スポンサー広告

スポンサーサイト

 ←完全調和な不協和音(24) →「キバ」第3話
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。



【完全調和な不協和音(24)】へ  【「キバ」第3話】へ
  • TB(-)|
  • CO(-) 
  • Edit

完全調和な不協和音

完全調和な不協和音(25)

 ←完全調和な不協和音(24) →「キバ」第3話
vol.27 変イ長調の告別式


 厳寒の最中、日下部の告別式がしめやかに行われた。
 ZECTからも、幹部役員、書記、会計、人事、広報係と、そんな部署があったのかと、俺も知らないような連中が参列していた。

 暗く沈んだ顔の、日下部の親族や友人たち。その中のひとりに、俺は気を引かれた。
 作務衣姿に下駄ばきで、なぜか片手に豆腐を持った若い男。服装から察するに、本当に弔問者なのかも怪しく、男はじっと棺の方に目を向けている。変質者だろうか。

「矢車!」

 ふいに呼ばれ、そちらを振り向くと、声の主は別の変質者、もとい田所さんだった。

「受付は済ませたか?」
「いえ、まだです」

 答えてから、先程の男を目で探したが、もうどこかに行ってしまったらしい。

「今日は一段と冷えるな」

 身震いしながら受付に進もうとする田所さんを、俺は呼び止めた。

「田所さん、コートを脱いでください」
「なんだと? こんなところで裸になれというのか! 二人きりの時にしてくれ」

 冗談だと分かっているものの、たとえ冗談でも勘弁して欲しい台詞だ。

「全部脱げなんて、言ってませんよ。そのコート……毛皮は駄目です」

 俺は溜息をついて説明する。葬儀で毛皮はタブーなのに、なんでまたミンクのコートなど似合わないものを着込んでいるのか。

「そうなのか? 会場は冷えるから、と三島さんがこれを貸してくれてな」
「三島さんが……?」

 俺は眉を顰めた。三島さんが葬儀のマナーを知らないはずはない。

「おっと、いかん。遅れるぞ、矢車!」

 田所さんは無頓着にコートを脱ぐと、受付へと俺を引っ張っていく。
 その時、パタパタと慌ただしい足音が耳に入った。

「うわっ、遅刻だ、遅刻!」
「……影山」

 黒い学ランを着た影山の姿に、俺は開いた口が塞がらなかった。オプションとして、始業のチャイムでも聞こえてきそうな気がする。

「お前、その格好は……」
「あ、これですか。俺、喪服持ってなくて。確か、学生服でもいいんですよね」

 気まずそうに頭をかく影山。
 しかし、そもそもの認識が間違っている。それはあくまで、学生限定だ。

「遅いぞ、矢車」
「置いてっちゃいますよ!」

 いっきに脱力した俺より先に、田所さんと影山は既に記帳を済ませている。
 この連中にだけは、言われたくなかった。

 芳名帳に記帳しようとして、すぐ上に書かれた田所さんの名前に目を留める。と、なぜか 『田所修一、』の最後に “、” が付いている。
 「自分は未完だ」という意味から、俺たちの大先輩であるあの俳優が改名したように、この人も何か思うところがあったのだろうか。

「田所さん。この “点” は、何ですか」
「ん? インクの汚れじゃないか」

 日下部の悲劇を転機に、田所さんがまともになってくれたら、どんなに有難いかしれない。
 だが、俺の淡い期待は、やはりと言うか、もろくも崩れ去り。

「矢車さん、実は香典で今月ピンチで。給料日まで、1万貸してください」

 こっそりと影山に耳打ちされ、俺はますます滅入る心持ちで、告別式に参列した。

(日下部……お前は、ZECTの秘密をつかんだのか?)

 組織を探るための唯一の同志だった日下部。
 お前がいない今、俺はもう、ひとりで戦うしかなさそうだ。
関連記事



【完全調和な不協和音(24)】へ  【「キバ」第3話】へ

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【完全調和な不協和音(24)】へ
  • 【「キバ」第3話】へ
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。