのなら、それは勘違いだと、ここで訂正しておく。

 今年は、誰がなんと言おうと、まだ戌年なのだということを念頭に置いておいてもらいたい。
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