完全調和な不協和音

完全調和な不協和音(21)

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vol.23 ロ長調の事実


「……遅れてすみません!」

 バタバタと、きっかり1時間後に影山はZECTに出勤してきた。
 ついでに言えば、「きっかり」ではなく「かっきり」という人も多い。俺は「きっかり」派だが、本当にそんな事はどうでもいい。

 慌てて身支度をしたらしく、髪は乱れているものの、影山の服装はまともだった。
 スーツでもネクタイを締めていないのは、いつもの通り。

「なんだ。羽織袴で来なかったんだな」

 冗談のつもりで、俺はそう言った。これで、もし影山まで田所さんのような格好だったら、張り倒していたかもしれない。

「やだな、矢車さん。俺だって、そこまで常識なくないですよ」

 決まり悪そうに、影山は笑う。
 この台詞をぜひ、田所さんにも聞かせてやりたい。

「着物の着付けしてたら、1時間で来れるはずないじゃないですか」

 影山の言葉には、無念さがにじみ出ていた。
 俺が1時間以内という指定をしなければ、やはりこの部下も着物で来るつもりだったらしい。
 俺は頭が痛くなったが、まあいい。結果オーライだ。

「そうだ、そこでさっき三島さんに会った時、お年玉もらっちゃいました」

 嬉しそうに、茶色の紙幣をピラピラと振って見せる影山。

「お年玉? どうして」
「さあ。今年も頼む、って、俺のポケットの中に、裸の1万円札を入れていってくれました」

 貯金しようかだの、ゲームソフトを買おうかだのと悩む影山は、本当にその金を「お年玉」と解釈しているらしい。
 いい年をして、お年玉のはずがない。三島さんが影山を囲い込もうとしている事実を考えれば、それは裏金だろう。

「……三島さんがお前に頼んでいる事というのは、何だ?」
「矢車さんの行動を報告することです」

 単刀直入に聞いた俺に、あまりにもあっさり影山は答える。
 やはり、日下部だけでなく、俺の方もマークされていた。ZECTの秘密を探っている日下部を、組織が警戒している以上、ZECTには何か知られたくない裏の顔がある。
 ザビーの資格者になった日下部に、何事も起こらなければいいが。

「……なんか、俺、マズイ事言っちゃいました?」

 眉を顰めた俺の顔を、影山は心配そうに覗き込んでくる。

「いや、そうじゃないんだ。ただ……」
「ただ?」

 無邪気に聞き返す影山に罪はない。
 たとえ、俺と日下部がコンタクトを取り合っていることが、この部下によって三島さんに筒抜けになっていようと。影山は何も知らずに、命令に従っているだけなのだから。

 注意を払っていたつもりでも、影山の前だとひどく無防備になる自分に、今更ながら気付いた。

「けど俺、まさか、三島さんも矢車さんのファンだなんて知らなかったな」

 影山に罪は、ない。
 罪はないのだが、俺はまた妙な勘違いをしているこの大バカ者を張り倒してやりたい衝動に駆られた。
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