完全調和な不協和音

完全調和な不協和音(24)

 ←完全調和な不協和音(23) →完全調和な不協和音(25)
vol.26 ハ短調の候補者


「――それで、田所さん。ザビーはどうなるんですか?」

 やや唐突ではあるが、先手必勝。間髪入れずに、俺は3話目の、もとい3度目の正直で本題を切り出した。
 いきなり現実に引き戻され、田所さんや影山は理解が追いつかなかったらしい。

「なに。ザビーの登場は第7話だ、まだ時間がある」
「えっ、撮影はもっと早いじゃないですか!」

 何が7話で、何が撮影だか分からないが、田所さんと影山はそんな事を口走る。
 よほど混乱しているに違いない。

「……つまり、資格者の件は白紙に戻ったということですね」

 そう確認を取ると、田所さんは「うむ」と頷いた。

 “ザビーに関わった者は、破滅する――”
 日下部の死とともに、その怪しげな噂はますます広まるだろう。精鋭部隊シャドウを率いるZECT直属のライダー、そしてシャドウ隊長という地位は魅力でも、リスクが大き過ぎる。
 好き好んで資格者に志願する者などいないと予想したのに。

「今回、ザビーの希望者は7人集まった」
「えっ?」

 田所さんの台詞は、ひどく意外だった。

「この中から数々の試練を勝ち抜き、優勝した者だけが、ザビーにアタックする権利を得る」
「『ラブアタック』ですか」

 俺は呆気に取られて呟く。
 『パンチDEデート』や『フィーリングカップル5対5』に比べて、幾分マイナーかもしれない大昔の恋愛バラエティ番組にそういう類のものがあった。

「矢車さん、せめて『ねるとん』て言わなきゃ。歳、バレますよ」

 横から影山が口を挟む。
 ねるとんもかなり昔であるし、ともかく余計なお世話だ。

「では、7人のうちの誰かがザビーの資格者に……」
「いや、8人だ」

 数も間違えるほど平静さを失っているのだろうか。先程7人だと言った田所さんが、もうひとり付け加えた。

「その7人は、あくまで挑戦者に過ぎん。ZECTが推す資格者は……矢車、お前だ」

 苦々しげに通達する田所さんは、有無を言わせない雰囲気をまとっている。
 俺自身、もしかしたらと思っていたからこそ、田所さんにザビー候補者の件を聞いたのだが。

 以前の俺なら、なんとしても断っていた。けれど、ザビーになることが、ZECTの陰謀を暴く近道なら。
 日下部が果たせなかったことを引き継ごうと決めた。日下部の無念に報いるために。

「そう……ですか」

 曖昧に同意を示す俺を、影山は目を輝かせて見つめている。

「じゃあ、矢車さんも、フルコースディナーの早食い競争とか、水中での息止め競争とかやるんですよねっ」
「誰がやるか!」

 この部下は、俺がザビーの資格者になることを喜んでいるのか、それとも俺がフルコースディナーを早食いするのが見たいだけなのか。
 おそらく後者じゃないかと思うものの、もはや問いただすような状況でもない。
関連記事



【完全調和な不協和音(23)】へ  【完全調和な不協和音(25)】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【完全調和な不協和音(23)】へ
  • 【完全調和な不協和音(25)】へ