完全調和な不協和音

完全調和な不協和音(26)

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vol.28 嬰ト短調の変調


 ついに本編のTV放映が始まり――ではなく、マスクド・ライダー計画が、動き始めた。
 カブトの資格者だった男は非業の死を遂げ、カブトゼクターはずっと探していた運命の相手とめぐり合ったという。

 想い続けていれば、願いは叶う。
 しかし 「ZECTの冬ソナ」と称された資格者交代劇は、ZECTはもとより、スタッフ及び視聴者に、あっという間に忘れ去られた。
 哀れなのは、カブトの元資格者。初登場でいきなり死んだ為、誰の印象にも残らないという悲惨な結末だった。

「加賀美もカブトになりたかったらしいけど。あいつじゃなかったんだ」

 よかった、と言わんばかりに影山が笑う。
 加賀美新は、田所さんのチームに新たに配属された新人で、どうも影山とはウマが合わないらしい。

「矢車さん、もしかして今のシャレですか?」
「そのつもりはない」

 変なところで、影山が反応する。

「最近、全然田所さんの姿見ないし……。せっかくのトリオも解散ですね」

 影山が寂しそうに息をついた。
 誰と誰が、いつ、何のトリオを結成したというのか。けれど、影山があまりにも元気がない様子に、俺は追及の言葉を飲み込んだ。

「仕方ないだろう。田所さんは、加賀美の指導で忙しい身だから」

 言いながら、俺も思いを馳せる。
 日下部の葬儀以来、俺たちは田所さんと顔を合わせていない。決して毎日会いたい人ではないものの、こう疎遠になると、確かに寂しい気はする。

 同じZECT内にいて、全く会わないというのも妙な話で。実際、何度か遭遇しかけた場面はあっても、ことごとく、すれ違う。
 廊下で田所さんの声が聞こえ、声をかけようとすると、部下に呼び止められたり。帰り道で待っていると、その日はなぜか、三島さんと一緒になったり。
 まるで告白しようと相手を待ち伏せている女子校生のようだが、断じてその気はない。

 先日などは「ZECTの社食の餃子に農薬が混入」というデマが流れ、ギョウザ定食を頼んだ田所さんはパニックに陥っていた。
 近づく暇も、話しかける余裕も、あったものじゃない。

 ここまで重なると、何者かの作為を勘繰りたくなる。
 誰かが、俺と田所さんを引き離そうとしているのかもしれない、と。

「矢車さんも寂しいでしょうけど、これからはコンビでがんばりましょう!」

 握りこぶしを固めて、決意を示す影山。漫才のコンビなら、金輪際願い下げておく。



vol.29 変ホ長調の任命


 覚悟していたことが、とうとう現実のものとなった。

 日下部の死後、ザビーの志願者たちは『ラブアタック』まがいの過酷な勝負を繰り広げたのだが、最終的に “かぐや姫”、もといザビーゼクターが「NO」のスイッチを押したそうだ。
 必死に勝ち抜いた挑戦者を、自分の好みであっさり奈落の底へ落としてしまうこの番組のあり方に、視聴者から非難の声が上がったのも無理はない。

 いや。問題は、そんな番組の事情ではなく。

 ザビーゼクターは、資格者として俺を選び、俺は胸にザビーの紋章を受け入れた。
 そして、次第に俺自身も変化していった。まるで、ザビーの魔性にとり憑かれたかのように。

「あ、矢車……さん?」
「なんだ」

 何日か振りで顔を合わせた影山が、怪訝そうに俺を見る。
 ザビーの資格者として、しばらく俺は特別訓練を受けていたため、自分の隊からも離れていた。

「どうした、変な顔をして」

 影山があまりにもぼけっとしているものだから、俺はできる限り口調を柔らかくした。その甲斐あって、ようやく影山も口元を緩める。

「いえ……。なんか、ちょっと矢車さん、前と感じが変わったな、って思って」
「そう、かな」

 部下に指摘され、苦笑する以外なかった。自分でも、分かっている。

 日下部が命懸けで調べていたZECTの陰謀も、今となってはどうでもよかった。ZECTが善でも悪でも、俺は組織の命令通りに動くしかない。
 精鋭部隊シャドウの隊長であり、ZECT直属のライダーとなった以上は。

「聞きたいんですけど……」

 おずおずと影山が上目使いで話しかけてくる。

「そう怯えるな。前と同じでいい」

 ポンと肩を叩いてやると、影山はその俺の手をガシッと取る。
 らしからぬ大胆な行動に少し驚いていると、

「矢車さん、まだ『完全調和』の精神は捨てていませんよねっ?」
「え?」

 詰め寄る影山に、俺は戸惑った。
 なんだって、いきなり核心に触れる質問をするのだろう。まだTV画面にはザビーさえ登場していないのに、33話以降の話をされても、混乱するだけだ。

「……当たり前だろ。完全調和を捨てることはない。俺が、俺である限り」
「よかった、それでこそ矢車さんです!」

 それは、俺の台詞だった気がするんだが。
 ついでに言えば、英語訳が「That's my Kageyama!」 だった為、物議をかもした台詞だと記憶している。

「じゃあ、その黄色いスーツと黄色い靴と、その黄色づくめは止めてくださいねっ」
「え?」

 本日二度目の疑問符。言われてみれば、いつの間にか俺は黄色を好むようになっていた。
 身に付けるものまでその嗜好が及んでいることに、今更ながら気づく。

「そんなに変か、この色」

 自分のスーツを見回しながら、首をひねった。どうも、ザビーのせいでセンスまで麻痺しているようだ。

「ネクタイぐらいはいいですけど。上着とズボンは最悪です! しかも、黒い縞まで入ってるし」

 ズバズバと斬る影山に、遠慮というものはないらしい。

「その格好、ぜんぜん調和してない……」

 影山がそう言ってうつむいたので、俺はなんとか事情が飲み込めた。
 一応、俺の変化を心配してくれたと受け取るべきか。決して、俺のファッションセンスにケチを付けているわけではなく。

「あ、でもハンカチは黄色でいいですよ!」

 影山は、顔を上げて笑顔を見せる。
 それは『幸福の黄色いハンカチ』だから、と。
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